増収増益のソフトバンク、AI時代のインフラ計画を披露--次の3年はモバイル回復に重点

 ソフトバンクは5月10日、2023年3月期の通期決算を発表。売上高は前年度比3.9%増の5兆9120億円、営業利益は前年度比9.8%増の1兆602億円と通期での増収増益を達成した。

 主力のコンシューマー事業で政府主導による携帯電話料金引き下げの影響を強く受け、営業利益が前年度比28%と大幅に減少したものの、PayPayの子会社化に伴う再測定益を2948億円計上したことで、目標通り利益1兆円の達成に至った。

 同社は2022年度で、現在はソフトバンク 取締役会長を務める宮内兼氏が社長だった時代に策定した、中期経営計画を終えた。ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOを務める宮川潤一氏は、同日に実施された決算説明会で新しい3カ年の中期経営計画と、同社の長期的ビジョンについて説明した。

決算説明会に登壇するソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏
決算説明会に登壇するソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏

 ソフトバンクは、今後あらゆる産業のデジタル化を進めるため、次世代社会インフラを提供することを打ち出している。その実現に向け宮川氏は社長就任以降、3つのフェーズに分けて事業を進めているという。

 そのうち2022年度までの3年間を「第1フェーズ」と位置付け、中期経営計画の達成に加えデジタル化の促進、そして次世代社会インフラの実現に必要な技術の研究開発を進めてきたとのこと。さらに、次の中期経営計画の対象となる3年間は「第2フェーズ」、その先となる2026年度からの3年間を「第3フェーズ」と位置付け、第3フェースで次世代社会インフラの基盤を完成させたいとしている。

長期ビジョンの実現に向けたロードマップ。2022年度までが「第1フェーズ」となり、2026年度からの「第3フェーズ」で次世代社会インフラの基盤を完成させたいとのこと
長期ビジョンの実現に向けたロードマップ。2022年度までが「第1フェーズ」となり、2026年度からの「第3フェーズ」で次世代社会インフラの基盤を完成させたいとのこと

 宮川氏は、次世代社会インフラの必要性について、昨今注目が高まっているAI技術の驚異的な進化を挙げる。今後AI技術が本格的に社会や産業に入り込み常識を大きく変えるとする一方、その裏で大量なデータが生成され、それを処理するため2050年には現在の2000倍の計算能力と、大型火力発電所4500基分の消費電力が必要になるという。

 しかも現在、その計算処理を担うデータセンターと電力消費は都市部に集中していることから、計算量が増えることで今後電力が不足し、停電を起こすリスクが出てくるという。従来のコミュニケーションを主体としたインフラでは支え切れないと宮川氏は話し、データセンターを地方にも設置して計算処理と電力消費を分散するなど、インフラの構造を根幹から作り直す必要があるとしている。

AIでデータ量と消費電力が急増する今後に備え、データセンターを全国に分散化と再生可能エネルギーによる電力の地産地消を図るとのこと
AIでデータ量と消費電力が急増する今後に備え、データセンターを全国に分散化と再生可能エネルギーによる電力の地産地消を図るとのこと

 さらに、分散化されたデータセンターを平準化して動作させることにより、仮想的な1つのデータセンターとして扱う「超分散コンピューティング基盤」(xIPF)を実現。災害などで特定の場所のデータセンターが止まっても、他の拠点で代わりに処理をして社会活動を止めない基盤の構築を目指すとしている。そのxIPFの上でAI機能を搭載したクラウドをサービスとして提供し、AIと共存する社会を実現するインフラ事業者になるというのが、ソフトバンクが宮川氏の体制で描く長期ビジョンとなるようだ。

全国に分散させたデータセンターを平準化して仮想的に1つのデータセンターとして機能させるxIPFを実現し、その上でAI関連のサービスを提供することがソフトバンクが描く長期ビジョンとなる
全国に分散させたデータセンターを平準化して仮想的に1つのデータセンターとして機能させるxIPFを実現し、その上でAI関連のサービスを提供することがソフトバンクが描く長期ビジョンとなる

 このビジョンの内容を見ると、光技術により大幅な低消費電力を実現する、NTTグループが打ち出す「IOWN」構想と方向性が近い部分がある。既にKDDIがIOWNへの参画を表明しているだけあってソフトバンクの動向が注目される所だが、宮川氏は政府の会合でNTTの代表取締役会長である澤田純氏らと議論していることを明らかにしている。

 その上でIOWNの構想について、宮川氏は「非常に評価している」と回答。「彼らがコンペティター(競争相手)という角度ではなく、一緒に共創をしていかないと明日の日本はないつもりでやっている」と話し、国が主導して設立された半導体製造会社のRapidusへの出資も含め、日本企業が協力・連携していく必要性を訴えた。しかし、IOWNへの参画に関する具体的な回答はしていない。

ドコモを超えた5Gの評価に「嬉しい」

 では、その第2フェーズとなる次年度からの中期経営計画では何を実現しようとしているのか。宮川氏によると、デジタル化のさらなる拡大と次世代社会インフラの事業化に向けた技術の実装を推し進めることに加え、携帯電話料金引き下げで大きなダメージを受けた経営基盤の再構築に取り組むとしている。

 とりわけ宮川氏が「こだわりたい」と話したのが、純利益だ。2022年度はPayPayの子会社化を除き3361億円にまで落ち込んだ連結での純利益を、3年後の2025年度には料金引き下げ前の水準を超える5350億円にまで持ち直したいと宮川氏は話している。

 その実現に向け、大きな減益要因となったコンシューマー事業ではモバイルサービスの売り上げ、利益ともに3年で反転を目指すとのこと。宮川氏は、その道筋は既に見えていると話しており、料金引き下げ影響によるARPUの減少ペースが落ちてきたのに加え、足元でユーザーが増加していることから、今後顧客増加の影響がARPUの減少を上回って増益に転じる時期が来ると見ているようだ。

中期経営計画では、料金引き下げで受けたダメージから回復するべく、モバイルサービスの売り上げ、利益の反転を目指していくという
中期経営計画では、料金引き下げで受けたダメージから回復するべく、モバイルサービスの売り上げ、利益の反転を目指していくという

 それに加えて付加価値サービスの拡充と、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアロン(SA)運用への移行により、その特徴を生かしたサービスを創出することでさらなるARPUの改善を図りたいとしている。

 同社の代表取締役副社長執行役員兼COOである榛葉淳氏によると、毎月10~20GBくらいの通信量を消費し、「ソフトバンク」と「ワイモバイル」のどちらのブランドを利用するか悩んでいる人が増えていることから、付加価値サービスの強化などによってソフトバンクブランドの強化を図り、ARPUの向上につなげたい考えのようだ。

 一方、設備投資に関して、同社は5Gの面展開がおおむね完了しており、今後はトラフィックに応じたスポットでの整備と5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアロン(SA)運用への移行などが主になることから、2023年度以降の3年間は3300億円水準でコントロールしていくとのこと。そのうち次世代社会インフラ基盤に関する投資額は「正直ほんのわずか」(宮川氏)であり、本格的な投資は第3フェーズの2026年以降になるとのことだ。

ソフトバンクは5Gの面展開をおおむね完了させたことから、今後はトラフィックに応じたスポットでの基地局整備と、5G SAへの移行に対する投資が主になるとのこと
ソフトバンクは5Gの面展開をおおむね完了させたことから、今後はトラフィックに応じたスポットでの基地局整備と、5G SAへの移行に対する投資が主になるとのこと

 そのモバイルネットワークに関して、英国の調査会社であるOpensignalの最新の調査で、日本の5GネットワークでソフトバンクがNTTドコモを上回り、最も高い評価を獲得したことが話題となった。宮川氏は「なかなかほめて頂けない会社なので、良くなったことは嬉しく思っている」と率直に喜びを示す一方、4Gから5Gの移行は「なかなか難しい」とも話している。

 同社では4Gから転用した700MHz帯と1.7GHz帯を主に活用し、そこに5G向けの3.7GHz帯を組み合わせることで他社に先駆けて5Gの面展開を進めてきたが、その中で5Gは、3Gから4Gへ移行する時よりも難しさがあったとのこと。そこで同社では、日本全国を666のメッシュに区切って経営層がその品質を日々チェックしているそうで、日々の品質管理がネットワークの高評価につながったと宮川氏は見ているようだ。

 また、ソフトバンクは、KDDIの回線を活用し通信障害等の備えとなる「副回線サービス」を2023年4月から開始しているが、宮川氏は「必要な人に必要な形ということで、過度な期待はしていなかった」と話し、契約数は順調に伸びているものの大幅に契約が増えている訳ではない様子も示した。

 宮川氏はこのサービスを打ち出した当初、1つの電話番号で2つの回線を利用するアイデアを打ち出していたが、「技術的にできることは確認したが、通信障害の状況によって着信側が正常に行えないケースがあることが分かった」(宮川氏)ことから、混乱を避けるため現状のサービス内容に落ち着いたとしている。

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