4月末から5月にかけて、大手携帯キャリア3社の通期決算が発表された。各社とも好調な業績を示しているが、一方で2015年の総務省タスクフォースによる議論の影響から、携帯電話の商習慣が大きく変わりつつあり、先行きの不透明感が高まっている。各社は今後、どのような戦略をもって成長につなげようとしているのか。
NTTドコモが4月28日に発表した2016年3月期決算は、営業収益が前年度比3.3%増の4兆5271億円、営業利益が前年度比22.5%増の7830億円と、増収増益を達成。同社が通期で増収増益を達成したのは2011年度以来のことであり、1年でいかに業績を急回復させたかが分かる。
業績が回復した要因は大きく3つある。1つ目は通信事業が復調に転じたことだ。ドコモは近年、iPhone導入の遅れや、2014年に導入した新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」の影響によって、業績を大きく落とし続けてきた。特に新料金プランに関して、ドコモ代表取締役社長の加藤薫氏は、「導入から1カ月で50万くらいと思っていたが、470万契約が新料金プランへと一気に流れた。しかも、そのうちの7割超が料金が最も安い『データSプラン』に集中した」と、想定外の事態が業績にダイレクトに影響を与えたことを明かしている。
しかしながら、データ通信の利用が増加したことなどで料金プランのアップセルが進み、現在では「データMパック」以上の契約者が9割を超えている。加えてiPhoneの投入や、固定通信サービス「ドコモ光」の開始などによって、他社に対抗できる体制を整えたことから、番号ポータビリティ(MNP)による転出数も、前年度比7割減の約10万にまで減少。こうした、さまざまな取り組みが業績回復に大きく影響したといえる。
2つ目は、スマートライフ領域の事業が大きく伸びていること。特に「dマーケット」を主体としたコンテンツサービスは、「dTV」「dマガジン」などの成長によって大きく伸びており、mmbiの減損損失を除けば、同領域の営業利益は前年比約2倍の787億円に達している。そして3つ目はコスト削減。今年度は2400億円のコスト削減を実施し、昨年度と合わせると3600億円もの大幅な削減を実現している。
3つの要因で業績のV字回復を実現したドコモは、2016年度には営業収益929億円、営業利益1270億円(減価償却変更の影響を含む)の増加を見込んでおり、2017年度の達成を目指していた中期目標を、1年前倒しで達成することを打ち出している。それを後押しすると見られるのが、最近の総務省の動きである。
総務省は2015年に実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、4月にガイドラインを制定して端末の“実質0円”を事実上認めないなど、従来の携帯電話業界の商習慣を大きく変えようとしている。それは、キャリアが競争を仕掛けづらくするとともに、ユーザーがキャリアを積極的に変える要因を失わせることにもつながっている。そして、キャリア間の競争の減少は、市場シェアが最も高いドコモが、最も優位な立場に立ち続けられることも同時に意味している。
もちろんドコモも、2年縛りの緩和に向けた「フリーコース」の提供などによって700億円の減収を見込むなど、総務省要請の影響によるマイナス要因を抱えてはいる。しかし、ドコモは他の2社と異なり、長期利用者向けの割引施策を「ずっとドコモ割」ですでに提供しており、これ以上のマイナス要因を抱えていないことから、優位性が高いのは確かだ。
その優位性を生かし、さらなる成長に結びつけられるかどうかは、新たに社長に就任する予定の代表取締役副社長である吉澤和弘氏に託された。吉澤氏は加藤氏の路線を引き継ぎつつ、自社の技術やデータを生かして新しい価値を創造する「サービスの創造と進化」、パートナー企業との協業による価値提供を促進する「+dの促進」、そしてネットワークや顧客基盤など「あらゆる基盤の強化」に全力的に取り組み、まずは中期目標の1年前倒しを実現するとしている。新社長がどのような舵取りを進めるのか、大いに注目されるところだ。
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