最近、耳にする機会が増えた「カスタマーサクセス」という言葉。これは単なるブームではなく、世の中が変化する中で生まれた、新しいコンセプト。 なぜなら、デジタル時代にはあらゆる業種のサービスが「売って終わり」ではなく、「いかに使い続けてもらうか」を重視するように変わっていくからです。
けれども、実際に事業に取り入れる難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、カスタマーサクセスを推進する識者の皆さまにお話を伺い、そのヒントをシリーズで探ります。
まず第1回は、執行役員 デジタルトランスフォーメーション部門長 八木 克全が、株式会社NODE 代表取締役 金 均氏に、「カスタマーサクセスが意味するところ」について、お聞きします。
八木克全(以下、八木) まずはシリーズ冒頭でもあるので、カスタマーサクセスとは何かを改めてお聞きしていいですか。
金 均(以下、金) はい。カスタマーサクセスとは、文字通り、「カスタマーの成功」を意味します。自社プロダクトやサービスのユーザーの持つ困りごとやニーズに向き合い、それらを十分満たす(=サクセスさせる)ことを目指すことと思っていただければ。 2017年頃から、日本でもようやく広まってきました。最近では総務省主催のサミットや、AWSのイベントの基調講演で「カスタマーサクセス」のワードが入り、注目がさらに増しているのを感じます。
八木 まさに黎明期ですよね。ワードとしての使い方や解釈もそれぞれです。
金 一般的には2つでしょうか。1つ目は、職業や業務の名称として。また2つ目は、企業経営における戦略テーマとして。 私の感覚では、もともとは前者で使われていたものが、最近では後者のように、企業全体のコンセプトを表す言葉に発展してきている気がします。
金 八木さん、今、スマートフォンの最初の画面に何のアプリを入れています?
八木 仕事で使うGoogle 系のアプリや、プライベートで観る動画アプリなどですね。
金 例えばNetflixなどの動画アプリ、面白いですよね。では例えば、Netflixでこれまでに自分好みの動画をレコメンドされ、ついクリックしてしまった経験ってありません?
八木 あります。次々と自分好みの映画やドラマを提案されて、コンテンツも面白いので、気が付くとハマっている状況です(笑)。
金 まさに、それです!八木さんにとっての動画アプリのように、手放せないレベルまで生活に浸透すること。それがカスタマーサクセスが最終的に目指すところです。
八木 分かります。
金 デジタル技術が急速に発展する中で、これまでにない、便利なサービスが多く生ま れてきて。
八木 僕たちが若い頃には想像もしなかったサービスが、今はたくさんありますよね。
金 そんな中で、企業が勝ち残るためには、例えば八木さんのスマートフォンのトップ画面に残り続けなくてはいけない。
八木 これまでのように「売って終わり」ではなく、「売った後に、いかに使い続けてもらうか」を重視する方向に考え方が変わってきた。最近、話題のサブスクリプションモデル誕生の背景ですね。 でもなぜ、カスタマーサクセスは企業全体のコンセプトにまでなっているのでしょうか?
金 サブスクリプションモデルをはじめ、既存ユーザーからの売上げを重視している企業は、“お客さまがそれなしでは生活・活動できない状態”を実現したい。 そのために、プロダクトやサービスを売った後もお客さまと接触し続けて(顧客接点の確保)、データからお客様の関心や状況を捕捉して(データドリブン)、サービスを常時アップデートする(高速PDCA)営みを強化している。
八木 そう。そしてさらに言えば、お客さまとの接点はプロダクトだけではない。
金 そうなんです。例えば営業による提案、利用支援を行うサポート体制など、あらゆる接点で質の高いサービスをユーザーに提供することで、日々の生活や活動に浸透していきます。 そうなってくると、単に一つの部署の業務ではなく、全社で取り組むべき業務のレベルになり、企業全体の戦略テーマになってくるんです。
八木 ではここ最近、急にカスタマーサクセスが注目を集めるようになったのは、なぜだと思われますか?
金 実は以前から、売った後も含めて売上を最大化するアプローチはありました。
八木 有名な“The Model”ですね。The Modelは、売上最大化を実現するための有効な枠組みとして、多数のビジネス企業が採用しています。
金 はい。そしてその枠組みの中で具体的に何をすればよいのか。実はユーザー視点でストーリーをつむぎ、サービスから業務、ITのあり方までを方法論化したものが、カスタマーサクセスなんです。 新しいビジネスモデルが台頭する中、その実践論に悩む企業が多いために、注目が集まっているのだと思います。
八木 特にBtoB企業が、意識している印象を受けますね。
金 日本ではクラウド事業者から取り組みが始まった歴史があるからだと思います。 ただ、サブスクリプションモデルは、BtoB企業だけに適用されるものではありませんよね。最近ではBtoBtoC、BtoCでも幅広く活用されていて、特定の業態のものではなくなりました。
八木 今は日本でも、ITの浸透により人びとの生活をより良い方向に大きく変化させていく、いわゆるデジタルトランスフォーメーションをいかに進めるかが、大きなテーマとなっています。
金 はい、一方で「手段としていかにデジタルを活用するか」がおもに論じられ、「活用先はとある業務の効率化」ということが、まだ多いようにも感じられます。
八木 実は、デジタルの進展によって大きな変化が求められているのは、顧客サービスの抜本的な変革なんですよね。そのサービスを実現するための業務・ITのあり方まで含めた、企業システムの変革。 つまり、カスタマーサクセスは、デジタルトランスフォーメーションの実践方法論でもあるわけです。
金 はい。カスタマーサクセスが日本でも注目されるようになったことで、技術ドリブンで始まったデジタルトランスフォーメーションが前進し、真にお客さまに喜ばれるサービスがもっと多く世の中に生まれることを願っています。 そのためにも今は、カスタマーサクセスという方法論をもとに、改めて顧客志向で経営変革へ取り組むべきだ大切な時だと感じでいます。
*この記事は電通デジタルのレポートからの転載です。
1998年 電通入社、2016年より電通デジタル。
デジタル時代に発生する課題に、事業/マーケティング/組織/業務&ITを変革する事で、統合的に解決するソリューションを提供。 モットーは、「デジタルでイノベーションが起きるとき、必ずアナログ(既存業務・組織体制)のイノベーションがセットになって成功する」。
京都大学大学院建築学修士。
1999年 アクセンチュア入社。2009年よりICTソリューション・コンサルティング、2014年よりビービットに参画。2019年 NODE創業。
「人と人との意思をつなぎ、社会を変える」をビジョンに、企業変革や事業開発の経営啓発・実践支援を提供。電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント、アンダーワークス 社外取締役/エグゼクティブディレクター、パーソルプロセス&テクノロジー エグゼクティブディレクターを兼務、複数の事業者が協働するコラボレーションの場を主宰。
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