シャープは、3月に日本酒専用の保冷バッグを開発した。石井酒造が限定醸造した日本酒を同梱した「雪どけ酒 冬単衣(ふゆひとえ)」として、「Makuake」でクラウドファンディングを実施。目標金額100万円を大きく上回る、1800万円超の支援金を集め、完売となった。
シャープが作る保冷バッグ、酒造メーカーとのコラボレーション、クラウドファンディングへの出品と、保冷バッグの登場は、シャープにおける従来のモノづくりから言えば“意外性”に富んでいる。液晶の技術を転用した保冷バッグをなぜクラウドファンディングという手法で販売を始めたのか、日本酒とのコラボはどうやって生み出されたのかを、シャープの社内ベンチャーTEKION LAB(テキオンラボ)のプロジェクトリーダーである西橋雅子氏と、石井酒造とのビジネスマッチングをもたらしたサイバーエージェント・クラウドファンディングで、企業向けのクラウドファンディング活用を推進する部署の担当取締役である木内文昭氏、クリエイティブディレクターの北原成憲氏に話しを聞いた。
--今回のクラウドファンディングに至った経緯を教えてください。
西橋氏:以前からMakuakeの方とやりとりがあり、何度かクラウドファンディングの相談に伺っていたようですが、社内の調整がつかず、実現はしていなかったんです。そうした中で今回、マイナス24度からプラス28度の温度領域の特定の温度で蓄熱する蓄冷材という技術をご相談したのがきっかけです。木内氏:シャープの方とは2年前くらいから勉強会などでご一緒させていただいていました。何度かプロジェクトを立ち上げようとしたのですが、なかなか実現化に至りませんでした。しかし、この蓄冷材を見た時にこれは来たなと。ちょうどシャープの体制が変わり、新規事業を立ち上げやすいタイミングだったこともあって、ぜひやりましょうと働きかけました。
西橋氏:社内に、新しいことに着手しよう、今までにないことを手がけようという動きがあったため、以前に比べて格段に新規事業を始めやすい環境が整っていました。今までも既存事業だけでは良くないという思いはもちろんありましたが、「そこにユーザーはいるのか」「市場規模はどのくらいなのか」など、始めるまでにクリアしなければいけないことが多すぎて、時間がかかってしまっていました。新規事業は立ち上げたいけれど、経営判断に時間がかかるというジレンマがずっとありましたが、去年のタイミングは「新しいことをやるしかない」という意識改革が社内のあちこちに出始めていて、「やるなら今」という感じでした。
--シャープとしてクラウドファンディングに出品するのは今回が初めてですか。
西橋氏:初めてだと思います。ですから新規事業に対するハードルが低くなったとはいえ、さまざまな壁にぶつかりました。クラウドファンディングとは何かという説明もしなければなりませんし、「今までの販路ではなぜだめなんだ」と言われることもありました。そうした説得を1つずつして、社内の決裁を取っていきました。
途中何度かくじけそうになることもあったのですが、その度に木内さんやクリエイティブ・ディレクターの北原(成憲)さんがこまめに連絡をくださるんですよ。その時々に応じた代替案を出してくださったり、柔軟に対応してくださったりしたことは大きな力になりました。
木内氏:決裁が下りて、いよいよ始動となった時にも公開時期を延期するという話も出ましたよね。でも、その時に絶対延期しないほうがいいと思い、予定どおりの3月28日に公開することができました。
西橋氏:その時に木内さんに「ここまで盛り上げてきて延期するとその熱が冷めてしまう。それは損失だ」と言われました。まさにその通りだなと。万が一決裁がおりなかったら謝罪する覚悟で臨んでいたのですが、みんなで謝るからといってくださって、本当に心強かったです。無事決裁がおりて、本当に奇跡の連続で公開までこぎつけました。決裁が下りたときは、シャープ側はもちろんMakuakeの方も自分のことのように喜んでくださって、あぁこれはチームなんだなと実感しました。
木内氏:私たちはあくまで外部の人間なので、外部の人間だからこそできることをやらないといけない。それは何かといったら背中を押すことなんです。言葉での後押しはもちろんなんですが、今回のプロジェクトでは、北原が必要な資料をそろえたり、データを用意したりと、微に入り細に入りフォローすることができたと思っています。
西橋氏:新規事業の立ち上げは、今のシャープにとって大変重要なことですが、一つの壁を乗り越えると、また壁が出てきて、その壁を乗り越えることに一生懸命になってしまって、なかなかゴールが見えず、疲れてしまうケースもあったんですね。クラウドファンディングはもちろん壁もありますが、その壁を乗り越えるのではなく、ドリルのように穴をあけて、突き進める仕組みだと思いました。
企業の宿命なのかもしれませんが、新しいことをやるには時間がかかります。必要なハードルを突破しつつ、スピード感を持って取り組めたのがMakuakeでした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?