今から5年前、Microsoftは「Windows」のあり方を根本から変えようとした。
その試みの中心となったのが、Qualcommなどのメーカーが製造するチップの採用だ。それらのチップはスマートフォンやタブレットで使われることが多く、これまでWindows PCの頭脳としてIntelやAMDのx86系チップを使ってきた歴史からは、かなり大きな方針転換だった。
同時に、「Windows 8」の軽量版である「Windows RT」も登場し、それまでより薄く軽いPCとタブレットが生まれるはずだった。そうなれば、Microsoftも、Hewlett-Packard(現HPの前身)やDellといったパートナー企業も、Appleの「iPad」ともっと有利に戦えていただろうし、人々のPCに対する関心も再燃していたかもしれない。
しかし、実際にそうなることはなく、Windows RTは失敗に終わった。登場から3年とたたないうちに、短命なOSは姿を消していく。
だが、Microsoftは、QualcommやHPなどのメーカーと手を組んで、2度目の挑戦に乗り出そうとしている。その構想の下で発表されたのが、Qualcommの「Snapdragon」チップを搭載する「Always Connected PC」(常時接続のPC)だ。
今回の新しい試みの背景には、スマートフォンの利用時間が増える一方、PC市場は縮小の一途をたどっているという現状がある。では、どうすればいいのか。次のPCは、もっとスマートフォン寄りにすればいい。IntelがAppleの「iPhone」に対応できる性能を備えた4G LTE通信を実現したときのようになれば、PCにも新たなビジネスチャンスが訪れるとQualcommは考えている。MicrosoftとPCメーカー各社が期待しているのは、長時間持続するコンピュータなら、もう一度ユーザーを振り向かせることができるということだ。
先陣を切って登場する2つのデバイスが、HPとASUSの2-in-1ノートPCで、20時間以上のバッテリ持続時間、常時接続、瞬時の起動を約束している。特に重要なのは、どちらも完全版のWindowsが稼働し、通常のWindowsアプリケーションを使えるという点だ。
「Windowsに期待することは何でもできる上に、新しい機能にもすべて対応している。かつてのWindows RTとはまったく違う価値を提供する」。米国時間12月5日、ハワイのマウイ島で開催されたQualcommの技術カンファレンス「Snapdragon Technology Summit」で、同社の半導体事業を率いるエグゼクティブバイスプレジデントCristiano Amon氏はインタビューにこう応じた。
MicrosoftとQualcomm、そしてPCパートナー各社が今回の新しいデバイスを成功させたいのであれば、この言葉が本当になることを願うしかない。
モバイル向けチップで動くPCを語るとき、まず避けて通れない(少なくとも頭をかすめる)のが、Windows RTの歴史だ。
Windows RTは、Windows 8の軽量版OSとして2012年後半に登場したが、当初から苦戦を強いられた。従来のWindowsアプリケーション、例えば「Outlook」を使えないことや、消費者から見ればWindows RTと完全版Windows 8との違いがよく分からないことも、敗因のひとつだった。
Microsoftは、Windows RT対応デバイスの開発プロセスを厳密に管理し、チップメーカーと提携できる企業の数も制限していた。その方が、より優れたデバイスを開発しやすいという根拠だった。ソフトウェア環境もハードウェア環境もコントロールするというApple流のモデルを模倣しようとしたのである。
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