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ティム・クックよ、スティーブ・バルマーの轍を踏むのか

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 『アントレプレナーの教科書』などの著書もあるSteve Blank氏(ベテラン起業家兼教育者)が、Microsoftの元最高経営責任者(CEO)であるSteve Ballmer氏とAppleの現CEOであるTim Cook氏との類似を指摘したコラムを先ごろ公開していた。

 Cook氏には晩節を汚してほしくないと勝手に思っている私は、「ビジョンをもったCEOがいなくなった後、その企業はどうなるか?たいていの場合、イノベーションは死に絶え、同時に企業は余勢とブランド力だけで長い間回り続けることになる」といった見解が冒頭に書かれてあるこのコラムを興味深く読んだ。今回はこのコラムを手がかりに、しばらく前からいまひとつパッとしない印象もあるAppleの組織的な問題点などについて考えてみる。

ビジョンを持ったCEOと実務能力に長けたCEO

 Blank氏のコラムのなかでまず目を引いたのは、「ビジョンを持った経営トップ(visionary CEO)」と「実務能力に長けた経営トップ(execution CEO)」という区分。前者に属するのがSteve Jobs氏やBill Gates氏で、後者に分類されるのがCook氏やBallmer氏という指摘である。

 Blank氏は「ビジョンを持った経営トップ」について、「成功を収めることが実証されているビジネスモデルを確実に執行することにとても長けており、同時に世界でもトップレベルのイノベーター」「なかでも優れた連中は、動きが素早く、方向転換(pivot)のやり方も心得ている」「さらに最も優秀な連中は、自分たちの手で市場を形成する――誰よりも早く機会を見出し、新しい市場を創出する。彼らは(自分の企業がどれほど大きくなろうが)いつまでも起業家であり続ける」などと説明している。

 Blank氏はこれに続けて、ビジョンを持つ経営者のなかでもとくに優れた代表例としてJobs氏を引き合いに出し、Jobs氏が「Apple Store」、「iPod」、「iPhone」といったイノベーションを次々に繰り出すことで、自社のビジネスモデル自体を大きく変革していったなどと説明しているが、これについては改めて解説する必要もないだろう。

実務者でまわりを固めたジョブズの功罪

 Blank氏の指摘でとくに面白いのは、Jobsに代表されるビジョンを持つ経営者が、自分のまわりを極めて有能な実務家で固められた結果、自らのビジョンを次々とうまく実現することができたものの、そうした実務家のなかから自分の後継者を選んだこと(あるいは選ばざるを得なかったこと)が後の停滞を招く結果になったというところ。

 経営者が自分の片腕ともいえる人間を後継者に据えるのは人間としてごく自然なことと思える。また、Jobs氏が亡くなった時点でCook氏以外の人間が後継者に就任していたら、たぶんかなり大きな不安を内外に与えていたはずで、おそらくその点はBallmer氏のCEO就任についてもほぼ同様だったかと思う。

 それ以前にJobs氏やGates氏のような強い個性の持ち主が「獅子身中の虫」のような存在を許容できるのかといった疑問も湧くが、いずれにせよ、そうした実務家タイプの幹部が経営トップになった途端、その組織にとっての創造性に関する死のスパイラル(creative death spiral)が始まるとBlank氏は述べている。

 要は、新しいことを生み出したがる人材は組織を去り、場合によっては混乱の種として排除され、同時に経営トップと似たタイプの実務者(プロセス志向の人材)が新たに採用されていく。そして、かつて「世界を変える」というミッションを掲げていた組織でも、単なる仕事の場に成り下がってしまうといった変化が生じるということらしい。

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