クラウドファンディングといえば、アイデアはあるが、資金が豊富ではない小さなスタートアップが製品化に向けて支援を募る場──そんなイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、最近ではソニーやシャープ、東芝など名だたる企業もクラウドファンディングを活用し始めている。
文具メーカーとして知られるキングジムもその一つだ。10月に持ち物を見守るデジタルツール「トレネ」のプロジェクトをクラウドファンディング「Makuake」で開始した。
十分な資金や販路を持つ企業がなぜクラウドファンディングなのか。従来の販売とどういった違いがあるのか。今後の開発にどういった影響があると見るか。キングジム 常務取締役 開発本部長兼広報室担当の亀田登信氏とキングジム 商品開発部 デジタルプロダクツ課リーダーの渡部純平氏、マクアケ 取締役の木内文昭氏に話を聞いた。
――十分な販路や資金も持つキングジムが、なぜクラウドファンディングに取り組もうと思ったのでしょうか。
亀田氏:確かに従来は資金が足りない、小さい会社や個人などがクラウドファンディングを使うというものだったかもしれません。でも、最近のMakuakeの活動を見ていると、資金調達だけでなく、Makuakeようにたくさんの会員がいるところに商品を発売する前から濃密な情報を出すことで“PR”として活用する側面があるんだろうなと思っています。自身もMakuakeのプロジェクトで「ああ、こんな商品があるんだ」と知ることもある。われわれの商品は、一般的な店舗で扱っていただけるものの、ターゲットとするお客様に情報を伝えるのが難しいと思っています。広報がいろいろな手を打ち、SNSを使ったり媒体の力を借りたりするわけですが、(世の中に)情報はたくさんあります。Makuakeは、興味を持った方々にちゃんと読んでいただけるような“媒体”のような役割に近いのではないか、と興味を持っていました。
――テストマーケティングに加えて、PRしての場として興味があったと。キングジムは「市場調査をしない会社」というスタンスでしたね。
亀田氏:当社の社長からは「三振してもいいから10発に1本ホームランを打て」と言われています。単なるヒットではなく「ホームラン」ということは、なかなか大変なのですが(笑)。世にないものは、(市場調査をしても)本当に当たるのかどうかなんて分からない。今までどうしていたかというと、まずは出すんですよ。もちろん、その会社の商品にもよると思います。今回のプロジェクトは電子モノですが、われわれが出す一般の文房具類は、比較的開発費が安かったり開発の期間が短かったりして、リスクが小さいということもあるので、とにかく出してみる。
世に問うてみて、売れれば当たりだったし、外れたら次に生産しなきゃいいんだから、ということなんですね。いろいろな調査をしたところで、新規概念商品だとなかなか調査対象の方が想像し得ない。だから一番わかりやすい方法として、市場調査をするよりはまずは出してしまおう、というのがマクアケとご一緒する前までなんです。
Makuakeの登録会員を見ると、こういうこと(電子文具など)に興味を持っている方たちがいる。われわれは、(ターゲットとなる人が)分からないと思う分野だから調査しないだけで、分かる分野は調査して事前に分かりたいんですよ。
今回ご一緒させていただいた製品は、まだ一般に発売をしているわけではないので、Makuakeの反応と市場での反応の違いがわからないのですが、こうした事例をいくつか積み重ねていけば、もしかしたら「出してみなきゃわからない」と言っていたことが、その手前で分かることがあるかもしれない。ここをこう変えればいいのかな、とか、今まで10しか売れなかったものが20売れるようになるかもしれない──という可能性も考えています。
――トレネは、クラウドファンディングに出すことを前提として企画したのでしょうか。
渡部氏:いいえ、企画当初からクラウドファンディングを使うということが決まっていたわけではありません。普通の流れで新製品を発表して発売する、という流れでした。 亀田氏:キングジムはいろいろな商品を出すのですが、開発するものの中には「それは本当に売れるのか?」と思うものがあるんです。でも、新規概念商品は(売れるかどうか分からなくても)しかたないよね、という判断をずっとしていたのですが、もしかしたらもう少し手前で何かが分かる方法があるんじゃないか、というところでマクアケに相談させていただきました。CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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