こんにちは、林です。電子書籍の普及が進むにつれて、「いったい誰がどんなふうに使ってるの?」という興味、関心が高まっているのか、実態調査を目にすることが多くなってきました。先日は、日経さんでこんな記事が。
“文部科学省の委託で浜銀総合研究所がまとめた調査結果によると、電子書籍で読書をする高校生の割合は学校のある日で15.8%、休みの日で16.8%で電子書籍の浸透はまだ一部であることが分かった。ただ、電子書籍を読み始めた生徒の約3割が 読書量が増えた」と回答。読書への関心を高めるきっかけになっている。”
元データは文科省のウェブサイト(PDF)で公表されていました(フリーライターの鷹野凌さんに教えていただきました。多謝!)。「高校生の読書に関する意識等調査報告書」。なんと、2015年4月に公表されていた調査が、今頃記事になったのですね。
電子書籍業界は、Amazonをはじめ、なかなか利用実態を公表してくれません。そういう機会がたまたまあっても、自社に都合のよい、偏ったデータであることが多く、公的機関による客観的な統計の公表はありがたいです。
さらにこの調査では、「読書」の対象に、「電子書籍」を明確に含んでいる点も評価できます。これまで同種の調査では、ある項目では「紙の書籍」だけ、別の項目では「電子書籍」だけを対象にするなど、電子書籍が調査全体の中で特別扱いされていて、いまの「読書」の姿を理解するには役立たないものが多かったのですが、本調査は「電子書籍」も明確に「本」の一種として扱っています。これは、画期的なことです。
しかし、ちょっと気になるところもありますね。これも、この種の統計ではお約束ですが、「マンガ」は排除されています。雑誌や新聞を除くのはともかくとして、参考書まで対象外になっています。ちょっと狭すぎるのではないでしょうか。
おそらく「絵本」は対象に含まれているのだと思いますが、「絵本」が読書で、「マンガ」が読書でない理由はなんなのでしょうか。
いわゆる「文字もの」の書籍の市場が縮小する一方で、コミックス(単行本)市場の存在感が年々高まっています。出版科学研究所の発表によると、2014年の書籍市場は7544億円。これに対してコミックスの市場は2256億円。販売部数で比較すると、書籍が6億4461万部に対し、コミックスは4億4038万部となっています。
コミックスには書籍扱いと雑誌扱いがあるので、単純には比較できない(上記コミックスの数値は書籍扱いと雑誌扱いを両方含む)のですが、書籍とコミックス(単行本)の比率は、売上金額で「3対1」、部数で「約1.5対1」になっているわけで、これほどまでに存在感を増したコミックスを「読書」の範囲から除外することに、何の意味があるのか、そろそろ再考した方がよいのではないかと思います。
実際、英米圏の「コミックブックス」「グラフィック・ノベル」、フランス語圏の「バンド・デシネ」など、日本のマンガに相当するメディアが出版統計から除かれているというような話は、海外では聞いたことがありません。
2番目の項目にも、少し疑念を感じます。最近増えているストリーミング型の電子書籍サービスや、電子書籍とSNSを合わせたような事例を含むのか、含まないのかがちょっとわかりません。たとえば、イラスト・テキスト投稿SNS「pixiv」は、縦横切替自由な高機能電子書籍ビューワで、二次創作の小説を読むことができますが、こうしたサービスは、同調査では対象外となっているものと思われます。
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