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電子書籍ビジネスの真相

「緊デジ」問題を読み解く11の疑問(前編)--“100万点電子化”という妄想 - (page 3)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2015年10月13日 08時30分
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疑問4)東北地域の経済復興に、どれだけ貢献したか?

 この事業は、東北地域の製作会社、印刷会社、プロダクションなどに電子化作業を発注することでも、復興を手助けすることを狙っていました。

 では、実際には、どのくらいの仕事が、東北地域の製作会社などに発注されたのでしょうか。この質問には、幾通りもの回答法があります。

 一番明快なのが、「東北地域に本拠を置く企業や、東北在住の個人・グループが電子化の作業を担った」というケース。これなら、誰も文句はないでしょう。

 一方、「東北地域以外に本拠を置く企業、個人、グループが受注したが、実際の作業を担ったのは『それ以外』の企業、個人、グループだった」というケース。つまり「下請け」「孫請け」です。これも、「東北へ発注」したことになるのでしょうか?

 普通に考えて、「下請け」「孫請け」になれば、中間マージンやコストが発生し、実際に作業を実施した企業や個人にわたるお金は、その分、少なくなるはずです。

 JPOの永井氏は、業界誌「出版ニュース」への寄稿(「JPOの見解」としてJPOのサイトにも掲出(PDF)されている)で、次のような図を掲げ、発注額の約75%のお金が東北にわたった、と主張します。

書籍の電子化事業(緊デジ)の意義[出典:コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)とは何であったのか]
書籍の電子化事業(緊デジ)の意義[出典:(上記「JPOの見解」]

 しかし、よくよく見ると、いろいろと興味深いファインプリント(クレジットや保険の契約書などで、小さな文字で書かれ、よく見ないとわからない明細)があります。

 第一に、この金額は、東北にある製作会社に発注した、という意味ではなく、次のようなややこしい算式にもとづいて出された「推計」である、ということ。

“製作会社から提出してもらった、作業月報(労働時間積算調書)に基づく、東北地域の発注金額を集計した推計値です”(上記「JPOの見解」より)

 なぜ、ごくごくシンプルに、「東北の製作会社にこれだけの金額を発注しました」と発表できないのでしょうか。そのほうが計算も簡単なはずです。「推計」する必要もありません。

 おそらくは、東北「以外」の会社――具体的には東京の大手企業――が、かなりの部分を「一次請け」として受注しているため、そのまま発表すると、「東北以外の会社がほとんどの仕事をした緊デジ」という事実が明らかになってしまうからではないのか……?

 よもや、そんなことはないと信じたいですが、そうした疑惑を呼びかねないほど、不可解な「計算」です。

 第二に興味深いのは、最終的な事業総額18億円のうち、JPOが3600万円、実務を担当したパブリッシングリンクという企業が、1億9000万円を使っていること。

 この会社、一般にはあまり知られていないと思いますが、ソニーと大手出版社、大手印刷会社などが出資して2003年に設立された、電子書籍の出版社です(当時のソニーのリリース)。

 2000年代の初め頃、パナソニック(当時は松下電器産業)が「シグマブック」「ワーズギア」(子会社を通じた販売)、ソニーが「リブリエ」、という電子書籍端末を発売して、本格的な電子書籍時代が到来する、と騒がれたことがありました。

 筆者は、この時期を「第二次電子書籍元年」と呼んでいます(「第一次」は当時の通産省の旗振りで実証実験が実施された1999~2001年、「第三次」はKindle、Koboなどが上陸した2010~2012年です)。

 パナソニックとソニーは、それぞれアグリゲーション(コンテンツ調達)のための会社を設立します。パナソニックはKADOKAWA(当時は角川書店)、TBSと組んで「ワーズギア」を作りました。それに対して、ソニーが講談社、新潮社など大手出版社などと組んで始めたのが、「パブリッシングリンク」です(※情報公開:パブリッシングリンクには、筆者の所属する企業のグループ会社も出資していますが、本稿の意見は筆者個人のものです)。

 第二次電子書籍元年は、パナソニック、ソニーのどちらも、思うように売り上げを伸ばせず、端末製造から撤退したことで、2006年頃に終息を迎えます。このため、アグリゲーションのために作られたワーズギア、パブリッシングリンクも、当初の役割を終えました。ワーズギアはKADOKAWAグループに引き取られました。

 しかし、パブリッシングリンクは事業を続け、電子書籍の出版社として存続したのです。パブリッシングリンクは、どんな書籍を手がけているのでしょうか。日本最大規模の電子書籍データベース「hon.jp」で検索してみましょう。

パブリッシングリンクの手がけた書籍(hon.jpでの検索結果)
パブリッシングリンクの手がけた書籍(hon.jpでの検索結果)

 ちょっと画面だと見にくいかもしれませんので、細かくご覧になりたい方は、こちらで検索結果を直接ご覧いただければと思います。

 この検索結果は、売上ランキング順に並んでいるようです。私が検索した時点(10月9日朝)で、1位と2位には、笹倉明氏の「賢者の占術」という書籍が並んでいました。そして3位以降に、宇能鴻一郎氏の著作が、ずらっと並んでいます。

 「ためいき」「わななき」「女貝」「すすりなき」……。タイトルを見ているだけで面白いですね。

 さらに見ていくと、「ティーンズラブ」「BL」「アダルト」と思われるタイトルの数が、かなり多いことがわかります。いわゆる「ガラケー向け」と言われる電子書籍が得意な出版社なのですね。

 緊デジでは、「復興事業に不適切と思われるコンテンツ」が電子化リストに入っていることも問題視されています。

 リストに版元名が書いてないので、確定的なことは言えないのですが、タイトルからみて、「どうみてもこれだろう」という本をまとめてみたのが、前回お見せした資料の後半部だったのですが、いま一度、そこからこうしたジャンルの本を抜粋してみると、以下のようになります。


復興事業に不適切と思われるコンテンツ例

 もちろん、こうした本自体に罪はまったくありません。しかし、国の金、しかも復興予算で電子化するとなると、話は別です。

 今回の件で、「なんで復興予算でアダルト本を電子化することになったのだろう?」と、事業全体については肯定的な出版関係者の間でも、不思議がる声が出ているわけですけれども、少なくとも、実務を担ったパブリッシングリンクさんの普段の業務から見れば、特に不自然なことではなかったのかもしれません。

 そもそも、JPOとデジタル機構という2つの組織に加えて、パブリッシングリンクというもう1つ別の企業が、実作業の担い手としてさらに絡む必要が、どうしてあったのか? その点も不思議です。業界の一部では、多数の出版社が出資して設立したものの、ソニーの端末撤退もあり、飛び抜けた大成功を収めているとはいえないパブリッシングリンクにお金を流すことこそが、実はこの事業の本質ではなかったのか、とうがった見方をする人もいます。

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