4月1日に開校する通信制高校「N高等学校(N高)」の課外授業で使われる“双方向教育システム”は、iOS/AndoroidアプリとPCのブラウザで提供される。課外授業には、大学受験対策やプログラミング、ファッションやイラストなどのクリエーター系の授業があり、生徒は好きな科目を選んで、このシステムを通じて“生授業”が受けられる。
カドカワ代表取締役社長でドワンゴ代表取締役会長である川上量生氏は3月22日の発表会で、この双方向教育システムは次期ニコ生のシステムであり「ニコ生の最新版が、N高等学校に先に登場する」形になると明かした。
同校における学習の核となる同システムは、いかにして生まれたのか。ドワンゴ教育事業本部 コンテンツ開発部の部長である今野寿昭氏に聞いた。
ドワンゴによれば、N高等学校の設置が3月18日付で沖縄県知事に認可された。N高の生徒の入学申し込み件数は「開校時点で千数百名になるペース」だという。
--双方向教育システムのコンセプトは。
まず、「スマホファースト」で検討しました。ターゲットである高校生が最も所持しているデバイスはスマートフォンです。ベネッセ教育総合研究所の調査(2014年)によれば、自分のスマートフォンを持っているのが8~9割。一方で自分のPCやタブレットを持っているのは10%程度で、大抵が家族との共用でPCを使っています。
やはり、自分のデバイスで勉強していただくのが筋だと思い、スマートフォンを第一に考えました。スマートフォンは最も画面サイズが小さいデバイスであり制約条件が多いため、そこで成立すればPCにもそのまま適用できると思っています。
世界を見渡しても「eラーニング」のフォーマットの正解はまだ見えていません。近頃はMOOCなどが出てきましたが、それがデファクトスタンダードになっているかといえば、決してそうではない。従来のものと比べても、録画した動画を提供することに変わりはありません。
我々は、eラーニングの課題の1つが「動画を観るだけ」の点にあると思っています。従来のeラーニングは大抵が録画した動画を流していて、いつでも自分のペースで学習できることを利点としています。一見、融通が利きそうですが、見ていてぼーっとしてしまう人も多いと聞きます。また、学習スケジュールを自分で管理しなければならないため、継続性が低いと言われています。
我々がN高の課外授業で何を提供するか、教育システムとして何をよりどころにするか――。まず、授業を「生」で放送することが1つの柱です。niconicoは動画から始まって生放送に展開し、その双方向性で成功してきました。そのため、授業も生放送をコアにしようと考えました。
その上で、niconicoの特徴である、コメントによる配信者と視聴者のやりとり(先生と生徒のやりとり)に加えて、アンケート機能を発展させて問題を出題できるようにしました。そして、もう一歩踏み込んで、過去に提供していたサービス「ニコニコ電話」のような、多数の視聴者から1人を選ぶ仕組みを導入しました。生徒に手を挙げてもらい(画面のボタンをタップしてもらい)、選ばれた生徒だけがテキストを書き込めたり、ノートに書いた自分の解答を写真に撮って送ったりできるものです。それらを双方向の柱とした生授業にしようと考えました。
授業を受けるだけで、大学受験で合格するだけの力や、コードが書けてエンジニアになれるだけの力が身につくとは思っていません。そのため、生授業に加えて、スマートフォンで学習しやすい教材を提供します。教材で自習をしてもらいながら、週に1度、その教材を使った生授業を開いて、わからないところを先生に質問して理解が深めていただきます。また、生徒同士でも相談しあえる「Q&A掲示板」を提供します。
壮大な目標ではありますが、「スマートフォンで完結する学習」を目指してシステムを開発しています。生授業、教材、Q&A――この3つの要素があれば、スマホなりPCなりで完結する学習が目指せるのではないかと。この3点でこと足りているかはわかりませんが、理想に限りなく近づくのではないかと考えて、1年間企画してきました。
--教材は自製しているそうですね。
自社でコンテンツをここまで作っているのは、すごいことかもしれません。我々は、コンテンツを買ってきて載せるだけにしようとは決して考えていません。川上(量生氏)も「自分たちでコンテンツを作らないと絶対にだめ」と言っています。
ドワンゴ自体も、ニコニコ生放送やニコニコ動画のプラットフォームを用意しつつ、オリジナルの公式番組などのコンテンツを数多く作っています。
大学受験コースでは、プロ講師の方々と専属契約を結び、教材を執筆・監修していただいています。コンテンツのフォーマットなどはドワンゴのエンジニアが考えています。また、KADOKAWAの中経出版の編集者がドワンゴに出向しており、フォーマット制作に活かすべく、紙書籍の編集ノウハウを伝授していただいています。
プログラミングコースの教材は、ドワンゴのエンジニアが自ら執筆しています。クリエーター系コースの教材は、KADOKAWAの「電撃」ブランドの作家や、ドワンゴの子会社であるバンタンの講師にも原稿を書いていただいています。
紙で学習コンテンツを作ってきたKADOKAWA、ネットに強いドワンゴ、専門学校としてリアルの場でクリエーター系の授業をしてきたバンタン――今回の取り組みで、グループのシナジーがものすごく活きていると日々実感しています。
--N高は4月1日にいよいよ開校します。
授業が始まってからも、システムは常に改善していきます。また、まだやりたいことがたくさんあるので、新機能も順次実装していきたいです。デジタル教材の強みは、いつでもアップデートできること。自分たちでコンテンツを作っているため、知見がたまりやすく改善サイクルを速く回せるはずです。
今後の取り組みは、我々が考えるeラーニングのプラットフォームやフォーマットを見つけていく旅になると思っています。試行錯誤するので時間は掛かるし、研究に近い内容もあるでしょう。繰り返しになりますが、開校時点で我々の出した答えは「生授業」「教材」「Q&A」を取り入れた、先生と生徒、生徒同士のコミュニケーションができる双方向性を重視したプラットフォームです。今後も、双方向性のある機能を重視して開発を進めていきます。
◇「N高等学校」奥平校長の視点
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