本事業は、「緊急デジタル化事業」と銘打たれています。この言葉を聞いて、すでに電子書籍として一般に売られているものが対象になると考えた人は、ほとんどいないでしょう。
前回触れたように、実施主体であるJPOの専務理事で事務局長の永井祥一氏は、「すでに電子化されている本は、事業の対象とならない」と明言していました。ところがフタを開けてみたら、全体の3割が、このような「電子書籍の電子化」本だったのです。
いつ、誰が、どんな理由で、電子書籍の電子化を決断したのか。その際、内部で異論はなかったのか。申請数が足りないのであれば、そこで打ち切って、余った補助金は国庫に返すなどの手が打てなかったのか。いくつも疑問が浮かびます。
その決断をした人も、数億円のお金を自分の懐から出すのであれば、もっと慎重に判断したことでしょう。公的プロジェクトにありがちな「他人のお金だから」という意識が、甘えが、そこにはなかったでしょうか?
他人のお金、しかもそれは、復興特別税などの形で、震災被災者のために、特別に用意されたお金なのです……。
そもそも、大手出版社であれば、自社の費用負担で電子書籍化を進めていけたはずです。逆にいえば、この事業は、自社で電子化ができない、中小出版社を重視した事業だったはず。
ところが、実際には、中小出版社からの申請は低調で、東京新聞の前掲記事によれば、全体の半分以上は、大手出版社5社の書籍が占めたとのことです。
さらにいうと、申請受付のハードルが高すぎたために、ほかならぬ東北地域の出版社が、一部、門前払いになったとのこと。
そうした出版社から見れば、「東京の、東京による東京の業者のための」事業としか見えないのは当然です。震災被災地域の復興というのは名目に過ぎず、被災者は、公金を引き出すための「ダシ」に使われたのではないか、という疑念が拭えません。
たとえ、電子化した本に問題があっても、東北の出版社が参加できなくても、東北に関する本がたくさん電子化されているのであれば、「復興事業」としての名分は立ったかもしれません。
しかし、結果から見れば、東北に関連する本は、ごくごく一部にとどまりました。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?