総務省の「実質0円禁止」で“明暗”分かれた携帯電話業界--2017年は「代理戦争」へ - (page 3)

高付加価値戦略に加え“味方”のMVNOを増やして戦うキャリア

 一方の携帯キャリア側は、行政の施策によって、従来のように他キャリアから直接ユーザーを奪って規模を拡大する戦略をとるのは難しくなってしまった。そのため3キャリアとも、現在抱えているユーザーを基盤に通信以外のサービスを強化することで、1人当たりの売上を拡大する戦略へとシフトしてきている。

 特にそれを象徴しているのが、auが打ち出した「auライフデザイン」だ。auは決済サービスの「au WALLET」や、実店舗を活用したEコマース「au WALLET Market」など、auの会員基盤を生かしたサービスの拡大を進めてきた。auライフデザインではさらに、生命保険や損害保険、住宅ローンなど、ライフスタイルに影響を与える商品やサービスを、auサービスと連携させることで、総合的な売上拡大へとつなげる戦略に出てきたのである。

「auライフスタイル」
auは今年、携帯電話の顧客基盤を活用し、保険や住宅ローン、電力などの生活系サービスを提供する「auライフスタイル」戦略を打ち出した

 同様の取り組みは、「ドコモ光」で固定回線を取り込んだNTTドコモなども進めてきていることから、今後大手キャリアは携帯電話をキーとして、高付加価値サービスを提供することで売り上げを高めていくことになるだろう。だが、ユーザーがキャリアに対して通信以外のサービスを求めているかどうかは不明瞭な部分も多く、ドコモは2015年に開始したばかりの、カタログ制でさまざまな体験ができるサービス「すきじかん」を、2017年に終了することを発表している。当面はサービスの模索が続くことになりそうだ。

 一方、主力の通信サービスや端末に関しては、ソフトバンクが20Gバイトの高速通信容量を月額6000円で利用できる「ギガモンスター」を開始したことや、iPhoneの新機種「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」が耐水・防じんやFeliCaに対応したことなどが注目された。だが全体的に見れば、やはり実質0円販売の事実上禁止措置の影響、そしていくつかのキャリアが発売予定だった「Galaxy Note 7」が、発火事故を起こして未発売となったことなどの影響もあり、やや閉塞感が漂っている印象を受ける。

iPhone 7/7 Plus
今年発売されたiPhone 7/7 Plusは、耐水・防塵性能の実現や、FeliCaを搭載し、日本でもApple Payが利用できるようになるなど、日本向け対応が進められたことで話題となった

 ただし、行政に押される形でキャリアの通信事業がこのまま停滞・衰退していくかというと、そうとは限らない。従来“敵”として位置付けてきたMVNOを、キャリア自身が“味方”として活用することで、競争力を高めようとする事例が最近増えているからだ。

 たとえばドコモは、自社が展開するコンテンツサービス「dマーケット」の一部サービスを、MVNO経由で販売するようになるなど、MVNOの仲間を増やして協力関係を築きつつある。またKDDIは、低価格サービスでの出遅れを取り戻すべく、UQコミュニケーションズがauのMVNOとして展開する「UQ mobile」への大幅なテコ入れを進めたほか、12月にはMVNOとしても大手のISP、ビッグローブの買収を発表。外部のMVNOを自身のグループへと取り込んでいく様子を見せている。

 そのため2017年は、携帯キャリアがMVNOやサブブランドに大きく関与し、他のキャリアや他社回線を用いたMVNOからユーザーを奪う「キャリアの代理戦争」が激しくなるものと考えられる。その過程で、ビッグローブのように買収が進むなどして、キャリアを起点としたMVNOの再編が進む可能性も十分考えられるが、キャリアがMVNOに大きく関与することは、寡占化につながることから総務省もあまり快くは思っていないだろう。

 急拡大するMVNOを巡り、MVNO同士、キャリア同士、そしてキャリア対総務省と、各レイヤーでの攻防がより一層激しくなりそうだ。

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