電子書籍ビジネスの真相

「緊デジ」問題を読み解く11の疑問(前編)--“100万点電子化”という妄想 - (page 4)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2015年10月13日 08時30分

 横道にそれてしまいましたが、まとめると、「東北の企業、個人、団体が電子化の仕事からどれだけのお金を受け取れたかは、不透明。東京の大手印刷会社や製作会社が発注額の大きな部分を持っていたのでは、という疑いが残る」ということになります。

 情報公開が不徹底なので、筆者には確定的なことは言えないのですが、河北新報が、この点を継続して追究しています。

 2014年4月19日には、経産省やJPOが被災地の企業に実際に発注した金額や、それらの企業に発注した電子書籍の冊数を把握していないことを取り上げました。

復興の陰で/コンテンツ事業/被災地への発注、把握せず/経産省・JPO(河北新報2014年4月19日)

“契約書などの資料に関する河北新報社の情報公開請求に対し、経産省文化情報関連産業課の担当者は「経産省に資料はなく、JPOに問い合わせてほしい」と回答。被災地企業への発注額の内訳に関しては「数字を持っていない」と述べた。

JPOの責任者は「被災地の定義が分からないので算出できない。実務は別の会社が取り仕切っており、細かい数字は分からない」と説明する。

JPOの実務を担う民間会社パブリッシングリンク(東京)の担当者は「被災地企業への発注額は分からない。契約上、発注額の内訳は言えない」と話す。

(中略)電子書籍に詳しい出版関係者は「冊数ベースでみると被災地企業に回った仕事は少なく、大半は大手印刷会社が請け負った」と指摘する。”

 まさに前回指摘したように、オリンピックと同様、絵に書いたような見事な「たらい回し」コンボが炸裂しているわけですが、もっとひどいのは、「緊デジ倒産」とも言うべき事例まで発生したこと。

復興の陰で/コンテンツ事業/仙台の企業、公募不採用/理由知らされず(河北新報2014年4月24日)

“東日本大震災の復興予算を投じた「コンテンツ緊急電子化事業」が本来の事業目的と異なっている問題で、電子化作業の受注を目指していた企業が公募で採用されず、最終的に自己破産していたことが23日、関係者への取材で分かった。不採用となった理由は不明(後略)。”

 自己破産の直接の理由は自分の経営のミス、とこの方は認めているようですが、同じ記事で、工場や事務所が被災した製作会社が公募で落選した例も紹介されています。

 筆者の知る範囲でも、ノウハウや技術の面で、どうみても問題のない製作会社が落選した例があります。一体何を基準に選んだのか、いまだに不明です。

 ……長くなってしまったので、ここでいったん切り、後半は稿を改めたいと思います。後半では、以下の「疑問」についてまとめ、最後に、この問題の本質について少し広い視点でお話をさせていただきます。

【後編の予定】

  • 疑問5)「知のアクセス向上」は果たされたか
  • 疑問6)どんなフォーマットの電子書籍が作られたのか?
  • 疑問7)なぜ未回答の出版社が多数あるのか?
  • 疑問8)未配信の電子書籍は何冊あるのか?
  • 疑問9)「準備中」はなぜ多いのか?
  • 疑問10)「技術的理由」の謎
  • 疑問11)なぜ「6万点」だったのか?

◇「緊デジ」問題を読み解く11の疑問(後編)
「黒船病」にかかった電子書籍の識者たち

林 智彦

朝日新聞社デジタル本部

1968年生まれ。1993年、朝日新聞社入社。
「週刊朝日」「論座」「朝日新書」編集部、書籍編集部などで記者・編集者として活動。この間、日本の出版社では初のウェブサイトの立ち上げや CD-ROMの製作などを経験する。

2009年からデジタル部門へ。2010年7月~2012年6月、電子書籍配信事業会社・ブックリスタ取締役。

現在は、ストリーミング型電子書籍「WEB新書」と、マイクロコンテンツ「朝日新聞デジタルSELECT」の編成・企画に携わる一方、日本電子出版協会(JEPA)、電子出版制作・流通協議会 (AEBS)などで講演活動を行う。

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