Adobeが年次で開催しているデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2017」が米国時間3月21日、米国ネバダ州ラスベガスにおいて開幕した。来場者数は、過去最高だった2016年の1万人を更新し、1万2000人以上が世界中から集まった。
2016年のテーマは「エクスペリエンスビジネスの時代が到来」だった。顧客に“プロダクト”を提供するのではなく、“エクスペリエンス(すばらしい顧客体験)”を提供することこそがもっともビジネスに重要で、それを実現するには“コンテンツ”と“データ”が根源になるという意味だった。そして、エクスペリエンスビジネスを一貫し継続して提供するためにマーケティングソリューション群の「Adobe Marketing Cloud」、クリエイティブソリューション群の「Adobe Creative Cloud」、ドキュメントソリューション群の「Adobe Document Cloud」という3つのクラウドエコシステムの連携が重要と説いた。2017年のSummitも基本的には、AIや機械学習もより活用しつつエクスペリエンスビジネスの理念をさらに推し進めるというメッセージだ。ただし、これまで“エコシステム”としてきたAdobe Marketing Cloudのコアサービスやソリューション、ツール構成、位置づけが新規のソリューションなどとともに大きく変化し、“プラットフォーム”という言葉が多用された。
基調講演した社長兼CEOのShantanu Narayen(シャンタヌ・ナラヤン)氏は、まず「企業はさまざまな点に対してトランスフォーメーション(変革への移行)を強いられている」と述べ、もはや過去の成功にとらわれて売上成長が永遠に続くと考えるような「現状維持は戦略ではない」と続け、Adobeも例外ではないとした。デジタルテクノロジによって人生が大きく変わっており、多様なデバイスが必要不可欠になってきた。デバイスを使えば朝目覚めるといろんな言語で「おはよう」と挨拶してくれるし、ニュースの情報も得られ、シッピングもできる。さらに、スクリーンをタップさえすれば家族や友人とつながるし、ヘッドセットを使って実際に外に出かけなくてもいろいろな場所に訪問できる。消費者はこの便利さを気に入っているだろうが、こうしたこれまでにない“新しい体験”が次々にものすごい勢いで登場してくると、企業は追いつけず、新しいエクスペリエンスを継続して提供しなければならないプレッシャーと恐怖を相当感じながら競合と戦っているというわけだ。
たしかに、Adobeの過去を振り返るとトランスフォームしてきた。当初は、グラフィックデザインや動画編集、ウェブデザインのアプリケーションソフトウェアの統合パッケージ「Adobe Creative Suite」を筆頭に、ドキュメントパッケージソフトウェアの「Acrobat」の提供、コンテンツ制作だけではなく管理、測定もしようとオンプレミス、ASPなどで提供された「Analytics」などで、デスクトップ市場において躍進してきた。そしてモバイルや高速大容量ネットワークの進化や浸透につれクラウドを活用するようになり「デスクトップビジネスを破壊するのではなく、Reinvent(改革)しようとし、これがソフトウェア業界の大きなトランスフォーメーションになった」(Narayen氏)のだ。ビジネスモデルもパッケージソフトウェアの売りきりではなく、月額課金などのサブスクリプションモデルへと移行した。
これをNarayen氏は「トランスフォーメーションは、すべてをやるか、まったく何もやらないかのどちらかです。われわれは顧客との関係を変えました。新しいビジネスモデルに対して満足しない顧客もいました。間違った頃もありました。しかし、継続的に実験し、進化できたのです。私たちは継続的なイノベーションを提供し続けることを約束したわけです。顧客企業のシステムやプロセスを刷新し、製品からフロントマーケット、バックオフィス、カスタマーセントリックなモデルに整合してもらいました。もっとも大変だったのはチームの改革でしたが、それができたときもっとも高い効果を得ました。組織のすべてのレベルのリーダーが変化を起こすチャンピオンとして立ち上がったのです。そして、最初の数年は大変な時でしたが組織のサイロを取り壊し、カスタマーセントリックなものにできました。うまく乗り越えました。これまで以上にイノベーションを加速させています」と振り返った。
次に登壇したデジタルマーケティング担当エグゼクティブ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャのBrad Rencher(ブラッド・レンチャー)氏は、「私たち(企業側)が『消費者は何がほしいか』を言うのではなく、消費者自らが何をいかに欲しているかを伝える時代になっています。これは、エクスペリエンスです。人間とモノの関係のギャップを埋めなければなりません。世界を10年前に戻すと、消費者は基本的なニーズがありました。食べ物がそのひとつです。現在は計ってすでにきざまれた食材が新鮮な形で宅配されます。そして料理法が付いてきます。衣料もそうです。パーソナルショッパーがいて、完璧なアンサンブルを用意して配達してくれます。返品もできます。また、スーツやドレスを購入ではなくレンタルできます。消費者というのは要求の厳しいグループになってきてます。ここで重要なのは、企業はモノを販売しているのではなく、エクスペリエンスを提供しているのだということです」と改めてエクスペリエンスビジネスの重要さを説いた。
そして、Adobeは4つの信条を掲げているという。1つは、エクスペリエンスビジネスというのは、「企業は顧客を知って顧客を尊敬してくれるはずだ」と期待していることだ。つまり顧客は何かを頼む前にすでに企業に対して期待し、予測し、配送してくれるはずだと考えている。そして同時に、自分のプライバシーを尊重してくれると思っているのだ。2つめは、「1つの声で伝える。文脈に沿って伝える」ということだ。マーケティング、営業、サポートの製品チームがどこで何をしていようとぶれずに1つのコンテキストで伝えるというわけだ。3つめはエクスペリエンスビジネスは「テクノロジに透明性をもたらす」ことだ。企業と消費者の触媒というのは明確なメッセージではなく、エクスペリエンスこそがメッセージになるというわけだ。最後4つめは、エクスペリエンスビジネスは「すべての接点で消費者を喜ばす」ということだ。今日消費者を喜ばせたことが、明日になったらがっかりさせてはダメで、常に一貫していなければならないという。
さらに、エクスペリエンスビジネスを実行に移すためには、4つの処方箋があるとした。1つめは「コンテキスト」。Rencher氏は「直感的にみんながすることです。Summitではビジネスの話をしますが、私はカンファレンス後のパーティの時にまでAdobeの製品の話をしたくありません。みなさんもそうでしょう。私もあなたも変わった訳ではありませんが、交流するコンテキストが変わったのです。データ戦略がコンテキスト戦略に変わるのです。これが出発点となります」と説明した。
2つめは「デザイン」だ。コンテキストはきっかけを提供するが、適切な体験を届けるのは難しく、たとえばコンテンツのすばらしいデザインができて、それを特定の個人に配信するだけでなく世界中の何百万人に提供するには、「すべてのサプライチェーンを見直さなければならない」(Rencher氏)という。コンテンツはスケールとスピードを重視しなければならないわけだ。そのための3つめは「ミリセカンド」だ。スケールとスピードを考える時に、1つの相互作用だけでなく1000分の1秒で起きる判断に基づいて、何百というモノがまとまって流れており、このようなリレーションシップを管理するのは企業としては非常に難しい。「特に拡張できないレガシーシステムにとらわれている企業ではできません」(Rencher氏)という。最後は「イノベイト」。これは顧客第一主義を指し、企業はは予算的に新たなチームを雇うことはなかなかできず、それでもその主義を主導するためにはテクノロジを使わなければならない。そして、Rencher氏は「サイロ化された組織の壁を崩し、新しいワークフローに統合しなければなりません。これがイノベーションを構築する鍵となります」と語った。
そして、Rencher氏は「この4つの処方箋に優先事項を付けて実行すれば、エクスペリエンスビジネスの目標値を高められます。これはマーケターだけの話ではありません。新入社員からCEOまで、エクスペリエンスの管理人になるわけです。分断されたテクノロジでは到達できません。すばらしいエクスペリエンスを最初から最後まで一貫して継続して常に提供するには、包括的な新クラウドサービス『Adobe Experience Cloud』が必要になる」と続けた。
Adobe Experience Cloudは、「Adobe Marketing Cloud」、「Adobe Advertising Cloud」、「Adobe Anlytics Cloud」の3つのクラウドで構成され、コンテンツとデータを統合する基盤となるクロスクラウドアーキテクチャである「Adobe Cloud Platform」をベースに構築されている。さらにAdobe Experience Cloudは、AIと機械学習の統合テクノロジ「Adobe Sensei」のの機能を活用するとともに、Adobe Creative CloudやAdobe Document Cloudとシームレスに連携する。
Adobe Marketing Cloudは、従来からあるデジタルアセット管理の「Adobe Experience Manager」(AEM)、ABテストなどの「Adobe Target」、キャンペーン設定や顧客プロファイルの「Adobe Campaign」、ソーシャルメディア運営、管理の「Adobe Social」、テレビ番組配信プラットフォーム「Adobe Primetime」が含まれており、ブランド企業は管理、パーソナライズ、キャンペーンの実行とカスタマージャーニーの最適化ができる。
もう1つのマーケティングクラウドAdobe Advertising Cloudは、従来のテレビをはじめとしたさまざまなスクリーンに対してどんなフォーマットの広告でも管理できる業界初のエンドツーエンドのプラットフォームだ。検索連動型広告やディスプレイ広告、ソーシャル広告の最適な組み合わせを予算に合わせて予測する広告出稿ソリューション「Adobe Media Manager」と、2016年11月に買収を発表した「TubeMogul」の機能を組み合わせれば、チャネルとスクリーンへの動画広告、ディスプレイ広告、検索連動型広告の提供を簡素化できる。
3つめのAdobe Analytics Cloudは、すべてのクラウドでオーディエンスデータを連携させ、企業がインサイトを利用してリアルタイムに行動を起こせるようにする「顧客インテリジェンスエンジン」と表現されている。データおよびオーディエンス管理プラットフォーム「Adobe Audience Manager」と、リアルタイム分析およびすべてのチャネルにおける詳細なオーディエンスセグメンテーションを担う分析ソリューション「Adobe Analytics」が統合されている。
最後にRencher氏は、「すでにあるツールやソリューションがもっと統合され、革新されます。そして、エンタープライズにとってダイナミックなエクスペリエンスをパワーすることが、またコンテンツをパワーすることが不可欠ですから、すべてのワークフローをデジタル化すること、管理することが重要になります。Adobe Creative CloudとAdobe Document Cloudはともリアルタイムで連携できます。すべてのイノベーションは、Adobe Cloud Platform上に構築されました。顧客のデータを一元化し、標準化すること、それをプロファイルという形で簡潔に実行可能にしていきます。Adobe自身がエクスペリエンスビジネスを実践しなければいけません。実際に分断されたデータの統合に取り組み、プラットフォームという形で開発、構築しました」と締めくくった。
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