フランスの優勝で幕を閉じた今回のワールドカップ。 日本代表の活躍もあって、ロシアとの時差も何のその、連日視聴ですっかり睡眠不足に陥った皆さんも少なくないだろう。
ワールドカップはまた、自身が所属する「国」を意識する大きな機会だ。自分が生まれた国。育った国。所属する国——皆それを、かけがえのないものとして誇りに思う。だから、そうそう「新しい国」は生まれない。
世界の歴史を見れば、数え切れない国が消え、独立してきたが、「何もないところ」から始まった国はほとんどない。
ところが、2017年6月8日。人口22万人を有する「国」が、突如として太平洋上に出現したのだ。
6月8日は、国連で定められた「ワールドオーシャンズデイ」。国境を越えて、みんなで海のことを考えようという、いわば世界的な「海の日」だ。この象徴的な日に、ある国を公式に認めて欲しいという要請が国連に提出された。
その名は「ゴミ諸島(Trash Isles)」。太平洋上に浮かぶプラスティックの「ゴミの島」は拡大し続け、その総面積はもはやフランスに匹敵する。それにもかかわらず、各国政府は見て見ぬふり。こうなったら、この「ゴミ諸島」を国連に正式に認知させてやろう、というわけだ。
この要請を提出したのは海洋環境保護団体。毎年800万トンが廃棄されるプラスチックゴミの問題が深刻だという「空気」をつくり、国際世論や国を動かそうという大胆な戦略PRだ。
「正式な国連加盟を要請する」という面白さ、ニュース性にこぞってメディアは飛びつき、FOXニュース、ロイター通信、CNN、ナショナルジオグラフィックなどの世界的メディアが報道。世界で5億人以上の人々にリーチした。
キャンペーン動画は5000万回視聴され、SNS上での「いいね!」やシェアは70万回にのぼった。
一方で、「ゴミ諸島」を本当の国として成立させるため、国旗、通貨、パスポート(!)など、国家に必要なものが準備され、やがて国にとって最も重要な要素である「国民」の募集も開始された。
22万人が「ゴミ諸島」の国民になるべくサインアップし、世界的な影響力をもつインフルエンサーも参加を表明。環境問題識者として知られるアル・ゴア氏、世界的動物学者デイビッド・アッテンボロー氏をはじめ、ファレル・ウィリアムスやクリス・ヘムズワースなどのセレブリティも次々に「国民」に名を連ねた。
このキャンペーンは、6月に開催されたカンヌライオンズ2018のPR部門でグランプリを受賞。今年もっとも評価されたPRキャンペーンとなった。
この「ゴミ諸島」キャンペーンを成功させたポイントは何か。僕は昨年、「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」で、成功するPRには6つのルールがあると提唱した。
今回のキャンペーンはその中の2つ、「そもそも(普遍性の視座)」と「かけてとく(機知性の発揮)」が当てはまるだろう。
「そもそも」は、普遍的なテーマが持つパワーのこと。「よくぞ言ってくれた!」という人々の潜在的な普遍性に訴えかけるアプローチだ。「かけてとく」とは、ウィットや頓知にみられる、機知とリアルタイム性に富んだコミュニケーションのこと。
「ゴミの島を国連に加盟させよう」というアイデアには、この2つの要素が融合している。ワールドオーシャンズデイが定めるように、「世界の海を守ろう」はこのうえなく普遍的なテーマだ。
太平洋に浮かぶゴミのイメージもなくもないが、それがフランスほどの大きさになっていたとは−−世界中の誰もが、「見て見ぬふり」をしていた課題に、「そもそも」から大胆に切り込んで見せた。
そして、国連加盟を要請するというやり口。これが実に機知に富んでいる。国連の原則によれば、加盟国は協力して地球環境を保持せねばならない。「ゴミ諸島」が加盟国になれば、もう知らぬ存ぜぬではすまないよ、というわけだ。
通貨やパスポートなど「国」に必要な要素に徹底的にこだわったことも、この頓知を際立たせることに大いに寄与している。ある意味、「フザけたことをガチ(本気)でやる」ことが重要なのだ。情報過多なSNS時代において、我々はどのように話題を創出するべきか?このキャンペーンにはその示唆がある。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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