LINEの上級執行役員で広告事業のトップでもある田端信太郎氏が、6年間務めてきた同社を2月末をもって退職することを、自身のFacebookやTwitterで明らかにした。その理由について、「炎上やセクハラが原因での辞職ではなく、あくまで『新たな挑戦』をするため」と語っていた同氏に、その真意を聞いた。
——なぜ、このタイミングでLINEを辞めることを発表したのでしょうか。
田端氏 : 実は退職については2017年の秋ごろから考えていました。ただ、突然辞めるわけにもいかないので、年明けからお世話になったパートナーや代理店に挨拶まわりをしていたのですが、割とたくさんの人に会っていたので、退職の話が直接言っていない人にも広がりはじめていて、これはもうメディアの皆さんに聞かれる前に自らパブリックにした方がいいと思い、このタイミングで公表しました(笑)。
——それで事前にSNS経由で発表されたんですね。では「新たな挑戦」とは具体的にどのようなことに挑戦するのでしょう。
田端氏 : まだどの会社に行くのかは言えないのですが、いわゆる競合他社のプラットフォームではなく、広告主サイド(事業会社)になります。
LINEにいた最後の2~3年は、結局「広告って何なのか」ということをずっと考えていたんです。思い起こすと、僕は社会人になってから15年近くの時間を広告営業で過ごしてきたわけです。その仕事が自分にも合っていたし、楽しかったんですが、その一方で広告主や事業者サイドのデジタルマーケティングのリテラシーが上がりきらないと感じていました。一般的に、先進的なデジタルマーケティングをとりいれている企業は世の中の1~2割で、残りの8割は「他社がやるからうちもやる」というスタンスになってしまいがちです。
そこには、広告主サイドのマーケティング担当者がジョブローテーションで数年周期で入れ替わっていたり、本当の意味でのプロが育っていないといった問題もあるのですが、われわれが広告営業の立場で社外から広告主を変えていくには限界があると常日頃思っていて、フラストレーションを感じていなかったかと言うと嘘になります。そこで、今度は自分が広告主サイドになることで、(業界のデジタルマーケティングの水準を)もっと高められたり、スピードを早められればと思いました。
スマホを使ったデジタルマーケティングは、いよいよフェーズ2に入ってきています。いまさら、ファストフード店がスマホにプロモーションバナーを出してもしょうがないわけです。せっかくスマホでトラッキングができて、決済もできるのであれば、ドライブスルーで5キロ前からスマホで注文して、ピックアップできるようにしたほうが楽ですよね。
また、人々の消費行動もこれまでのようにお店に行かなくても、たとえばAmazon Dash Buttonなどによってボタン一つで欲しいものがすぐに頼めるようになりました。こうした事例もあって、少しずつIoTマーケティングの意味がわかってきたのですが、スマホという常時接続デバイスが手元にあったり、IoTのセンサが家中にあることで、これまで分断されてきた需要と供給がつながるようになったのです。
そのため、大量生産、大量消費で、大規模なプロモーションをする時代は終わると思っていて、そうすると広告というもの自体が根本的に変わらざるを得なくなります。(LINEという)広告プラットフォームは、ある意味実物をもたないし、在庫リスクを取らないからこそ利益率が高いんですが、世の中のリアルビジネス全体から見ればまだまだ少ない。そうじゃない、もっとリアリティのあるところを追求したいと思い、次は広告主サイドに行くことにしました。
——LINEでは、さまざまな広告ソリューションの立ち上げに携わってきたかと思いますが、田端さんにとってこの6年間で印象的なエピソードはありますか。
田端氏 : 年で言えば2013年と2014年ですね。(企業がLINEユーザーに自社のスタンプを配信できる)「スポンサードスタンプ」が人気で満稿になってしまい、広告主にお断りに行くことで怒られるという経験をしました。
あとは、(企業がユーザーにメッセージ配信できる)「ビジネスコネクト」の立ち上げです。世の中のLINEへのニーズに対してわれわれの体制が追いつかず、何度か広告主にお詫びに行ったことがあるのですが、通常の広告営業だったら「最悪お金はいりませんので勘弁してください」と言えば許してもらえるものですが、もうそういう次元ではなかったんですね。たとえば、電気会社が停電したので今月の料金はいらないと言っても「そういう問題じゃない、早く電気を復旧させろ」という話になりますよね。金銭的などうこうではなく、われわれもそういうインフラの次元にきたんだなという怖さを感じたとともに、だからこそより広く活用してもらいたいと感じました。そして、ビジネスコネクトを発表したんです。正直、それまで私は1媒体社の営業という目線が抜けていなかったのですが、ビジネスコネクトを発表した時の世の中の反響に、LINEはある種のインフラプラットフォームになったんだなと感じましたね。
——この6年間で広告業界を取り巻く環境はどう変わったと感じますか。
田端氏 : 正直、もう6年前がどうだったか全然覚えてないんですが(笑)、よくも悪くも運用型のインフィード広告が増えて、相対的には検索エンジンの重要性が落ちたことが一番大きな変化だと思います。なので、PCのリスティング広告は長期的には緩やかに衰退していき、スマートフォンの中では検索よりもLINEやFacebook、Twitterのインフィード広告がメインの運用型の配信先になっていくのではないかと思います。(LINEの運用型広告である)「LINE Ads Platform」なんかは、立ち上げ段階から代理店さんには熱心にサポートしていただいていたのですが、逆の立場で考えると、PCのリスティング広告を横目で見ていれば、次はインフィード広告だなという思いがあったんだと思います。
——田端さんといえば、SNSでのさまざまな炎上エピソードが思い出されます(笑)。
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