新型コロナウイルスの影響で、4月7日に政府が緊急事態宣言を発令してから、店舗休業が相次ぎ実店舗の消費が落ち込んだ一方で、ネット通販の売上高は好調だ。帝国データバンクの調査によると、多くの上場アパレル企業が3月、4月ともに月次売上高は前年比を下回ったが、ECの売り上げにおいては、実店舗からECへ顧客がシフトしたことにより多くの企業で好調だったという。
では、アプリについてはどうだろうか。各社、EC売り上げのうち、アプリ経由の売り上げは明確にしていないが、2018年の調査では、スマートフォンからのEC利用の約6割がアプリ経由というデータもある。アフターコロナにおいても、これまでのような対面接客が容易ではなくなるなど、ニューノーマルを模索する必要があるなかで、企業のアプリ進出は加速するのではないだろうか。
弊社(ランチェスター)では、リテール企業、特にアパレルに特化したアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」を提供しており、導入企業の月額利用料はMAU(マンスリーアクティブユーザー)による契約モデルだ。導入企業各社のMAUの推移を見てみてると、3月は大きな変化がなかったものの、4月に入り最大で50%減少していた。
このプラットフォームでは、ニュース、EC、クーポン、会員証などのメニューを提供しており、顧客は店舗で買い物をした際に会員証を表示する、プッシュ通知でクーポンやニュースが届くと閲覧するといった使い方をしている。MAU減少の要因は、やはり4月に入り店舗の時間短縮、休業などにより、店舗で買い物をする機会がなくなったことが大きいと思われる。「会員証ページ」のアクセス数は、コロナ前に比べ、4月に最大54%減という企業データが見られた。
その一方で、ECページへのアクセス数は増加傾向にあり、最大で55%アップしている企業もあった。また、ニュースやブログなど購買のモチベーションにつながる読み物系コンテンツへのアクセス数が約30%増加した企業や、商品検索ページが150%増といったデータも見受けられた。ステイホーム期間中の巣ごもり消費の影響といえるだろう。
全体のMAUとしては4月に入り、落ち込みを見せたが、ユーザー1人あたりの平均PV(ページビュー)数はコロナ以前と比べ増加している。コロナ以前と比べ30%増、最大で50%増加傾向にあった。このデータからもわかるように、コロナ前とコロナ禍で顧客のアプリの使い方に変化が起きている。
これまでは、実店舗で買い物をするときにアプリを表示したり、自宅でオンラインショップやメルマガなどのコンテンツを見るなど、オンラインとオフラインどちらのシーンでも同様に利用されていた。しかし、現在顧客は常時オンラインにいる。リアルの場で顧客との接点を持てない今、オンラインでどう顧客とコミュニケーションをしていくかが重要になっている。
全体のMAUが減少しているなかで、ユーザー1人あたりの平均PV数が増したということは、つまりそのブランドに一定のエンゲージメントのある顧客の回遊率が増しているということだ。オンライン上でエンゲージメントの高い顧客と関係性を深めるにはまさに今が好機といえる。
コロナの影響により小売は大ダメージを被ったが、一方で、デジタルが促進されたという好影響もあったのではないだろうか。デジタルトランスフォーメーション(DX)があらためて重要視され、これまで以上にスピード感を持って進めることが求められている。
バロックジャパンリミテッドでは、2024年までにEC化率20%を計画しており、2020年2月期のEC売上高(単体)は77億円、EC化率は13%だ。
また、オンワードホールディングスの2020年2月期の決算会見では、2019年度のグループ全体のEC売上高は333億円で前年比の31%増、EC化率は13.4%。また、3月度の月次売上高においては、EC単体の売上は45%増、EC化率は巣ごもり消費の後押しもあり、過去最高の30%台に達したという。
このように、各社がEC化率の強化を宣言している。
EC化率を上げていく過程では、新規顧客の獲得だけでなく、リピーターをどれだけ増やしていけるかが利益増のためにも重要となる。リピーター、つまり顧客エンゲージメントを高めるには、単にアプリを導入しても、それだけでは不十分といえる。アプリをインストールしたイコール“ファン”ではなく、アプリをインストールしてもらってからがスタートラインだ。
そのブランドに一定の関心を持っている人に、ポイントやクーポンなどを用いてアプリをインストールしてもらい、そこからコーデやブランドの背景、ブランドの価値観が伝わるコンテンツなどを通して共感してもらい、はじめてファンになり、ロイヤリティが高まっていく。
ブログやSNSなど、届けたい情報を集約し、顧客にとっても情報が見つけやすい環境を提供し、また、顧客IDを紐付け、すべてのチャネルの窓口をアプリに統一することで、顧客ひとりひとりと向き合う場が整う。そうして、その顧客が欲しい情報をプッシュ通知で届け、アプリ上のタイムラインをパーソイナライズさせていくなど、顧客に合わせたコミュニケーションを行い、快適な場作りができるのもアプリのメリットだ。
店舗、SNS、広告など、さまざまな接点から商品を一度でも購入した顧客には、ブランドのファンになってもらい、繰り返し商品を購入してもらうためにも、さまざまなチャネルをシームレスにつなぎ、購買プロセスを洗練していくことが重要になる。
単にアプリ内ブラウザにECサイトやSNSへのリンクを貼るのではなく、コンテンツを集約し、会員情報を連携し、ECとのログインを維持する。顧客がスムーズにアプリ内を回遊し、商品だけでなく、ブランドの価値観を理解しながら、心地よく買い物ができる、そんなシームレスな体験を提供することが重要だ。
そんなアプリを提供するブランドに顧客は惹かれ、ファンになっていくのではないだろうか。ニューノーマルで求められているのは価格や商品だけでなく、価値観でつながることなのではないだろうか。
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