賃貸契約の流れが大きく変わろうとしている。10月から国土交通省による実証実験が開始された「賃貸契約における重要事項説明書等の電磁的方法による交付の社会実験」もその1つ。スマートフォンやPCからオンライン経由で受けられる「IT重説」に、契約時の書類記入もオンライン上でできる電子契約サービスを加え、賃貸契約時の来店回数を減らす計画だ。
弁護士ドットコムが提供するウェブ完結型クラウド契約サービス「CloudSign(クラウドサイン)」は、利用者が契約書のファイルをサービス上にアップロードし、相手方がサービス上で契約内容を承認するだけで、契約が締結できるというもの。現在、不動産のほか金融や人材サービスなど幅広い業界で採用されている。
弁護士検索・法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を運営する弁護士ドットコムがなぜ、クラウドサービスを手掛けるのか。今、不動産業界に注力する理由はなんなのか。弁護士ドットコム 取締役クラウドサイン事業部長の橘大地氏に聞いた。
――まず、法律相談を請け負う弁護士ドットコムが、なぜ電子契約の領域に踏み出したのか教えて下さい。
弁護士ドットコムは、2005年に設立し、現在15期目の会社です。もともと弁護士と法的な悩みを抱える人をマッチングするメディア運営を主軸にしており、2014年には東京証券取引所マザーズへの上場も果たしました。
その上場をきっかけに、今後の成長エンジンとして新規事業を探し始めました。意識したのは弁護士ドットコムがやる意味があるかどうか。そこで、弁護士の原体験で感じた困りごとを解決できる事業を始めようと考えました。
その時に浮かび上がってきた共通課題が契約交渉の実務だったんです。契約交渉をサポートする機会がとにかく多いのですが、契約締結に至るまでには膨大な時間がかかります。
しかし世界の契約締結状況を見ると、こんなに時間がかかっている国はない。なぜこんなに大変なのか。それは海外はサイン文化で回っていて、日本だけがハンコ文化が残っているからなんですね。この状況を改善するには日本独自の契約業務を変革する必要がある。これこそ、やる価値のある事業だと感じました。2015年10月にサービスをスタートして、現在4年が経ちました。
――法的にハンコを使用する必要性はないのでしょうか。
法的には印鑑の使用は義務付けられておらず、双方が合意していれば契約締結に至ります。では、なぜハンコが、サービスを開始した2015年時点まで残っているのか。その原因は3つあります。1つは法規制で、不動産業界では紙による書類の提出が義務付けられています。2つ目が外部ネットワーク性で、自社はいいけど、相手先やオーナーが対応できないというもの。3つ目が商慣習です。なかでも商慣習の部分は理解を得ることが難しく、大企業から地方の中小企業まで、契約業務におけるハンコ文化が根強く残る部分をどう打破できるか、事業課題に向き合ってひとつずつ解決していきました。
――不動産業界では紙資料がいいという人は多いですね。
そうですね。ロジカルにはオンラインのほうが便利とわかっているんですが、どうしても重い腰があがらないようです。それを打破するためには強烈な何かが必要だと思って始めたのがテレビCMです。
加えて10月からは「賃貸契約における重要事項説明書等の電磁的方法による交付の社会実験」が開始され、不動産業界の認識は大きく変わりました。
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