アジア現地駐在員マーケティングレポート

「試験重視」で創造力損なわれがち--現地学生から見たシンガポールの教育 - (page 2)

島田裕一(アウングローバルマーケティング)2015年10月21日 08時00分

現地の現役学生から見たシンガポールの教育

 さて、試験の結果と学校の成績次第で人生が決まる超成果主義の教育システム、と先ほど述べましたが、アウングローバルマーケティングで現地学生をインターンシップとして受け入れ始めたのをきっかけに、実際の学生の状況を知る機会が増えました。

 現在一緒に働いているのは、シンガポールのJunior Collegeを卒業し、来年の大学入学に向けて準備中という20歳の女性です。そこで彼女から、現在の学校現場の実態や、教育について感じていることなどを聞いてみました。

全国一斉試験を繰り返し、細かくレベル分け

 シンガポールの子どもたちは、3~4歳で日本の幼稚園にあたるPre-Schoolに入りますが、教育熱心な家庭では、この時期からすでに、我が子をエリートコースに導くための取り組みを始めています。というのも、Pre-Schoolに通った後、7歳で日本の小学校にあたるPrimary Schoolに入学しますが、このPrimary Schoolも、学校によって通う子供たちの学力や教育のレベルに差があります。

 まずこの段階で、人生初の振り分けが生じます。希望の学校に申し込みをした後、学校側が受け入れる生徒を選びます。この選択基準には優先順位があり、代表的な例としては、以下のようなものがあります。

  1. 学校に出資している親の子息
  2. 卒業生である親の子息
  3. 自宅が学校の近隣であること

 「3」に関しては、よりレベルの高い学校に子どもを入学させるために、わざわざ学校の近くに引っ越す人も少なくないそうです。

 Primary School入学後にも、4年次に成績によるランク分けがあり、同レベルの生徒をまとめる制度があります。

 そして、卒業前にはPSLEという教育修了試験があり、その結果によって、その後の日本の中学校にあたるSecondary Schoolとそのコースが決まります。コースの違いは、在学年数が4年間か、5年間かということ。言い換えると、レベルの低い学校で4年間か、レベルの高い学校で5年間かを選ぶような仕組みです。

 さらにSecondary School卒業前にも、“GCE-O Level”と呼ばれる全国一斉試験があります。その試験の結果によって、日本の専門学校にあたるPolytechnicsに進むか、日本の高校にあたるJunior Collegeに進むか、またどのJunior Collegeにいくのかが決まります。

 ここまでの段階をみても、日本に比べてかなり細かくレベル分けされている印象を受けます。

 シンガポールのJunior Collegeは、平均的な始業時刻が7時半と早く、放課後も多くの生徒が19時ぐらいまで、さらに学校が家に近い場合は22時ぐらいまで残って勉強をしているそうです。

 というのも、Junior College卒業前には、“GCE-A Level”という全国一斉試験があり、その成績によって進む大学が決まるのです。

 シンガポール国内大学出身のシンガポール人の初任給は、出身大学がローカル大学か、私立大学かで異なります。ローカル大学というのは、政府との連携があり、学費に対して政府からの助成金が出る大学で、国内に6つあります。この6つのいずれかの大学出身者は、私立大学や専門学校出身者より初任給が高いのだそうです。

 さらにローカル大学は学費が低額であったり、学費を国や銀行から借りた場合の利子返済について優遇されていたりと、シンガポール人にとっては利点が多いのです。それだけにローカル大学は競争率も高く難しいため、ローカル大学を目指しているJunior Collegeの学生は必死になって勉強をします。

 このように、幼少期から人生の各ステージで成績による振り分けや試験があり、常にスコアがついて回る教育システムとなっています。早ければ3歳ぐらいから塾通いや家庭教師を始める人も多いという事実にも納得できます。

 ただ興味深いことに、日本では深刻な問題である「不登校」の生徒がほとんどいないそうです。理由としては、学校に行って勉強をしないと働くことができない(≒豊かになることができない)という意識が幼少期から強く植え付けられているためです。シンガポール人にとって、勉強するのはレベルの高い学校に入るため。レベルの高い学校に入るのは、よい仕事に就くため。よい仕事とは給料の高い仕事――と実にシンプルな考え方のようです。

クリエイティビティが損なわれがちな試験結果重視の教育

 多くのシンガポール人が現在の教育システムに従い、勉強することが当たり前と考えているなかで、インターンシップの彼女は、そのシステムの問題点についての考えも教えてくれました。

 彼女によれば、現在の教育システムは、試験の結果や学問の成績だけを重視し過ぎており、その結果、短絡的に才能をつぶしてしまうケースが多々あるのではないかということです。

 経済発展につながる人材の育成、すなわち優秀なビジネスパーソンの育成が最終目的であり、それを踏まえて作られた今の教育システム。仮に芸術やスポーツの才能に秀でていたとしても経済発展とは直接結びつかないと見なされているため、そういった才能を生かす道はまだまだ閉ざされているとのことです。

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