電通デジタルが挑む“企業のグロースハック支援”--Amplitude連携の想い

阿久津良和 別井貴志 (編集部)2020年05月11日 12時39分

 電通デジタルは電通との横断プロジェクトとしてスタートアップ企業や大企業の新規事業を現場から支援する「電通グロースハックプロジェクト(以下、GHPJ)」を2019年6月から積極的に展開している。事業成長を担う人材不足の企業に対しては、プロジェクトメンバーがグロースハック実働部隊を代行し、客観的な意見や異なる観点からのアイデアを欲する企業へは、市場調査やプロダクト改善、テスト検証に関するアドバイスを提供。資金調達を検討している企業には国内電通グループ企業とも連携して、トラクションの獲得やサービスのポジショニング、投資家向けメッセージ開発をするなど、幅広い支援体制を用意している。

 そんなGHPJは、2019年12月10日からグロースハック向けユーザー行動分析ツール 「Amplitude」を用いた「Amplitudeスタートアップ支援プラン」の提供を開始した。「設立2年以内、累計資金調達額5億円以内、従業員20名以内のスタートアップ」を対象に、年間420万円相当のAmplitudeを1年間無償提供することで、ユーザーの行動分析を可能にするプランだ。今回はGHPJの代表を務める電通デジタルグロースコンサルティング事業部 グロースハックグループマネージャー 上野雅博氏と、Amplitude ジャパン カントリーマネージャー 米田匡克氏に話を聞いた。

――最初にGHPJの意義を教えてください。

上野氏:GHPJは電通と電通デジタルの共同ユニットとして、各フェーズにあるスタートアップの成長を支援するチームです。事業のグロース担当やマーケター、クリエーティブディレクター、データエンジニアなど、専門性を持ったメンバーを定額でお使いいただけるサービスですが、弊社単独で社会課題の解決に向き合うよりも、“世界を短期間でよくしたい”というスタートアップを多く支援したほうが、改善につながるという思いから始めました。

電通デジタルグロースコンサルティング事業部 グロースハックグループマネージャー 上野雅博氏
電通デジタルグロースコンサルティング事業部 グロースハックグループマネージャー 上野雅博氏

 スタートアップといっても、シード期やシリーズA、シリーズBなど成長段階を指す投資ラウンドがあります。シリーズA前半からシリーズB頃までをわれわれが担う形となります。われわれは、PMF(プロダクトマーケットフィット)の達成や資金調達によるROI(投資利益率)の健全化をサポートしてきましたが、そこで浮き彫りになった課題は、人材採用難です。現場で手を動かすメンバーをまとめるマネジメントや、他領域でもプロフェッショナルなマネジメント能力を持つ人材を獲得できないため、われわれを使っていただいた方が有効だと考えています。

 将来の展望ですが、スタートアップの「エコシステムの一部」を目指しています。スタートアップを構成する要素を踏まえますと、人員や実行までのノウハウを支援するサービスは多くありません。そこを我々が埋めることを目指しました。とある書籍で(組織を円滑に動かすために、潤滑油的な働き方をする)「滑業家(かつぎょうか)」という概念を目にしました。成功したスタートアップには必ず存在するといわれており、我々もそんな集団を目指しています。

電通グロースハックプロジェクトの対応スコープ例1
電通グロースハックプロジェクトの対応スコープ例1
電通グロースハックプロジェクトの対応スコープ例2
電通グロースハックプロジェクトの対応スコープ例2

――スタートアップ企業は何事も迅速に決断しなければならないスピード感が求められますし、実践している企業が多いでしょうけれども、迅速に進まない場合もあると思います。たとえば、PDCAをたくさん回していくというのはいいとして、そのサイクルの中で本当に正しい分析や評価ができているのか、といったことなどです。この点は、スタートアップに限ったことではないでしょうけれども。

上野氏:たとえばアプリの課題などを見つけるために分析する場合、分析に必要なデータは何かを考えた後、そのデータを取得し、さまざまなデータ群を統合的に解析、分析して判断します。この一連の作業はかなりの手間がかかるため、迅速に進めるためにSQLやマクロなどを駆使して自動化することも多いです。そうすると、これらのスキルを持ったエンジニアを雇わなければならないケースも出てきます。けれども、Amplitudeを活用すれば、専門家やエンジニアでなくとも統合データの分析が可能になり、課題の解決が迅速にできるのです。つまり、仮説検証をスピードアップさせるわけです。

――それでは、米田さんにうかがいましょう。GHPJとの出会いやグロースハックの印象をお聞かせください。

米田氏:私は以前グロース関係の企業におりまして、そこで(上野氏に)お目にかかった次第です。グロースハックですが、需要はありながらも海外に比べて日本は3~4年は遅れていると認識しています。日本のマーケターはどうしてもユーザー獲得に焦点を当てがちですが、その獲得コストも増加し、何巡もすると獲得自体が難しくなります。新規ユーザーを獲得しても品質は低下するといったサイクルが5年ほど続いてきました。すると、利益貢献につながるLTV(顧客生涯価値)の重要性が増すものの、国内には体系だったマーケティング手法もツールも存在しません。この点を改善するのが、行動分析を可能にする分析基盤のグロースエンジンであるAmplitudeです。

Amplitude ジャパン カントリーマネージャー 米田匡克氏
Amplitude ジャパン カントリーマネージャー 米田匡克氏

 たとえば「Burbn」は当初、多機能を誇る位置情報の共有アプリでした。しかし、ユーザーがなかなか定着せずにすぐ去ってしまう一方で、少数ではあったのですが一部のユーザーは何度も熱心に利用している状況がわかりました。こうしたヘビーユーザーの行動を徹底的に分析した結果、位置情報の共有よりも「写真の共有が目的で利用されている」という先行指標を発見しました。そこで、写真共有機能のUI/UXを大幅に改善することで、爆発的な定着ユーザーの増加につながりました。これが、現在の「Instagram」に至ります。従来の分析基盤による行動分析は限界がありましたが、Amplitudeは「(ユーザーをグループ単位で分類する)行動コホート」という概念を導入し、分析対象となる行動コホートを定義することで、分析結果を自動集計します。米国企業を中心に1万2000社以上でご採用いただいております。

 Amplitudeは、既存のメジャーなマーケティングツールとも連携し、さまざまなデータを自動集計します。ビジュアライズされたそのデータを活用して、まずは課題解決に向けた仮説やアイデア出しを支援します。その仮説に基づいたABテストなどの検証、効果測定も自動集計し、その結果を学習します。もっとも効果の高い施策を本格運用(ロールアウト)する際は、管理画面から直接操作できます。プッシュ通知など、外部のサービスやツールとも連携、コントロールできます。さらに、「Amplitude Notebooks機能」を使えば、一連の仮説抽出、施策案を検証した効果、施策を本格展開した結果、その学習結果などを部署内外に情報共有できます。ここでも、slackなどの外部ツールと連携可能です。特徴を言葉で説明するのはなかなか難しく伝わりにくいので、実際にAmplitudeをご覧いただければいいのですが……。

Amplitudeのダッシュボード画面(デモデータ)
Amplitudeのダッシュボード画面(デモデータ)

――GHPJとAmplitudeの両者が組んで、どんな展開をするのでしょう。

上野氏:1つはGHPJのスタートアップ支援で(前述した諸条件を満たしたスタートアップが享受できる)スカラシッププランとしてAmplitudeを使わせていただきます。機能制限はありませんが、イベント数の制限などは設けました。設立2年以内のスタートアップが対象となりますので、プロダクトの仮説、分析、検証・効果測定を高速に回して課題を解決してもらい、世の中に定着したタイミングで有償版を使ってもらえればうれしいと考えています。もう1つはアプリ系クライアントを対象に、データはあるけど分析方法がわからないといったスタートアップを対象に、コンサルティングとツールを提供します。

 Amplitudeの魅力については、弊社でも「グロースハック用分析ツールAmplitudeは何がすごいのか?」の記事を公開していますので、参考にしていただければと思います。

――最後にGHPJの方向性やAmplitudeが期待している点、日本市場に対する戦略を聞かせてください。

上野氏:スタートアップに対しては現場視点でエコシステムの一部に入っていきたいです。プロダクトの方向性やターゲット、KPI、課題の優先順位付けなど、プロダクトのグロースで悩まれることがあれば、まずはお問い合わせいただきたいです。どんな世界観を実現したいか、このプロダクトをどうしていきたいか?など経営者やプロダクト責任者の方と話し合いを重ね、プロダクト成長パートナーとして寄り添ってまいります。

 その中でAmplitude はPMF前の強力武器として、シリーズA付近のスタートアップの皆様をサポートしたいと思っています。一方、Amplitudeの日本市場全体に対して申し上げると、分析方法や工数に課題がある企業様中心にご対応させていただいているとのことですが、まだ日本語や国内事例の情報が少ないので、GHPJの公式サイトにも今後コンテンツを掲載していくとともに、今ご利用いただいている企業様中心にAmplitude及びグロースに関するコミュニティを作成・運営していきたいと考えています。

米田氏:GHPJと共にグロースという考え方を多様な形で紹介したいですね。この業界を俯瞰すると多くのメソッドがあり、仮説、実験&学習、情報共有、ロールアウトを回してユーザー価値を向上させる「グロースエンジン」や、プロダクトの本質的な価値を顧客に提供しているかを測る「North Star Metric」など枚挙に暇がありません。重要なのはユーザーの行動を分析して課題を解決、最終的に成果を最大化する場合、単純にアクティブユーザー数の上下などで一喜一憂することなく、意味のある指標を追いかけることです。中途半端な仮説で闇雲に行動データを集めて分析しても成果はでません。どのユーザーがどういった行動をしていて、それはどういう意味なのかをまず見極められるかどうかが鍵です。この立ち位置でスタートアップや大企業にメソッドを案内し、ビジネスを拡大するお手伝いをできればと考えています。

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