サンフランシスコの、肌寒いある土曜日の午後、筆者は友人たちとパティオヒーターを囲んでいた。その時、誰かが記念写真を撮ろうと言い出したのだが、予想外の展開がそれに続いた。その友人は、スマートフォンではなく、コンパクトデジタルカメラを取り出したのである。「おいおい。コンデジはスマホのせいで何年も前に絶滅したじゃないか。なんで彼は『iPhone』を使わないんだろう」。筆者はそう思った。といっても、友人のカメラはソニーのハイエンドモデル「RX100 VII」で、コンパクトカメラの傑作、今も生産されている数少ないコンデジの1つだったのだが。
Appleやサムスン、Googleのスマートフォンには、市場トップクラスのスマートフォン用カメラが採用されている。「iPhone 14 Pro」、サムスンの「Galaxy S22 Ultra」やGoogleの「Pixel 7 Pro」などがそうだ。だが、プロの写真家や映画制作者にとっては、必ずしもそれだけで足りるわけではない。聖杯になれるかどうかは、ハイエンドのミラーレスカメラや、スマートフォンに取り付けられるレンズマウントのように、真に大型のイメージセンサーを搭載できるかどうかにかかっているのだ。単純な話に聞こえるが、これは難問だ。
サムスンやパナソニック、ソニー、Motorolaなどのスマートフォンメーカー各社は、理想のカメラを何らかの形で実現しようとしてきた。スマートフォンカメラという聖杯をめぐるクエストを最近になって再燃させたのが、(サムスン、Appleに次いで)世界第3位のスマートフォンメーカーとなった中国の小米科技(シャオミ)だ。同社は、「Leica M」レンズをマウントできるプロトタイプを発表したのである。
ただし、これはコンセプトモデルにすぎない。スマートフォンが、かつてコンパクトデジタルカメラを追いやったように、プロ仕様の専用カメラを廃れさせることがありうるかといえば、答えは断じてノーだ。過去10年の歴史がそれを証明している。
まず、スマートフォンのカメラの仕組みを理解することが重要だ。レンズの奥には、小さなイメージセンサーがある。「LEGO」ブロック1つより小さい。ソニーやシャープが、あるいは何年か前のパナソニックが、1インチ(約2.5cm)のセンサーをスマートフォンに採用して話題になったことがある。残念ながら、これは実際のサイズを正しく表した名前ではなく、1インチのイメージセンサーといっても実際には対角線にしておよそ0.6インチ(約1.5cm)、先ほどの比喩を続けるとLEGOブロック2つ分くらいになる。1インチのセンサーはスマートフォンにとって夢のような話、しかも搭載するには大きすぎる夢なのだ。
専用カメラになると、LEGOブロック12個分くらい(4個×3個で並べた長方形)のイメージセンサーを搭載しており、ほとんどはレンズ交換できるようにレンズマウント式になっている。これほど大きいセンサーをスマートフォンに搭載するというのは、まさに「聖杯」なのだ。
だが、大型のイメージセンサーは、iPhoneなどに使われている小型のセンサーより高価であり、何よりスペースの問題がある。スマートフォンのセンサーに合わせたレンズは比較的小型だ。一方、フルフレームのセンサーに応じたレンズはもっと大型になり、レンズの後ろからセンサーまでの間に必要なスペースも大きくなる。大幅に分厚くしない限り、スマートフォンではそれだけのスペースを確保できない。
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