2020年1月17日に25年の節目を迎える阪神淡路大震災をテーマにしたシンポジウム「SNS・AIで大災害から命を守る」が兵庫県公館で開催された。三部構成のプログラムでは、全国の自治体やネット企業が進める、SNSやAI(人工知能)などのデジタル技術を防災や減災につなげる取り組みが紹介され、今後の活用についてヤフー、LINE、Facebookの取締役が参加して議論した。
基調講演では慶応義塾大学環境情報学部教授の山口真吾氏が、災害時の「情報」の重要性について語った。阪神淡路大震災以降、日本では災害関連死として約5000人が認定されており、それだけでも巨大災害に匹敵する死者数になっている。「防止には被災者と避難所の状況を把握する情報が必須だが、膨大すぎるため人力では情報収集も処理も対応不可能なため、SNSをはじめAIやスマートスピーカー、チャットボット、コミュニケーションロボットなどの技術を活用していくことも必要」と言う。
具体的な活動も進められており、SNSやインターネットメディア、AIを積極的に活用した防災・減災をめざす「電脳防災コンソーシアム」を2017年10月に設立していることを紹介。
ここには、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)やNIED(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、ヤフー、LINEが参加しており、2018年4月に55の政策提言を共同で発表している。「情報力の強化」「災害関連死の抜本的解決」「イノベーションシステムの必要性」を課題とし、AIによる災害情報分析の自動化、災害関連死の防止、積極的な情報発信などの必要性を提案した。
また、2019年6月には産官学共同で、先端技術・ITインフラを活用した防災・減災の課題解決に取り組む「AI防災協議会」が設立され、ヤフー、LINE、ウェザーニューズらが参加。さらにAIを活用したSNS分析では、NICTが開発した災害状況要約システム「D-SUMM」があり、大阪北部地震の発生時の分析をしていることも紹介された。
兵庫県災害対策局の陰山暁介氏からは、「避難スイッチ」と呼ばれるきっかけづくりの方法を地域と考える取り組みを進めており、避難行動をまとめた「マイ避難カード」とそれをアプリ化した「ひょうご防災ネット」を作成していることが紹介された。アプリは避難所を検索できるほか、12カ国語対応の音声読み上げ機能などがあり、災害時以外でも利用できるリンク集などを充実させている。
パネルディスカッションでは、Facebookジャパン執行役員の下村祐貴子氏を進行役に、ヤフー執行役員の西田修一氏、LINE公共政策室長の福島直央氏、シンポジウムを主催した阪神淡路大震災1.17希望の灯り「HANDS」代表の藤本真一氏、そして慶応大の山口氏が登壇し、防災・減災の取り組みについて議論した。
参加した3社はいずれも兵庫県や神戸市との取り組みを実施しており、藤本氏は「スマホとSNSが防災・減災のツールになると期待されている中で、サービスの実現に取り組む企業と横並びで話す貴重な機会が実現できた」と話す。
Facebookの下村氏は阪神淡路大震災の時に芦屋で被災しており、当時はスマホもインターネットも普及しておらず情報の必要性を肌身で感じたと振り返る。活動としてはファミリーアプリを通じた地域のコミュニティづくりを応援し、神戸市をはじめ自治体と連携協定を結んでいる。また、東日本大震災をきっかけに災害支援ハブが誕生し、安否確認、募金キャンペーン、コミュニティヘルプという主に3つの機能で、ユーザーとコミュニティサポートを行っており、HANDSと共同で阪神淡路大震災の記憶をアーカイブする「1995.1.17kobe」のページで1万点以上の動画や写真を公開していることが紹介された。
ヤフーの西田氏は、「日本で最も見られているウェブサイトであるという勝手な使命感から、防災や減災、被災地支援に力を入れている」と話し、天気、防災速報アプリの提供をはじめ、ウェブサイトでの災害通知、募金とボランティアの支援、被災地支援活動として自転車で被災地を巡る「ツール・ド・東北」の開催や全国統一防災模試などの活動を紹介した。災害時のミラーサーバー立ち上げなどを支援する災害協定を800の自治体と結んでおり、人口カバー率は76.8%を越えている。また、災害行動を地図上で可視化する災害マップのトライアル版を開発するなど、ポータルならではの活動に取り組んでいる。
LINEの福島氏からは、SNSを活用した災害時の情報収集の実証実験を2018年に実施したことなどが紹介された。防災チャットボットを開発し、D-SUMMを使って情報をフィルタリング、整理した上で提供することが可能かどうかを検証した。集約された情報を位置情報と紐付けて可視化するなどし、災害対策担当者が行動判断に生かせるよう検討している。「家が壊れた」と投稿しただけで罹災証明書の発行方法を提供したり、罹災証明書という単語を知らなかったり誤記があっても対応できるシステムを開発し、「神戸市の消防団スマート情報システム」の構築に生かすなど、市民向けにも提供を計画している。
情報の提供方法についても議論があった。神戸市は毎年1月17日に実施しているシェイクアウト訓練を、緊急速報メールがうるさいという市民からの苦情で2020年は中止すると発表している。「実際、プッシュ通知は災害以外の訓練で使うとブロック率が上がるので方法を考える必要がある」とLINEの福島氏は指摘。ヤフーの西田氏は「自治体から個別に適切な避難情報を提供するのは難しく、いくら伝えても正常性バイアスがかかるので、人事を自分事にするための情報の可視化など、行動に結びつけられるような提供方法を検討している」とコメントした。
会場ではほかにも、情報の信頼度やデマ対策をどう考えるかについてや、災害に関する情報を共有して自治体や支援する側の負担を減らしてはどうかという意見、またアプリの活用についても、新たに開発してもダウンロードしてもらうことが災害時は特に難しいため、企業と連携して普段から使っているサービスとの連携を考えてはどうか、といった様々な提案が挙がった。山口氏は「ネットやデジタルが使える若い人たちをリアルに巻き込むことで、これからいい形ができるのではないか」と話し、藤本氏は「再来年は東日本大震災が10年を迎えるが、節目だけでなくその時々で語り合うことが大事」とコメントした。
最後にFacebookの下村氏が「プラットフォームは異なっても運営の思いや目指すものは共通していることが今回のパネルディスカッションで良くわかった。この思いを参加者の皆さん自身が回りの人たちに伝えてほしい」とコメントし、シンポジウムを締めくくった。
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