ティム・クックよ、スティーブ・バルマーの轍を踏むのか - (page 2)

 もっとも、そういう変化が生じても企業が簡単になくなるというわけではない。逆に既存の事業の強化や効率化がさらに進んで、売り上げや利益が大幅に増加したりもする。実際、Ballmer氏がCEOを務めていた約14年の間にMicrosoftでは売上高が約3倍に、利益も2倍以上に増加していた。同様に、Cook氏も過去5年間でAppleの売上高と利益を倍増させ、手元の資金(流動性残高)も3倍以上に増やしている。

 ただし、Ballmer氏はCEO在任中に大きな波を5つも見逃した。Blank氏は検索、モバイルOS、音楽配信、動画配信、クラウドの5つを挙げて、その原因がBallmer氏がWindows/Office本位の考えから抜け出せなかったことにあったと指摘している。またCook氏についても「この5年間にAppleから新しく出たものといえばApple Watchひとつだけ」「11万5000人も従業員を抱えながら、毎年Macの新機種を出すことにも難儀している」などとなかなか手厳しい批判を加えている(ただし、一時は大きな期待を集めていたテレビ分野はすでに機を逸したようだとか、あるいは自動車の関連の取り組みも雲行きが怪しいなどとは書かれていない)。

 さらにBlank氏は、「Google Assistant」や「Amazon Alexa」といった例を引き合いに出しながら、Appleの足元を揺るがすような新たな技術の波が押し寄せつつあるとした上で、問題は、世界でも唯一無二とされるサプライチェーンを構築したCEO(Cook氏のこと)には製品に対する情熱が欠けており、また自社がこれからどちらに向かおうとしているかに関する自分の考えをCook氏が明言していないことにある、そしてそんなCEOには組織のあり方やビジネスモデル、市場に投入する製品に関して、正しい賭けを行えるだけの資質が十分に備わっていないことにあると述べている。

ジョニー・アイブという不思議な存在

 さて。Blankのこのコラムには「至極ごもっとも」という指摘も多く散見されるが、同時にひとつ重大な見落としもある。それは、Appleのイノベーション(新製品やサービスの開発)という点に限って言えば、もともとこのサプライチェーンCEOは大して期待されていなかったという点。簡単にいえばJony Ive氏(最高デザイン責任者)に期待されていた部分についての言及がまったくないということだ。

 Jobs氏がWalter Issacson氏に書かせた伝記本を覚えている方なら、生前のJobs氏がIve氏を「精神的なパートナー(spiritual partner)」と呼び、Ive氏が好きなことをできるようお膳立てしていた、という記述があったことを思い出されるかもしれない。このことは当時、APの記事でも報じられていた。

 Jobs氏が生前使っていたオフィスをそのままの形で大切に残しているというほど義理堅いCook氏が、Jobs氏のこのお膳立てをひっくり返しているはずはない。そう仮定すると、この5年間のプロダクトに関する停滞の責任はCook氏ではなく、むしろIve氏のほうにあるという気がしなくもない。また、Cookが口癖のように「(顧客にとって)ベストなものをつくる」などと口にしているのも、実はそう言う以外に手がないためではないかという気もしてしまう。

 Ive氏のこの5年間の仕事ぶりをどう評価するかは人によってまちまちかもしれない。私などはあっという間に姿を消したゴールドの「Apple Watch Edition」などを真っ先に思い浮かべてしまうが、もっと好意的にたとえば超薄型のMacBookやあるいは歴史に残る大ヒットとなったiPhone 6をあげながらプラスの評価をする人もいるかもしれない。ただ、いずれにしてもそれらの新製品が新しい事業の創出につながったわけではないことはいうまでもない。

 そうした人事あるいは組織的な事柄も含めて、現実的にはすべてがCEOの責任ということになるのだろうが、任期の折り返し点を回ったCook氏が自らのゴールを視野にいれながらこうした懸念材料にどう対処していくのか。それが今後の注目すべき点のひとつになるだろう。

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