ソニー吉田社長が次のメガトレンド”モビリティ”に挑む理由--麻倉怜士が聞く - (page 3)

CEO就任から2年、ソニーの強みは多様性

――さて、CEOに就任されて、2年近く経過しました。自分のお考えが社内に浸透してきたと思いますが、中間報告というか、この2年でがんばったことは。

 やっぱり自分自身でやれたかなと思うのはソニーのPurposeですね。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というのを、我々の存在意義にしました。そして、プレス・カンファレンスで申し上げたように、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」というのは我々は何者か、というアイデンティティを定義したのですね。一番目は我々はなぜ存在するかっていうこと、二番目が我々が何者かということで、我々のディレクション(方向性)は「人に近づく」ということにしたんです。全部明確に決めました。

――それまではそういう考えはなかった。

 いえ。平井(ソニー前会長の平井一夫氏)が作った「Mission/Vision/Values」がありました。それを改めて見つめ直すことで、「Purpose & Values」に変えました。

――なぜ、あらたにMission/Vision/ValuesからPurposeを明確に定義したのですか。

 ソニーは多様な事業と、職種や人種、国籍など多様な人材によって構成されている集合体です。世界の各地に、さまざまな事業に関わる社員が約11万人いるのです。この、ソニーにしかない“多様性”を強みにし、皆が同じ長期視点を持って価値を創出していくためには、「ソニーは何を目指しているのか」「何のために存在するのか」ということを明確にし、社員全員の共通認識にすることが絶対に必要だと思いました。

 そのために、あらゆる事業の軸は“人”にあり、“人の心を動かすこと”こそがソニーの存在意義であることを明文化することとしました。それが、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeなのです。

――もう少し詳しく説明してください。

 ソニーの多様な事業のすべての基盤として、テクノロジーがある。そして人の心を動かすのはクリエイティビティであり、それを作るのは人ですね。感動を作るのも“人”であり、感動するのも“人”です。経営の方向性は「人に近づく」ですが、関わるすべての“人”に近づくことで、あらゆる領域で感動を創り出したいという思いが、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeに結実しました。

――なるほど。ここまで作り上げるのは大変でしたか。

 2018年にCEOに就任後、ミッションとビジョンを見直そうと考えました。社内ブログで「ミッションとビジョンの見直しを考えている。意見が欲しい」とグローバルの全社員に呼びかけたところ、想像以上に反応があったんですね。そこで、寄せられた声や各事業部のトップの意見も聞き、「何のためにソニーは存在するのか」という明確な存在意義を、全社員がわかりやすい言葉で定義しようと考えました。

 これまでのようなミッションではなくPurposeをグループ全体のメッセージとしたのは、それぞれ大きなサイズのビジネスをやっている各事業が、すでに個別に具体的なビジョンを掲げているからです。だから今回は、グループ全体の存在意義を再定義するためにPurposeを選択しました。グループの存在意義を明確にすることで、各事業が何をすべきか、どんな価値を生み出すべきかがより鮮明になったと思います。

――ちなみにCMOSセンサーで絶好調のソニーセミコンダクタソリューションズグループのビジョンは「最高度のイメージング・センシングテクノロジーで映像クオリティと認識機能の限界に挑戦しあらゆるシーンにソリューションを展開する」です。事業として何をすべきかが非常に明解ですね。Purposeやアイデンティティがあるから、ここまで明確になるのですね。

 「我々はなぜ存在するか」がPurposeとすると、「我々が何者か」が「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」というアイデンティティです。「人に近づく」という方向性も明確にしたので、社員が考える軸になっているなというのがあります。

――確かに考える基軸があるというには、とても大事ですね。何をするにも、まずはそこから発想するとなると、開発でもマーケティングでも企画の切り口をこの方向でより鮮明するわけで、「人に近づく」の具現化が進みますね。

 はい、いまや社員が考える重要な軸になってきました。もう一つは、できるだけオープンにしはじめたことですね。2019年、Technology Dayを開催してソニーの技術をご覧いただいたことも一つですし、今回のクルマがいい例ですが、我々だけでできることは少ないですから、得意なイメージング・センシングやデザインなどは自社でやりつつ、オープンなリソースや他社が得意なことは活用すべきではないかと思っています。

これがソニーのPurpose
これがソニーのPurpose

――今まではクローズでしたよね。

 どちらかというとクローズでした。技術も見せない。でもこれからはどんどん出していく。R&Dの勝本(ソニー 専務執行役R&D担当の勝本徹氏)と話しているのは、そうはいっても我々の得意技がないとだめだと。得意技の周りに仲間を集めようといっています。我々の得意技はなんといってもセンサーなので、その周りにがんばって仲間を集めようということにも取り組んでいます。

――たいへん面白いお話しありがとうございました。今後に大いに期待しています。

代表執行役社長兼CEOの吉田憲一郎氏(左)と麻倉怜士氏(右)
代表執行役社長兼CEOの吉田憲一郎氏(左)と麻倉怜士氏(右)

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