5月13日に発表されたKDDIの2016年3月期決算は、売上高が前年度比4.6%増の4兆4661億円、営業利益が前年比25.2%の8334億円と、やはり増収増益を記録。中でも営業利益に関しては、3年連続で前年度比2桁の増益を達成している。
好調な業績をもたらした大きな要因は、auのモバイル通信事業の好調ぶりだ。auの契約数は、第4四半期で前年同期比175万増の約3824万、1人あたりのモバイルデバイス数も、1.37から1.41にまで拡大。通信ARPA(ユーザー1人あたりの売上)も通期で前年比160円増の5690円と、順調に伸びていることが分かる。さらにauスマートバリューの契約数は世帯数で572万、au契約数で1155万に達しているほか、auスマートパスの契約数も1447万にまで伸びている。これまでの戦略が市場ニーズにマッチしたことが、高い伸びを示す要因となったようだ。
主要3社の中で最も大きな伸びを示したKDDIだが、決算発表会における、同社代表取締役社長・田中孝司氏の表情はここ最近冴えないように見える。その理由は、やはり足元の市場環境が大きく変化していることだろう。KDDIもソフトバンクと同様、実質0円などの端末割引施策により、ドコモからユーザーを奪うことで業績を伸ばしてきた。しかし、総務省の要請やガイドラインの制定によって割引販売が難しくなっている。さらに、今後は長期利用者向けの割引施策を導入する必要も出てくるなど、下位キャリアであるKDDIにとっては不利な要素が増えてきている。
また、競争が盛り上がりつつある低価格帯においても、ドコモがMVNO、ソフトバンクがワイモバイルで好調なユーザー獲得を進めているのに対し、KDDIは、最近グループ会社のUQコミュニケーションズを活用した取り組みを積極化したばかりと、出遅れ感が否めない。田中氏も低価格帯に関してはそれを認めており、競争力強化には課題が少なからずあるようだ。
環境変化で従来の戦略だけでは通用しなくなりつつある中、KDDIはどのような施策をもって、競争力を高め好調を維持しようとしているのだろうか。今回の決算発表に合わせて、KDDIは今後3年間の新たな方針を打ち出している。これによると、今後は国内と海外、それぞれ異なる取り組みによって事業拡大を目指す考えのようだ。
国内に関しては、auの顧客基盤を活用した、au経済圏の最大化が大きな戦略の軸となる。マルチユース・マルチデバイスの推進や、2016年に打ち出した「auライフデザイン」戦略によって、コマースや金融などにまでサービスの範囲を広げるというものだ。1人あたりの売上を高め、他の2社と同様に今後の競争停滞を見越して、既存の顧客基盤を活用した戦略を推し進める方針のようだ。
一方の海外に関して、KDDIは最近TELEHOUSEによるグローバルでのデータセンタ事業や、ミャンマーのMPT、モンゴルのMobiComなど海外携帯電話事業者への出資を積極化し、事業拡大を進めている。今後は、特にコンシューマー向けの通信事業を強化する方針とのことで、東南アジアなど新興国に狙いを定め、アーリーステージからの投資を進めていくことで、成長による収益を得る方針のようだ。
総務省のタスクフォースの影響で、国内の市場環境が大きく変化しつつあることから、各社ともに従来通りの戦略を進めるだけでは成長が望めないと判断しつつあるようだ。それだけに、通信以外の事業領域や、海外事業への進出などを積極化しているが、そこで成功を得られるかは未知数だ。不透明な市場環境の中で各社が打ち出した新戦略はどのような成果を上げるのか。
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