「iPhone」と「Android」スマートフォンは、ユーザーの生活のデジタルでない部分に、さらに緊密に織り込まれようとしている。これが、Appleの「iOS 16」とGoogleの「Android 13」での大きなテーマの1つだ。どちらも、両社のモバイルソフトウェアの最新アップデートとして、2022年後半の登場が予定されている。テクノロジー業界大手の両社が目指すのは、スマートフォンを法的な身分証明書を格納する電子ウォレットに変え、今まで以上に、スマートフォンをユーザーのアイデンティティーに結びつけやすくすることだ。また、両社とも、スマートフォンが自動車やスマートホーム機器、その他の日常的なデバイスと相互作用する方法について、向上への取り組みを続けている。
iOS 16にもAndroid 13にも、細かい変更や新機能が目白押しで、デジタルウォレットや接続速度の向上より重要な機能もある(例えば、家庭内暴力の被害者を守るためのAppleの「Safety Check」ツール、Googleのプライバシーに関する新しいアップデートなどだ)。だが、両社のOSの共通点を見ると、私たちの生活におけるスマートフォンの役割の変化が如実に見えてくる。両社の最新の発表を踏まえると、スマートフォンをめぐって起きている変化は、スマートフォンの中で起きている変化に劣らず重要になる。
スマートフォンと、財布やクレジットカード、車、家電製品といった生活必需品との結び付きが強くなればなるほど、スマートフォンから離れる(あるいは、iPhoneとAndroidの間で乗り換える)のは難しくなる。このコンセプト自体は新しいものではなく、業界は何年もその方向に動いてきた。だが、iOS 16とAndroid 13での変化はAppleとGoogleそれぞれのアプローチを大きく改良するものであり、そうした取り組みを加速する可能性がある。
デジタルウォレットは、AppleがiOS 16を発表したときも、GoogleがAndroid 13のプレビューを披露したときも、大きな目玉だった。特に大きい変化は、「Apple Pay」に追加される新しいオプションだ。「Apple Payで後払い」と呼ばれる機能で、購入代金を6週間にわたって4回の均等払いに分割することができる。iOS 16では、「Appleウォレット」に格納されるIDカードが、アプリでの年齢確認にも使えるようになる。Appleは2021年にまずデジタルIDへの対応を導入しているが、それに続く追加機能だ。
一方のGoogleは、5月に開催した「Google I/O」カンファレンスで、「Google Wallet」アプリの大幅な改良を発表している。新しいGoogle Walletは、決済や公共交通カード、ワクチン接種記録、搭乗券、学生証といった個人情報を格納できるようになり、Appleウォレットに近くなる。またGoogleは、デジタルIDに対応すべく政府機関に働きかけている。
まとめてみると、AppleとGoogleの今回のアップデートは、物理的な財布からの移行という共通の目的に向けた新たな一歩だ。当然ながら、私たちのモバイルデバイス依存を強める変化でもある。
そうした変化を目指す意欲を、Googleは改めて語った。5月のGoogle I/Oで新しいアップデートを詳しく発表する直前のことだ。
「実際に、私も最近は家を出るときに必ず持つものは2つしかない。スマートフォンと財布だ」。Androidおよび「Google Play」の製品管理担当バイスプレジデントを務めるSameer Samat氏は、壇上でそう語った。「となると、問題はスマートフォンが財布の代わりになるかということだ」
AppleウォレットおよびApple Pay担当シニアディレクターのCorey Fugman氏からも、米国時間6月6日のWorldwide Developers Conference(WWDC)基調講演で同じような趣旨の発言があった。
「当社は、ユーザーの物理的な財布をAppleウォレットで置き換えるという目標に向けて尽力している」
物理的なクレジットカードからスマートフォン搭載の決済アプリに移行するというアイデアは、だいぶ受け入れられてきた。Apple Payなど店頭でのモバイル決済システムの利用率は、2025年までに、米国の全スマートフォンユーザーの50%を超えると、eMarketerの2021年度報告書では予測されている。Appleが新たにApple Payで後払い機能を追加し、Googleが独自のモバイルウォレットへの取り組みを刷新したことで、財布を持ち歩かないというアイディアは、さらに魅力的になるかもしれない。
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