データの時代である。そして、PRとデータは切っても切り離せない。
データが与えてくれるのはファクト(事実)の表出であり、PRは常に「ファクトベース」が求められるからだ。
先月開催された世界最大のクリエイティビティの祭典カンヌライオンズでも、データは大きなテーマだった。 僕が審査員を務めたPR部門でも、データの使い方が秀逸なものが目立った。
受賞作の中から2つほど紹介しよう。
「日々数千人もの児童が、汚れた衣服に引け目を感じ不登校になる」「定期的に不登校になった児童は、他の子の7倍の確率で学校をドロップアウトする」こうしたデータに目をつけたのが米家電メーカーのWhirlpool。
自社製の洗濯機と乾燥機を学校に設置し、生徒たちがいつでも衣服を洗えるプログラム「Care Counts」を展開した。
洗濯機はID入力で使用できるので、洗濯をした生徒の出席率を個別に追跡することも可能になった。
その結果、学校で洗濯をしてキレイな衣服を身につけるようになった生徒の出席率が向上、不登校が軽減した。
このキャンペーンによりWhirlpoolの企業イメージも向上した。
このキャンペーンでのデータは、「衣服が汚いと学校に行きにくくなる」というインサイトの発見と、さらにはプログラム展開時にその相関性をトラッキングすることに貢献している。
「家電メーカーが学校に洗濯機を寄付する」こと自体に斬新な価値はない。データによって浮かび上がる「知られざる相関性」が軸になっていることと、未来ある子供たちを救うという大義——これがこのキャンペーンの価値を高めている。
もうひとつ、また違ったアプローチのケースを紹介しよう。
「交通事故で生存できる、唯一の人間」——そんな触れ込みで披露されたのは、「グラム」と名づけられた何とも奇異なクリーチャーめいた彫刻人形。
一度見たら忘れられない「グラム」は話題となり、公開1週目に世界で12億インプレッションを果たした。
これはオーストラリアのTransport Accident Commission Victoriaがしかけた交通安全キャンペーン「Meet Graham」だ。
グラムの造形は、過去の自動車事故のデータを参照し、事故に弱い人体部位を強化することで完成した。その外見に興味をかられた人々がサイトを訪れると、結果的に交通事故の啓発情報に触れることになるしくみだ。グラムの展示にはおよそ30万人近く(対象エリアの実に6人にひとり)が訪れた。
このキャンペーンのオリジナリティは、グラムの造形自体にあるように思える。強烈な印象を与えるそれは、確かにカンヌらしいクリエイティビティに溢れている。
しかし、この作品における真の評価は、そのクリエーションの源泉が数限りない過去の交通事故のデータであることだ。 瞬時に目を奪われ、その造形の理由を理解することで迫力が増す。——まさにデータとアートのマリアージュだ。
PRとデータは「相思相愛」である。データが待っているのは、その「意味づけ」であり、それができるのがPRだ。PRが求めるのは、語るべきストーリーの「裏づけ」となる情報であり、それこそがデータだ。この傾向はますます進むだろう。
データ活用の未来のひとつがPRであり、PRの未来をつくるのがデータなのだ。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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