VRIコラム

情報氾濫社会での効果的な動画ブランディング

大寺高義(NewsTV 取締役)2021年04月06日 09時00分

 インターネットの登場により、情報の氾濫が叫ばれるようになって久しい。少し古いが2011年に総務省が発表した調査結果によると、10年前の時点であっても世の中に流通している情報のおよそ半分程度しか消費されていないということだった。

 因みに、総務省の調査における情報消費の定義とは以下でとおりである。「電話に出て話を聞く」、「ブログの記事を読む」、「テレビ番組を視聴する」、「郵便物を開封して読む」、「購入した書籍を読む」等。

 2011年でさえ、である。そこからSNSが隆盛し、動画を活用した情報発信が当たり前になりつつある現在を考えると、その傾向は一層拍車がかかっていると考えるのが妥当である。

 つまり消費者は自ら必要な情報を選び取っており、大量の情報が廃棄されている、ということが言えると思う。このような情報が氾濫した世の中における効果的な動画ブランディングについて考えてみたい。

 認知拡大を目的にしたマーケティング手法としては、かつてはなんと言ってもテレビCMが最強だった。このマーケティングの成功事例は枚挙にいとまがない。少し考えを巡らせるだけでも、純粋想起が可能なテレビCMを無数に思い浮かべることができる。

 筆者は今年で41才となるが、パッと思い出せるCMとしては「カステラ1番、電話は2番、3時のおやつは文明堂」の「文明堂のカステラ」や、電気シェーバーの「ブラウンモーニングレポート」、「やっぱりイナバ、100人乗っても大丈夫」のイナバ物置などだ。

 こうした事例を思い浮かべると、一つの共通点に気がつく。当たり前だが、それは私自身が何度も繰り返し接触したCMであるということだ。同一コンテンツで、同一メッセージを何度もターゲットに訴求していくことは、動画ブランディングの成功を考える上で非常に重要な要素の一つと言えると思う。

 では消費者がインターネットを通じた情報収集を行う行動様式が一般的となっている現在においてはどうか?情報が氾濫する現代において、消費者自身が積極的に情報を廃棄していることを考えると、同一コンテンツを消費者が繰り返し素直に受容するとは考え難いと私は思う。

 かつてテレビは、お茶の間で絶対的な存在だった。テレビを通じて配信されるコンテンツはかなりの確率で消費者に受容されていた。 テレビを通じた情報と消費者の「接触」が、消費者による情報の「受容」とほぼ同義だったのだ。

 翻って、現代ではスマートフォンを操作しながら、テレビを視聴する時間も増えた。この時代においては、テレビを通じた情報と消費者の「接触」が、「受容」と同義で語られることには違和感を覚える。

 「ターゲットが興味を持つように切り口を変化させたコンテンツを通して、同一メッセージを何度も訴求していく」ということが、現在の動画ブランディングの成功要素になるように思える。

 当社で実施した調査で、このことを裏付けるかのような興味深い分析データがある。現在、広告主が動画広告配信を行う際、同一ターゲットでありながら実際に広告配信で動画に接触したユーザー群と、動画に接触しなかったユーザー群を比較して、ブランドリフトのスコアを比較することがある。

 この類の調査結果では、動画を接触しなかったユーザー群の方が、動画に接触したユーザーと比較して高いスコアが出て、解釈に頭を悩ませるケースもある。

 しかし、である。興味深いデータというのが、「動画広告を見た」とアンケートで回答しているユーザー群と、動画広告に接触しなかったユーザー群でスコアを比較すると、全ての案件で「動画広告を見た」と回答しているユーザー群の方がブランドリフトの各スコア(ブランド認知率、好意度、購入意向)が軒並み高い結果となったのである。これは調査を通じて、当社が配信する全ての動画広告でブランドリフト調査を行い、データを分析した結果だ。

 現在、動画広告は実際に広告がターゲットのブラウザなどの視認領域に入った際に初めて動画を再生し、その回数をカウントできるようになっている。

 つまりこの調査・分析結果が示唆していることは、動画は確実に視認できる位置で再生されているのだが、動画をターゲットが認識していないケースが存在しているということである。

 認識していないというよりも、情報としてターゲットに受容されていないのだ。また逆を言えば、ターゲットが動画コンテンツを認識、受容しさえすれば、ブランディングにポジティブな影響がかなりの高確率で出るということである。

 さらに言えば、動画広告は動画の再生回数や最後まで動画が再生された回数などをレポーティングするのが一般的だが、動画広告の認知率を調査で結果を解釈した方が、より最適な動画広告運用が実現できると考える。こちらの詳細に関しては別の機会に論じたいが、当社ではその準備を現在進めている。

 軸となるメッセージはぶらさずに、ターゲットに受容してもらえるコンテンツを切り口を変えながら発信し続けることが、情報が氾濫する時代に求められる動画ブランディングの成功要素の一つなのだ。


◇ライタープロフィール
大寺高義(おおでらたかよし)
株式会社NewsTV 取締役
株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)を経て、株式会社ベクトルへ入社後、(株)NewsTVの立ちあげに参画。 Webサイトの構築、運営経験や、広告主として広告プランニング・出稿・分析・運用業務、広告営業、アドテクノロジー関連サービス・インフラ開発などWebマーケティング・アドテクノロジー関連業務に15年以上携わる。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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