ライブ配信サービス「TwitCasting(ツイキャス)」を企業や団体が活用するケースが増えている。音楽や映画、ファッション、スポーツなど領域はさまざま。本格的な撮影機材を用意することなくスマートフォン一台で配信できる手軽さと、ユーザーとのコミュニケーションのしやすさが評価されているようだ。
ライブ配信ができるサービスには、「ニコニコ生放送」や「Ustream」、「YouTube」のほか、ツイキャスに近いアプリとして、米国発の「Meerkat」、Twitterが提供する「Periscope」などがある。また直近では2015年12月にLINEによる「LINE LIVE」が登場。当初は芸能人やアーティストなどの番組を視聴できるだけだが、2016年には一般向けに配信機能を開放するという。
「ツイキャスはコミュニケーション重視。画質や音質にこだわらない場面で使う」と説明するのは、ユニバーサルミュージック プロダクト本部 デジタル部でEMIレコ―ズを担当する南薗啓介氏だ。同社はツイキャスに公式チャンネルを立ち上げ、所属アーティストによる配信をサポートしている。アーティストによるライブなどを中継する際にはニコニコ生放送やUstream、ファンとの交流にはツイキャス――といったように使い分けているという。
南薗氏がツイキャスに目をつけたのは、井上苑子さんら若いアーティストが同社に所属する前からツイキャスを使っており、ファンとのコミュニケーションのとり方を確立していたことから。マーケティングにおいては、ターゲットとしている世代の生の声がリアルタイムでわかる利点がある。
「これまでは、ライブ会場やイベント会場のお客さまの様子を見たり、話を聞いたりするのが主な方法だったが、そこにツイキャスが加わった。ターゲットとする方達がどんなドラマを見ているのか、どんな曲を聴きたいのかなどが、ツイキャスで配信しているアーティストとのやりとりの中で見えてくる」(南薗氏)。
他方、松竹は映画のプロモーションにツイキャスを活用している。2014年7月公開の映画「好きっていいなよ」の初日舞台挨拶で、出演者の様子を舞台袖から舞台挨拶まで中継した際には、30分間で約3万人の視聴者数を記録したという。
松竹の映画宣伝部 宣伝企画室でWeb宣伝を担当する宮野祥尚氏によれば、ツイキャスの活用を決めたのは、同作の主要ターゲットが10代女性で、ツイキャスのユーザー層と重なっていたことから。「従来、他の配信サービスなどで配信するために機材費を数十万円かけていたが、スマートフォン一台で手軽に同じことができるなら試してみようと考えた」と説明する。各動画配信サービスの使い分けはユニバーサルミュージックと同じようだ。
舞台挨拶の中継以外には、作品の出演者が登場するQ&A企画などを実施。累計で約1万人以上が視聴するケースが多かったという。一方、ティーン世代以外をターゲットに据えた作品では「(番組を作る)手間の割には数字が上がらなかった」とわかりやすい結果は出なかったそうで、「やはりツイキャスは、ティーン世代に人気のあるキャストがいることによって視聴してもらえる」と宮野氏は分析している。
「機材費などがかかるものではないので、まずは数千人が視聴してくれればよい。それをうまく囲い込んで、万単位にしていけたら『成功』と言えると思う」(宮野氏)。
スポーツ分野では、Jリーグに加盟する浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)がツイキャスを活用。新規ファンの獲得を目標に、選手の練習風景の中継やQ&A企画を実施するほか、ツイキャスで配信者がチケットを販売できる「キャスマーケット」を使い、公式戦のチケットを販売している。
担当者はツイキャスを「試合会場に足を運ぶきっかけになってもらえる可能性を持ったコミュニケーションサービス」と評し、「コミュニティの場(コメント欄)が荒れにくいのもよい」と説明。ツイキャスでの配信を始めた2015年1月以降、「サッカー選手を身近に感じてもらえている。ホーム(地元)以外の皆さんにもレッズの活動の一部を知ってもらえている」と手応えを語った。
ライブ配信サービスを巡っては、2015年12月以降、国内5800万人のLINEユーザー基盤を生かすLINE LIVEが勢いをつけている。また、ドワンゴが2014年12月に公開してわずか6日で終了させた「nicocas」も再度リリースされる予定。同社によれば、公開時期は来期(2017年3月期)中を予定しているとのこと。今後、さまざまなサービスが生まれることで、「ライブ配信」の可能性はますます広がっていきそうだ。
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