Adobe Summit2017

AdobeとMicrosoftがマーケで提携初の共同ソリューションを提供開始

別井貴志 (編集部)2017年03月23日 01時40分

 Adobeは年次で開催しているデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2017」において米国時間3月21日、Microsoftとの共同ソリューションを提供すると発表した。これは、2016年9月27日に発表された両社の戦略的提携に伴う最初の取り組みだ。企業がデジタル変革に本格的に取り組み、顧客とのすべての接点において魅力があり、パーソナライズされた顧客体験の提供を支援するための提携で、両社はデータ統合で協力し、人工知能や機械学習、高度分析を活用しながら、顧客が「Adobe Marketing Cloud」と「Dynamics 365ビジネスアプリケーション」で、簡潔な作業を可能にするとしていた。

 今回発表されたのは、AdobeがSummit2017で明らかにした包括的な新クラウドサービス「Adobe Experience Cloud」と、「Microsoft Azure」や「Microsoft Dynamics 365」、「Microsoft Power BI」を活用して、クロスチャネル体験やキャンペーン実行を刷新させるための共同ソリューションだ。両社はまた、一貫、継続したデジタルエクスペリエンスを大規模に提供するために必要なマーケティング、営業、サービス部門が有する各データの言語仕様を規定、統一するために、初の業界標準を共同開発することも併せて発表した。

エグゼクティブバイスプレジデント兼CTOであるAbhay Parasnis(アベイ パラスニス) エグゼクティブバイスプレジデント兼CTOであるAbhay Parasnis(アベイ パラスニス)

 エグゼクティブバイスプレジデント兼CTOであるAbhay Parasnis(アベイ パラスニス)は、Microsoftとの取り組みの前にまずAdobeの考え方、方針を示した。最初に「VRゴーグルなど没入できるメディアやIoT、音声などのやりとりが新しいものを開き、デジタルと物理的な世界の境界線がはっきりとしなくなっています。コンテンツ制作やその提供方法が変わってきています。測定も変わってきているし、パーソナライゼーションやエンゲージメントも必要です」と口火を切った。Adobeが近年重視していて理念とも言えるのが「エクスペリエンスビジネス」だ。顧客に単純に“プロダクト”や“サービス”を提供するのではなく、“エクスペリエンス(すばらしい顧客体験)”を提供することこそがもっともビジネスに重要で、それを実現できなければ企業は成長できず、実現するには“コンテンツ”と“データ”が根源になるという考えだ。Adobe Experience Cloudは、コンテンツとデータを統合する基盤となるクロスクラウドアーキテクチャである「Adobe Cloud Platform」をベースに構築されている。

  • Parasnis氏が語るAdobe Cloud Platformを構築するための3つの原則

 Parasnis氏は「エクスペリエンスプラットフォームは、エンタープライズプラットフォームと異なり、テクノロジやオートメーションではなく、フォーカスを絞ってすべての顧客との接点で提供しなければなりません。Adobe Cloud Platformを構築するのに、3つの原則に焦点をあてました。まず、『エクスペリエンスビジネスの言語で話すこと』、2つめは『イノベーションのエコシステムにオープンで取り組む能力を持つこと』、3つめは『コアのインテリジェンス、そしてリアルタイムでインサイトとアクションを提供することです」と続けた。

 そして、コンテンツとデータを融合させることはAdobeのユニークな面でDNAだとし、コンテンツのクリエーション、そして分析、さらにエクスペリエンスの最適化を継続して提供しているが、この一連の過程では時間をかけすぎているのが課題だと指摘した。つまり、いまだレガシーだったり、独自仕様だったりといったバックオフィスやセールスオートメーションのシステムを使っているため、企業内のプロセスやシステムがうまく動かないので解決するのに時間がかかっているというわけだ。そこで、1つのエクスペリエンス言語を企業全体で使うべきで、「リッチな言語というものは、プロファイル、キャンペーン、イベントなどを共通言語でシームレスにコミュニケーションできます。たとえば、コンテンツマネジメントシステムがロイヤリティシステムとつながり、ロイヤリティシステムがアナリティクスのソリューションからインサイトを引き出すこともできます」と述べた。

 この新たな共通データ言語ツールは「Standard Data Model」と呼ぶ。Adobeは標準を確立し、エンタープライズ企業がコンテンツ、データ、インテリジェンスを既存のプロセスやデータシステムに簡潔に連携できるようにする。企業全体にまたがる顧客体験のための単一の言語を作成し、プロファイルやアセットなどの主要サービスを通じてAdobeのクラウドソリューションとのより深い連携を保証するという。Acxiom、AppDynamics、Dun&Bradstreet、Mastercard、Qualtrics、Zendesk、[24] 7などがStandard Data Modelの開発に参画しており、新しい言語に基づいたアプリケーションを開発する予定だ。

 Parasnis氏は「エクスペリエンスビジネスのハブはAdobeだけで構築しているわけではなく、何千というパートナーがすでにこのプラットフォームを使っています。そして、ミッションクリティカルなアプリケーションを展開しています。昨年2016年のSummitでクロスクラウドデベロッパーポータルである『Adobe I/O』と、エクステンションやアクション、スクリプト、テンプレートなど、アドビアプリケーションの機能を拡張、管理できるさまざまなアイテムがダウンロードできる『Adobe Exchange』を発表しました。Adobe I/Oは、開発者が学び、エンゲージメントでき、現在は毎日7億APIが呼び出されています。そして今回2つ新サービスを発表します」と語った。

 新サービスの1つめ「Adobe I/O Events」と「Creative Cloud API」は、開発者がCreative Cloudアセットやイベントにリアルタイムアクセスできるようにする。たとえば開発者は、クリエイティブファイルが変更された際や、新しいCreative Cloudアセットが追加された際に自動的に最新のコンテンツをマーケティング活動に利用するカスタムアプリケーションを構築できる。複数のクラウドにまたがるワークフローをプログラミングする機能により、企業がすべてのマーケティング活動において最新のコーポレートロゴを自動的に使用できるよう支援するカスタムソリューションなども考えられる。

 もう1つは、、Adobe Cloud Platformをベースに開発された次世代のタグ管理ソリューションである「Launch「Adobe Launch」だ。サードパーティーデベロッパーはLaunchによって、Adobe Experience Cloudとの連携構築、管理、継続的な更新を行うとともに、市場投入までの時間を短縮できるという。アプリストアに似たLaunchのインターフェイスを利用することで、ブランド企業はアドビからだけでなくサードパーティー開発者のウェブアプリを導入して、把握するべき顧客行動を定義し、自社のデジタルマーケティングツールにおけるデータの利用方法を決定できる。Launchを最初に導入するパートナーには、Dun&Bradstreet、Facebook、Twitter、Zendesk、[24]7などが含まれる。

Microsoftのクラウド&エンタープライズグループのエグゼクティブバイスプレジデントScott Guthrie(スコット ガスリー)氏 Microsoftのクラウド&エンタープライズグループのエグゼクティブバイスプレジデントScott Guthrie(スコット ガスリー)氏

 そして、こうしたパートナーにはもちろんMicrosoftも含まれており、戦略的な提携からこの6カ月間でビジョンを共有した。Microsoftのクラウド&エンタープライズグループのエグゼクティブバイスプレジデントScott Guthrie(スコット ガスリー)氏は、「AdobeとMicrosoftの共通の顧客に対して、課題解決に取り組んでいます。すべての組織がデジタルトランスフォーメーションが必要です。顧客のエンゲージメントを新しい形にしなければならない。いろんなシステムにデータが存在し、データがサイロ化されています。それを統合してインサイトを引く出すのは容易ではありません。私たちは、エンドツーエンドでカスタマーエンゲージメントのソリューションを提供できるようにしています」と語った。

 具合的には、今回3つの共同ソリューションが発表された。1つめは「Adobe Campaign」とCRMソリューションの「Microsoft Dynamics 365」の統合だ。これによりさまざまなチャネルにおける顧客のインサイトをまとめられ、マーケティングのタッチポイントにおける体験をパーソナライズするための顧客のシングルプロファイルビューを構築する。2つめは、「Adobe Analytics」と対話型データ視覚化BIツール「Microsoft Power BI」の統合だ。これにより、より強力な顧客インサイトを提供し、ブランド企業はPower BIに行動データを入力することで、各セグメントにおけるキャンペーンの影響度を視覚化でき、もっとも有効な顧客タッチポイントを理解するなどが可能になる。3つめは、「Microsoft Azure」で利用できる「Adobe Experience Manager Sites Managed Service」により、顧客の場所にかかわらず、企業はパーソナライズされたウェブ体験を迅速で効率的に提供できるようになるという。

 Guthrie氏は、「AIや機械学習の能力も搭載されていますので、顧客のより深いインサイトを見極められます。データに関してはいろいろなトピックがありますが、さまざまなプレイヤーの人たちが、製品が実現していないのにサイエンティストの名前を使ってもっと賢く見せようとしている人たちもいます。私たちは、実際に製品を有していますので、両社とパートナーとチームコラボレーションし、データを統合し、将来的にAdobeとMicrosoftの2つのチームがどのように企業に貢献できたかを見るのを楽しみにしています。オンプレミス、クラウドを問わず、Microsoft、Adobe、そのほかのパートナー企業らのデータを組み合わせるツールを構築して、タイムツーバリューをさらに加速させていきます」と競合の嫌みを交えつつ期待を寄せた。

6カ月間ビジョンを共有し、今回大きく3つの共同ソリューションが発表された 6カ月間ビジョンを共有し、今回大きく3つの共同ソリューションが発表された

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