横浜銀行とワコールが語るデータ活用の重要性--「CMO Award」パネルディスカッション

集積したデータ分析とAI活用でオムニチャネルを推進する横浜銀行

 CNET Japan CMO Award受賞者を交えたパネルディスカッションは、イベントのサブタイトル「AI時代に再考するデータドリブンマーケティング」にあるとおり、効果測定などで得たデータを基に、次のアクションを起こす“データドリブン”をマーケティングに活用すべきという観点で開催している。受賞者である横浜銀行加藤毅氏は次のようなプレゼンテーションを行った。

 全国の約18%の人口が集中する神奈川・東京圏をメインの市場とする横浜銀行は、550万人超の個人顧客(2017年3月末現在)を抱える地方銀行だ。2005年6月に頭取へ就任した故小川是氏が他業種と比べて「銀行はデータを保持しているのに活用していない。今後のマーケティングではデータが重要だ」(加藤氏)と自身がマーケティング業務に携わった契機を説明した。現在の同行は地域での認知度向上を目的としたブランディングや、IT技術の活用、データサイエンティストとして行員8人にシンクタンクを交えた研究所を設けて、データベース活用を目的とした分析を続けている。


横浜銀行 総合企画部 担当部長 加藤毅氏

 現在、内閣府は未来投資戦略2017として「Society 5.0」を国家戦略に位置付けている。AI(人工知能)などに代表されるイノベーション(技術革新)をあらゆる産業や社会生活に取り組むことで、社会課題の解決と中長期的な成長を実現する施策だ。「1965年頃、預金を下ろすためには銀行の窓口に行く必要があったが、1971年頃にATMが登場してユーザー体験は大きく変わった。これは1つのイノベーションだった」(加藤氏)と振り返り、同様のイノベーションが約50年ぶりに世界各国で起きつつある現状を説明する。「スウェーデンではキャッシュレス化が進み、現金の使用率は1割にも満たない。つまりATMすらいらなくなった。日本人は世界でも特異な現金好きな国民だが、日本政府もキャッシュレス化を目指している」(加藤氏)という。

 横浜銀行がデータドリブンを実務レベルで活用し始めたのは、ここ10年前後の話である。それ以前は10年ほどかけてデータ集積と分析を行い、試行錯誤を繰り返してきた。1997年以前を振り返ると、同行にはマーケティングの概念すらなかったという。「銀行が生まれて150年経つが、以前は店舗出店や商品も行政が決定権を持つ。金利にも規制があった。つまり約130年間はマーケティング要素の多くを行政が決めてきた」(加藤氏)。それまでの護送船団方式から金融ビッグバンを経た金融自由化に伴い、金融機関によるマーケティング戦略が実現できたという。

 このような背景を元に横浜銀行は、2008年から「EBM(イベントベースドマーケティング)」に取り組んできた。優秀な担当者の行動や経験をビッグデータと統計手法でモデリングし、結婚や出産など顧客のイベントに合わせてアプローチする仕組みである。

 本来であれば網羅的なアプローチも可能だが、「個人的見解だが、銀行は普段はあまり出しゃばらない方がいい。週末、家族とくつろいでいるときに金融商品の案内の電話がきても困るという方もいる。一方で、教育ローンや相続など、必要なときには連絡がほしいという方も多い」(加藤氏)からこそ、適切なタイミングで顧客へアプローチするEBMが効果的だと同行は説明する。

 このほかにも、2012年から地方銀行10行が共同でデータを活用する「共同MCIFセンター」や、前述のEBMから得た知見を特許として申請する知的財産戦略を実施。2016年からは自己学習能力を保有するオムニチャネル・システムを核に、メールやスマートフォン、ウェブサイトやATMがリアルタイム連携するシステムを開発した。今後は営業店やコールセンターを含めた有人系の統合を目指す。加藤氏はマーケティング用語の「4P」を引用し、「自由化が進んだとはいえ、銀行は製品や価格による差別化は難しく、販促も効果的とは言い難い。だからこそ顧客が好きな時に好きなチャネルで自由にサービスを享受するのがベスト」(加藤氏)とオムニチャネルの効果性を語った。さらに2017年からはスマートフォンのアプリを利用し、普通口座から購入決済を可能にする「はまPay」を開始した。

 他方でAIへの取り組みは、行員が見落としていた新市場の探索と、サービス品質の向上に活用している。「カードローン契約を例に挙げると、一定以上の預金を所有しているのにローンを組む人が少なくないケースが発見された。われわれはカードローン=お金がないという固定概念を持ってマーケティングモデルを作っていたが、預金を崩さずに買い物をするという需要をAIが発見」(加藤氏)したことに驚きを隠せなかったという。サービス品質向上については、「膨大な顧客面談記録をAIでチェックし、(スコアが低い行員に対して)個別指導を行っている」(加藤氏)。

 具体的には暗黙知を学習して人間の機微を感じとる人工知能「KIBIT(キビット)」を利用し、設定したテーマに基づいたスコアを付与することで、面談記録の業務効率化やモニタリングの範囲拡大を実現。これらのシステム開発期間について、「AIは、導入時は赤ちゃんと同様。教師データ作成に半年から1年間かけつつ再学習を行ってきた」(加藤氏)。AIへの投資金額は金融機関の規模によって異なり、「われわれは数千万円程度だが、数百万で構築可能な例もある。メガバンクになれば何十億円に達するケースもある」。

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