Rafa Camargo氏が卓球に興じている。30分前、Camargo氏は世界で最も興味深いスマートフォンを上着のポケットにしまった。そして今、その上着はポケットの貴重な中身もろとも床に置かれている。筆者の目と鼻の先だ。
Camargo氏は「Project Ara」のリードエンジニアを務めている。このGoogleの取り組みは、LEGOブロックと同じように、脱着するだけでパーツを交換できるスマートフォンを開発するというものだ。たとえば、パーティーを開くときにスピーカモジュールを2つ装着したり、街に出かけるときに予備バッテリを取り付けたりすることができる。他にも、血糖測定器(糖尿病の人が使う)や、大気質測定センサといった特殊なモジュールもある。最近では、LGもモジュール式のスマートフォン開発を「LG G5」で試みているが、Araのスナップオン式のコンセプトというのは、量販市場向けに開発される通常のスマートフォンでは見られない特徴だ。
Camargo氏と筆者は5分ほどシャトルバスに同乗して、GoogleのCL5棟に向かった。ここで、実機をもっと間近に見せてくれることになっている。つい先ほど、Googleの開発者会議「Google I/O」で聴衆を沸き上がらせたデモ機だ。
これまでに何度かデモに失敗してきたが、Camargo氏によると、このスマートフォンの消費者向けバージョンは2017年に出荷されるという。また、製造がFlextronicsやFoxconnなどに外注されることは間違いないものの、本体の設計にはGoogleが当たる。これと異なり、同社の「Nexus」スマートフォンでは、LG、Huawei(ファーウェイ)、サムスンといったハードウェアパートナーに設計を任せてきた。
Project Araが実現すれば(2017年に消費者向けバージョンを出荷という目標を達成できればの話だが)、ユーザーの手でアップグレードできる端末が登場することになり、今のスマートフォン市場が根本から覆される可能性もある。
Project Araへの取り組みが始まってからの3年間、モジュール式スマートフォンというのは常に夢物語のような存在だった。Google社内でもそのような扱いが続き、同社のAdvanced Technology and Projects(ATAP)部門の一部になっていた。この先端技術開発部門には、飲み込めるセンサといった絵空事を現実に変えて消費者に届けるという使命が明確に与えられている。
だが、Project Araは守れない約束をしてしまった。この数年間で、モジュール技術のデモンストレーションは何度も失敗を繰り返している。プロトタイプを使ったパイロットプログラムがプエルトリコで始まる予定だったが、突然それが中止となり、理由はほとんど説明されなかった。プロジェクトチームからは、ATAPがコンポーネントの相互接続の方法を見直していると匂わせるツイートがあった。
そのうえ、Project Araの責任者だったPaul Eremenko氏がGoogleを去ってしまった。追い打ちとなったのは、ATAP本体の責任者Regina Dugan氏までGoogleを辞してFacebookに移ったことだ。Dugan氏はFacebookで、「Building 8」というグループを率いることになっている。実験的なハードウェアの開発に当たるという、類似の業務だ。
したがって、米国時間5月20日の発表を見て、過去数カ月間の動きは注意をそらすトリックだったのかと考える人がいても無理はないだろう。Project Araは、誰もがその存続さえ危ぶんでいる間に、静かに進化していたからだ。
卓球を始める1時間前、Google I/Oの満員のセッションで、Project Ara最大のイノベーションがついにうまく動いた。Camargo氏がスマートフォンをテーブルに置き、「OK Google, eject the camera」(カメラを取り外して)と魔法の呪文を唱える。すると、スマートフォンのカメラパーツがひとりでにソケットから飛び出す。会場は喝采に沸いた。
"OK Google, eject the camera." Now that's what I want in a modular phone. Assuming it only recognizes me, that is! pic.twitter.com/y7gzXpkL8l
— Sean Hollister (@StarFire2258) 2016年5月20日
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