「企業のIRサイトがない公開企業には投資しない」。
これは4月28日、米国の「株主コミュニケーション365調査」で3780の機関投資家のうち65%がよこした回答だ。それほど各社のIRサイトの情報発信は投資判断を左右している。
この調査が公表された同じ日、IR業界の有力誌「IRマガジン」はS&P100に採用されている米国企業のIRサイトに載っているコンタクト先を調査した記事で、半数がIR部門の責任者、半数が一般的なコンタクト先を掲載していると報じた。
これはIR関係者の間でちょっと話題になった。というのも、IRサイトに載っている「IR部門のコンタクト先」から企業情報の入手や、面談を申し込む株主や投資家は少なくないからだ。
記事のあらましを追ってみよう。なお、ここでいう一般的なコンタクト先とは、会社の住所・電話番号、メールアドレスなどの掲載をさす。
飲料大手コカ・コーラのIRサイトにコンタクト先として自分の名前が載っているIROのティム・レヴェリッジが語る。「一般的なコンタクト先の記載だと、自分が誰かに連絡しようとしているのか、その確信がいまひとつのように感じる。誰かの名前があれば、連絡内容によっては責任を問えるという確信が増すように思う」。
そして「IRマガジン」の記事は「氏名や直接のコンタクト先情報を掲載しない理由の1つは、個人投資家による大量の問い合わせを防ぎたいからだ」と指摘する。
しかし、米国の大手薬局チェーン、CVSヘルスのIRサイトで個人投資家のコンタクト先として名前が載っているマイク・マックギアによれば、これは各社の株主構成によるという。
「CVSへの問い合わせは機関投資家からものがほとんどです。当社の株式は85%を機関投資家が保有しています。個人投資家からの問い合わせは通常、議決権行使期間のものか、もしくは何か特別な問題がある場合です」というのだ。
注意したいのは、具体的な名前を掲載する企業でも、多くが一般的なコンタクト先も同時に掲載している点であり、また具体的な名前が載っていなくても、米国企業の場合ほとんどが、自社サイトのどこかでIR部門の責任者(IRO)の名前をみつけることができる点だ。
というのも、米企業のほとんどがプレスリリースや決算発表といった文書の下部にあるフッターにIROの名前が載っているからだ。
コカ・コーラのレヴェリッジも同社のサイトで彼のプロファイルは写真入りで紹介され、決算説明の電話会議では司会を務め、その名前は記載され、音声も聞こえる。
「私が誰かはすぐにわかります。IRサイトに名前を掲載しない理由などありません」というのも無理もない。
「IRマガジン」の記事は、IRサイトにIR部門の責任者(IRO)の名前があれば情報発信の透明性も高まるという議論の一方で、企業のなかには、数年ごとにIROが異動する例もあり、これでは個人の名前を掲載するにはモチベーションとならないとの議論も紹介している。
こうした現状に、ビジネスワイヤのイブリー・ウッダルは、「IRコンタクトに氏名を掲載する決定をするかどうかに関係なく、IRサイトのトップページから1、2回のクリックで誰がIR部門の責任を担っているのかが分かるようにするべきです」と提案する。
では、日本企業のIRサイトはどうだろう。IR部門の問い合わせ先(Eメールアドレスなど)をウェブ上に掲載している企業は日本語版で約75%、英文版で33.6%だという(日本IR協議会調べ)。
その記載にIR部門の担当者の名前があるかどうかは不明だ。これは、ある意味で、一般に企業情報の発信責任者としてIR部門の統括者の名前をIRサイトに載せるほどIR担当者に対する認識がまだまだ熟していないということなのかもしれない。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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