大学のレベルで人生が決まる中国--勉強漬けの子どもたち、政府の「宿題禁止令」の影響は

向 菲(クララオンライン コンサルティング事業部 リーガルコンサルタント)2021年10月18日 09時00分

 日本では「子どもをのびのびと育てたい」と考える親は少なくない。コロナ禍ということもあり、実際に子ども連れで地方へ移住するケースも増えていると聞く。片や中国では、子どもの教育のために田舎から都市へ引っ越すことはあっても、その逆はありえない。都市と地方では学校の教育レベルや得られる教育機会に大きな格差があるためだ。

 中国の家庭は概して教育熱心で、子どもたちは小さな頃から宿題や塾に追われる日々を過ごす。北京や上海といった都市部では、子ども1人に年間数百万円もの教育費をかける家庭も珍しくない。一人っ子政策を廃止しても少子化に歯止めがかからないのは、子育ての金銭的負担が大きいためとの見方は強く、中国政府はついに宿題や学習塾を禁止する抜本的な教育改革に着手した。

 政策的にも大きな転換期を迎えた中国の教育市場について、これから3回に渡って現状を紹介していく。今回はまず中国の教育制度と就学状況を確認し、子どもたちの勉強漬けの生活がどのようなものなのか、さらに宿題や学習塾の禁止令が出された現在の様子をお伝えする。

中国の教育の現状--大学への進学率は?

 中国の教育制度は、日本と同じ6-3-3制をとっている。未就学児教育として、6歳までの子どもが通う保育園や幼稚園があり、小学校と中学校の合計9年間が義務教育期間だ。高校からは、大学進学を目標とする普通高校と、就職のために専門知識や技術を身に着ける職業高校や技術学校へと進学先が分かれることになる。

 大学は、本科と呼ばれる四年制の普通大学と専科と呼ばれる三年制の職業短期大学がある。日本の短期大学や専門学校と同じような位置づけにあるのが職業短期大学で、服飾、幼児教育、自動車整備、情報技術、経営管理などさまざまな学科がある。大学院への進学を希望するのであれば、本科を卒業しなければならない。

 進学率は小学校が99.96%とほぼ全員が就学できる状況にあり、高校は91.2%、大学・職業短期大学以上の高等教育は54.4%となっている(2020年教育部)。

 
 

 今から約70年前の中国建国時には、国内の非識字率が80%に上るほどであったというが、現在、新規学卒就職者の53.5%が高等教育を受けており、就学年数(教育を受けた年数)の平均は13.8年に達している。

 
 

 なお、政府による長年にわたる識字教育運動により、2020年の非識字率は2.67%まで改善されている。現在も約3770万人いる非識字者の多くは、内陸の農村地域に住む高齢者となっている。

大学のレベルで人生が決まる中国

 中国の子どもといえば、甘やかされて育っているというイメージが強いかもしれないが、こと学業の面では私たちの想像をはるかに超えるプレッシャーのもと、小さな頃から勉強に追われているのが実情だ。日本よりも学歴社会の傾向が強い中国では、一流大学に入れるかどうかで人生がほぼ決まると信じられている。中国人が教育熱心なのはそのためだ。

 特に今の30〜40代の子育て世代は、「一人っ子」政策が始まって間もなく生まれた世代にあたる。両親と祖父母に溺愛されながらも、高度経済成長期の真っただ中で「勉強すれば成功できる」という期待とプレッシャーをまさに“一身に”背負って成長してきたのだ。

 懸命に勉強して一流大学や大学院を卒業し、都市部で管理職や経営者としてバリバリ働いていれば、自然と自分の子どもにも同じように努力して成功して欲しいと望むものなのだろう。一人っ子たちが親になった今は、高校生の過半数が大学に進学する時代となった。一流大学でなければ希望通りの就職をすることも難しくなっていることから、親の教育熱はいっそう高まり、競争は低年齢化する一方となっている。

友だちと遊んだ記憶のない子ども時代

 都市部に住む平均的な収入以上の家庭の子どもであれば、生まれて間もなくから勉強の毎日が始まる。都市部では幼児教育が広く普及しており、多くの子どもが0歳のうちから3歳になるまで民間の幼児教室に通う。知育玩具を使って知覚や身体機能のトレーニングを行い、脳を刺激して思考力を育てるのだという。

 3歳から6歳までは日本と同様に、公立または私立の幼稚園に通うのが一般的だ。私立幼稚園の中には、読み書き、割り算や掛け算を含む算数、英会話といった英才教育を行い、毎月の月謝が1万元(約15万円)以上になる園もある。さらに幼児向けの英語教室やダンス教室、美術教室といった習い事も盛んで、週1回1時間のレッスン費用は、年間1万元(約17万円)を超える。

 
日本の幼児教室コペルは中国全土に教室を展開している

 小中学校は日本と同じように学区内の学校へ通うのが基本だが、良い大学を目指すのであれば、まずは重点学校である国家重点大学付属小学校を受験することになる。重点学校とは、国家が指定する進学校で、一般の学校に比べて教師の質が高く、教育設備も整っているとされる。ただし、付属校とはいえエスカレーター式ではない。一流大学入学を目指すには、まず重点小学校に入学し、次に重点中学へ、さらに重点高校へと進学するのがセオリーだ。

 小学校では毎日科目ごとにプリント数枚程度の宿題が出されるが、親が回答をチェックして、全問正解にしてから提出しなければならない。宿題が多いのは重点学校に限ったことではなく、一般の小学校でも同様だ。夜遅くまで親がつきっきりで勉強を見てやらなければならず、子どもの宿題を見るために仕事を辞める母親もいるという。今は宿題専門の塾もあり、親が仕事を終えて迎えに来るまで塾で宿題をやるという子どもも多い。

 週末は週末で家庭教師に補習をしてもらったり、ピアノや英会話教室、習字などの習い事に通ったりと忙しいため、友達と遊ぶ時間など全くない。学習塾はさまざまあるが、教師のレベルや塾の目的によって週1回2時間で1科目ごとに年間1〜2万元(約17〜34万円)、習い事も同じように年間1〜2万元するという。

 中学生になると、朝8時から夕方4時過ぎまでの8時限の授業に加えて、毎日のように補講や強制的な自習時間があり、やはり夜遅くまで大量の宿題に追われて過ごす。家庭教師代の相場は1時間につき300〜500元(約5000〜8500円)で、中学生になると勉強時間を確保するために習い事はやめてしまう。日本の中学生のように部活動をすることもない。

 そして高校に合格すると、間もなく大学受験に向けた受験勉強が始まる。朝は7時頃には登校して自習し、授業後も夜9時近くまで自習する。塾に通う生徒もいるが、学校に残って夜遅くまで勉強する生徒が多い。そのため、自宅とは別に高校のそばにマンションを借りたという話もよく耳にする。少しでも通学時間を減らして、多く睡眠をとってもらい、その分勉強に打ち込んで欲しいという親心である。重点高校ともなると生徒の70〜80%が北京大学や清華大学といったトップクラスの大学に進学している。

 ちなみに中国には、私立の学校が小学校から大学まで全国に1万5000校以上ある。私立学校の方が学費は高いものの特色ある教育を行っており、小中高の一貫教育を行う学校も存在している。海外の大学への進学に特化した教育を行う私立学校は、海外志向の強い家庭の子どもだけでなく、重点大学への進学コースから外れた子どもの受け皿になっている面もある。

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