(本記事はイタンジ 代表取締役 社⻑執⾏役員 CEOからの寄稿です)
2025年の賃貸不動産業界は、異例の変化が起きた。1月〜3月、新生活や転勤の引越し需要が集中するこの「繁忙期」だが、例年と様相が異なっていたのだ。
「不動産業者間サイトに出た新規物件が、1時間以内、早ければ5分や10分で申込が入ってしまう。過去最高のスピード感だった」と、首都圏で賃貸仲介を手がける誠不動産の鈴木誠氏は語る。
また、この繁忙期に都内では「60%以上が内見をせずに物件を申し込んでいた」ことがイタンジの調査で明らかになった。2023年時点では43%だった割合が、わずか2年で約1.4倍に跳ね上がった計算だ。都内の仲介会社からは異口同音に「内見している暇がない」という状況であったと聞く。
なぜ、このようなことが起きたのか。
背景には家賃の高騰や引越しコストの上昇など、経済的な事情もあるが、それだけでは説明しきれない。不動産業界における「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、変化の要因の一つであったと考えられる。
筆者が2014年に不動産業界に入った当時、物件の空室確認や内見予約は電話とFAXが中心だった。名刺をFAXで送って鍵の場所を教えてもらう、といったやり取りが日常的に行われていた。
不動産業界はDXが進みづらいと言われてきた。理由としては、業界特有の法律や商習慣があること、不動産取引には多くのステークホルダーが存在すること、不動産事業者の多数が家族経営や小規模事業所で、日々の業務で手一杯となり変革への投資や意識改革が後回しにされていたことなどが挙げられる。
しかし、スマートフォンの普及とコロナ禍による非対面需要の増加、さらに2022年の宅地建物取引業法の改正などにより状況は少しずつ変わっていった。今では、申し込みや契約はスマホで完結、チャットで物件情報を聞き、リモートで内見する。新人でもデータとツールを活用すれば簡単に価格査定ができる。AIを使った営業支援まで登場している。
もちろん、すべての企業が変わったわけではない。深い地域情報や物件そのものの強みを生かした「アナログならではの価値」を提供し続ける企業も多い。一方でテクノロジーの進化は確実に現場の働き方や顧客対応を劇的に変えており、DXはもはや選択肢ではなく必須となった。
不動産は「動かない資産」であり、動くのは「情報」だ。だからこそ、ITとの相性は本来抜群である。DXを推進する企業は無人店舗化や自動契約を実現し、顧客体験の向上に向けて大きく踏み出している。
企業が今後生き残り、顧客にとってより良いサービスを届けるためには、テクノロジーをどう活用していくのか。その答えが問われる時代に、今まさに私たちは差し掛かっているのだ。
永嶋 章弘
筑波⼤学⼤学院 システム情報⼯学研究科にて情報⼯学修⼠号を取得後、エンジニアとしてニフティ株式会社に⼊社。2014年、創業期のイタンジに⼊社し複数の新規事業を⽴ち上げ、2016年、株式会社メルカリにプロダクトマネージャーとして転職。2018年、イタンジに再⼊社し執⾏役員に就任、デザイン部⾨、マーケティング部⾨などを管掌。2023年11月、代表取締役 社長執行役員 CEOに就任。
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