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不登校の小中学生の選択肢を増やす--「N高」仕掛け人の次なる挑戦

藤井涼 (編集部) 鈴木朋子2018年05月09日 08時00分
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 全国にいる不登校の小中学生20万人を救いたい。そのために義務教育という聖地へ踏み込んでいきたいーー。そんな熱い思いで新たな教育の仕組みを作っているプロジェクトがある。「クラスジャパンプロジェクト」だ。

 クラスジャパンプロジェクトは、学校・企業・地域が一丸となって不登校の小中学生を支援するために設立されたプロジェクトで、インターネット上の「ネットクラス」を中心に、学習支援や自立支援をする通信・通学型の行政サービスだ。2018年2月には、ベネッセホールディングスとソフトバンクの合弁会社であるClassiが、学習支援プラットフォーム「Classi」の提供をもって参画することが決まった。


クラスジャパン教育機構 代表理事の中島武氏(左)、Classi代表取締役副社長の加藤理啓氏(右)

 インターネットの学校といえば、学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校(N高)を思い浮かべる人が多いだろう。実は、クラスジャパンプロジェクトの理事長を務める中島武氏は、N高設立の立役者なのだ。不登校の高校生たちに新しい選択肢を与えた中島氏が次に取りかかる難題は、不登校の小中学生への支援となった格好だ。

 なぜ、クラスジャパンプロジェクトが設立されたのか、その経緯と今後の取り組みを一般財団法人クラスジャパン教育機構の代表理事である中島武氏、Classiの代表取締役副社長である加藤理啓氏に聞いた。

N高の説明会に「小中学生の保護者が来る」

 クラスジャパンプロジェクトは、中島氏がこれまで関わってきた学校教育の問題に端を発する。中島氏は25年前ほどから通信制高校の立ち上げなどに携わってきたのだが、通信制高校に通う人たちが抱えるある種の挫折感が気になっていたという。

 「通信制高校に来る人たちは、自分はレールを外れてしまったという挫折感を払拭できないまま卒業していくことが多い。その思いを解消させたいと常々思っていたが、できなかった。しかし、N高設立にあたり志倉千代丸さん(ドワンゴ取締役 兼 MAGES.代表取締役会長)と話をしたとき、解決できるのではと感じた。ニコニコ動画は通信制高校の人たちが大好きなサービスだったからだ」(中島氏)。


クラスジャパン教育機構代表理事の中島武氏

 N高設立に関して、「ニコニコ動画はオタクのたまり場というイメージで日陰の存在だった。しかし、ブランドイメージを変えることができた。そこはドワンゴが得意とするところだと志倉さんが言った。"行き場のない子どものたまり場"といったイメージを持たれていた通信制高校を大きく変えることができる」と中島氏は感じたという。

 通常の学校説明会では、親が子どもを連れて参加することが多いが、N高では逆に子どもが親を連れてきた。全日制の高校に通えなくなっていた子どもたち自身が、N高に大きな期待を持っていたのだ。中島氏は「これはいける」と手応えを感じたそうだ。

 N高が設立されたのは、2016年。その半年後に異変が起き始めた。学校説明会には当然中学3年生やその保護者、高校生などが参加しているのだが、小中学生の親が来るようになったのだ。

 「不登校の小中学生の保護者が、我が子の将来が不安で来るようになった。ネットに高校があるなら、自宅にいる我が子も社会性を身につけられるのでは、との切実な思いで話を聞きに来ていた。しかし、小学生で不登校になっていると学力も付いておらず、通信制高校にもN高にも来られない。そこで文科省にN小やN中、つまりネット上の小中学校を作れないかと相談した」(中島氏)。

 文科省からは「小中学生の不登校問題があることはわかっているが、義務教育なので自宅にいることを認める制度はない。ただし、ある制度の仕組みを使うことができるのでは」とアドバイスをもらった。その制度とは、2016年に成立した「教育機会確保法」だ。

 教育機会確保法では、学校復帰を前提としていた従来の不登校対策を転換した。不登校の子どもが無理に通学することによってかえって状況を悪化させることを懸念し、子どもたちの「休養の必要性」を認めたのだ。そして、一定の要件を満たしていれば、民間事業者が提供するITなどを活用した学習活動を自宅で行った場合、本来通うはずの学校の校長により、出席扱いにすること、ならびにその成果を評価に付けられるようになっている。

 「学校に戻らなくてもいい」と文科省が言ったのは大きなことだと中島氏は語る。「今までは不登校の中学生は成績がオール1になり、出席日数もゼロになってしまっていた。これでは公立高校の受験に必要な"受験+内申"の内申が取れないため、合格できない。ところが、民間事業者によるITなどを活用した教育で自宅で勉強することにより、学習成果や社会的活動を出せば、校長がそれを成績に付けることが認められた」(中島氏)。

学校の先生には補えないからこそ民間がサポートする

 教育機会確保法は、不登校の小中学生を持つ親や学校、教育関係者には画期的な制度であるのだが、現状は制度だけで形骸化しているという。

 その理由を中島氏はこう述べる。「学校の先生に学外のサポートは難しい。かつては不登校の生徒の家に放課後訪ねていって学習のサポートをしていたが、今の時代はなぜその子ばかりにかまけるのだと別の保護者から苦情が寄せられる。文科省や教育委員会からもワークライフバランスを考えろとセーブさせられる。結果、子どもたちが放置されてしまう」(中島氏)。

 そこで、クラスジャパンが民間の教育機関を作ることにしたという。在宅の学習サービスのノウハウは、N高で培ったものがある。Classiによるネットの学習支援プラットフォームを利用し、検定教科書に対応した教材はリクルートマーケティングパートナーズの「スタディサプリ」や、すららネットの「すらら」から提供される。

 「クラスジャパンは、子どもの学力や社会性を数値化してエビデンスを出すことができる。すると、本来所属する学校の校長がそれを見て成績を付けることができる。つまり、既存の学校で本来学ぶべきものとまったく同じ状態にすることができる。私たちは学習サービスを作っているのではなく、進路の選択肢として在宅学習ができる仕組みを作っている」(中島氏)。


Classi代表取締役副社長の加藤理啓氏

 クラスジャパンに参画したClassiの加藤氏は、「中島さんの教育改革にかける熱量にほだされた」と話を切り出した。「不登校の小中学生が多いという現状は数字で把握していた。小中学生の不登校は20万7000人。都市部でも地方でも変わりなく、中学生の35人に1人が不登校。クラスに1人いるようなイメージだ。Classiが何かできるのでは、と考えていた。そこにN高を作った中島さんが来て、ミッシングピースが見つかったと感じた。中島さんの構想を聞いたとき、ネットをうまく使えば、物理的に離れていてもクラスジャパンのネット担任と生徒、生徒同士をつなげられる。ここで知り合った仲間を通じて、不登校の子どもたちに外の世界とのつながりを提供できると感じて、ぜひやりたいと思った」(加藤氏)。

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