ソニーがクルマを作った。驚天動地の大ニュースであった。なぜソニーはクルマを作ったのか。その狙いは何か。また「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーのPurpose(存在意義)はなぜ誕生したのか。代表執行役社長兼CEOの吉田憲一郎氏に直撃した。
――吉田社長とは2年前に一度お会いしました。それから2年、本当にいろんなことがありました。まず私の印象では、1月6日(現地時間)のプレスカンファレンスは2019年よりはるかに良かったと思う。前回はハリウッド主導の形で、ソニーって一体なんなのかという疑問が残り、がっかりしました。ところが、2020年は見違えました。ソニーは技術をちゃんとやりますというメッセージが明確にあったのが、良かった、具体性もあった。特に最後にクルマのところが見えたのが、すごく良かったと思います。
ありがとうございます。
――今回のステージを作ったのは、どういう思いで。
2年くらい前からクルマの開発を始めましたが、やっぱり一度見せようと。今はまだできていないのですが、ゆくゆくはこのプロトタイプを公道で走らせることが目標です。モバイルの次に起こる大きなメガトレンドであるモビリティにソニーが貢献するためには、相当勉強しないとだめだと思っています。安心、安全な自動運転の実現を支えるイメージング、センシング技術や、最先端のエレクトロニクス技術を集めたプロトタイプを披露したのも、その覚悟を見せるためです。
ただ、勉強するにしてもモビリティそのものが変わってきているんですよね。従来の非常に複雑な構造で、たくさんのマイコンを積んでいるものから、非常にシンプルな構造ながら、多数のソフトウェアスタックが積み重なるものに変わっていくと見ています。
――ハードでがんばるよりも、ソフトの部分に力を入れると。
今回「アダプタビリティ」という言葉を使いました。その真意はソフトウェアディファインドであるということです。我々はまだ偉そうに語るほど(クルマに対しての)蓄積はありませんが、そこには熱心にチャレンジしている。モビリティがそのように変化していくのなら、イメージング、センシングによる安全技術や、これまでずっとやってきているエンターテインメント技術を埋め込んでいけるのではということを、これから検証します。
――今まで、電気とクルマは業界も全然違いましたが。クルマの方が電気に近づいてきていると思うんですよ。
おっしゃるとおりですね。
――やり方は全然違うんだけれども、エネルギーがガソリンから電気になったら、電気メーカーができる範囲がすごく増える。電気メーカーにもいろいろあって、日立製作所のように固いところもありますが、ソニーはエンターテインメントでやってきたメーカーで、そのエンターテインメントは、今クルマの方からすごく求められている部分。ソニーはクルマには門外漢だけれど、クルマ側から必要とされているのではないか。そうなると、ソニーらしい切り口でクルマを提案するのは、今日、すごくメイクセンスな感じがすると、プレス・カンファレンスを見て思っていました。
今回のクルマの中には、オーディオ・ビジュアルがあり、没入感のある立体的な音場を実現する「360 Reality Audio」のような技術もある。センシングも車外だけではなく、車内でキャッチした言葉や目線などで、どう使いやすくするかということに、ソニーが部屋のエンターテインメントでやってきたことが活きてくる。クルマが部屋になるようなものです。
スピーチの一番最後に、テレビやゲームのエンタメと、5Gを活用したカメラ、そしてクルマの4つのイメージが並んだスライドが出てきましたが、その前にプロトタイプと社長が立っているのを見てひらめいんたんです。これはソニーの新しい領域だなと。産業規模を比べてみると、やっぱりクルマのほうが全然大きいわけですから、その中でコントリビュートする余地はものもすごくあるなと思いました。
おっしゃるとおり、我々のキーワードもコントリビューション(貢献)なんですね。まだ我々はクルマのことをよく知っているわけではないのですが、明らかに業界が変わりつつあって、よりエレクトロニクスに近づくと思うんです。動力はモーターになり、シンプルな構造になっていく。だから、その中でソニーが貢献できることはあると思っていて、今回は安全性とエンタメの2つにおける貢献について話しました。
――安全性とは、つまりセンサーですか。
はい、センサーですね。今までは基本、パッシブセンサーだけだったんです。今回、LiDARを登場させたのは、アクティブセンサーならではの新しい使い方を開拓するためです。いわゆるシリコンライダーであり、可動部がないので、壊れにくいのがメリットです。もう一つ「Early Fusion」もやっています。レーダーと電波を組み合わせて、早いタイミングで処理して認識力を発揮する。いずれにしてもリアルタイムで勝負しています。
――“getting closer to people”とかリアルタイム処理とかクリエイターのための技術とか、今までいってきたことが、クルマのなかで全部使われた感じがします。即時処理しないといけないわけだし。
クラウドと会話している暇はない感じですね。
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