朝日インタラクティブが運営する「CNET Japan」は、マーケティング戦略の重要性やマーケティングの意義を訴求する目的で、マーケティング分野でめざましい成果をあげるなどしたマーケティング統括責任者(Chief Marketing Officer:CMO)を毎年選出し、表彰してきた。第4回にあたる2016年の「CMO Award」受賞者は、資生堂ジャパンで執行役員、マーケティング本部長(JCMO:ジャパンチーフマーケティングオフィサー)を務める音部大輔氏、三井住友カードでネットビジネス事業部長を務める佐々木丈也氏、三越伊勢丹ホールディングスで常務執行役員、情報戦略本部長を務める中村守孝氏。
ここでは、表彰式の後に開催された講演「『POCKET PARCO』~個客理解を通じた『PARCOの未来』」の内容を紹介する。登壇したのは、第3回の受賞者で、スマートフォン用アプリ「POCKET PARCO」によるマーケティングを展開するパルコ執行役の林直孝氏と、POCKET PARCOのバックグラウンドでデータの収集や分析に使われているプライベートDMP「TREASURE DMP」を提供したトレジャーデータのマーケティング担当ディレクター、堀内健后氏である。
パルコは各地で商業施設「PARCO」を運営し、約3000あるショップの情報をPOCKET PARCOアプリで配信している。さらに、PARCO来店時のチェックイン、お得情報などクリップ(お気に入り登録)、クーポンやポイント「コイン」の獲得といった機能も同アプリで提供する。ユーザーそれぞれ、つまり“顧客”でなく“個客”のライフスタイルに応じたコミュニケーションを通じ、24時間、いつでも、どこでもPARCOショッピングの体験ができる環境構築を目指してきた。
2014年にリリースしたPOCKET PARCOは、購買や来店、クリップ、記事閲覧などの履歴を記録している。しかし、従来型リレーショナルデータベース(RDB)では事前にデータの項目定義が必要で、項目の順次追加などが困難であった。そこで、非構造化データの取り扱いが可能なうえ項目追加にも対応している、TREASURE DMPの採用に踏み切った。TREASURE DMP採用は「“個”客との接点をさらに拡大し、エンゲージメントの向上に大きく貢献」しているという。
現在、TREASURE DMPの導入企業は全世界で約250社あり、2016年のCMO Awardを受賞した資生堂もユーザーである。
PARCO店頭での接客の良し悪しが、購買の成否を直接左右することは間違いない。テナントのスタッフによる接客の質が高まれば、購買に結びつくはずだ。ただし、パルコは接客が「来店前からすでに始まっている」と考え、店頭の限られたスペースだけでなくウェブでも接客をして、顧客行動分析とパーソナライズの結果を購買へ結びつけようとした。そのための店頭接客とウェブ接客を結びつけるツールが、POCKET PARCOである。
オンライン通販サイトの場合、顧客がアクセスしてから離脱するまでのページ遷移や閲覧内容といった行動は、ウェブログ解析で簡単につかめる。これに対し、PARCOのような実店舗では、入店後にどのフロアのどの店舗を巡って購買したかなどの回遊データが取得しにくい。
この課題を解決するためパルコは、顧客の行動を来店前、来店時/来店中、来店後の3段階に分け、各段階でPOCKET PARCOを操作してもらうことで顧客行動を可視化、データ化した。具体的には、以下の機能を提供して、来店前から来店後に至る一連の顧客行動をウォッチできるようにしたのだ。
(1)来店前:POCKET PARCOのメインコンテンツであるブログを読んでもらい、お得情報などのクリップを促す。
(2)来店時:PARCOでチェックインしてもらい、入店を把握する。
(3)来店中:購入などのコンバージョンを記録する。
(4)来店後:サービス、つまり接客内容を“星の数”とコメントで評価してもらう。
こうして得たデータを接客向上につなげ、「メビウスの輪のように、店頭とウェブサイトの双方をループする状態を維持する」ことで、「24時間PARCO」やオムニチャネルプラットフォームを実現させているのだ。
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