ディープラーニングを活用したビジネスプロデュース事業を手掛けるABEJA(アベジャ)の開発した次世代型店舗解析ソリューション(インストアマーケティングソリューション)が、三越伊勢丹にテスト導入された。ディープラーニングとは、機械学習の一種で、人間が経験によって学習するのと同様に人工知能が入力されたデータを経験と定義して、自ら学習して答えを導き出すコンピューティング技術のことで、現在は主に画像認識や音声認識で活用されている。
この技術を活用した同社のインストアマーケティングソリューションは、店舗内に設置したカメラが捉えた来店者の顔から性別や年齢などを自動解析するサービス「ABEJA Demographic」や、店舗内や店頭の人の動きを解析してヒートマップを生成する顧客動態・滞留データ解析サービス「ABEJA Behavior」などによって構成される。これらのサービスで生成されたデータを管理・分析するサービス「ABEJA DMP」によって、オンラインとオフラインのデータをリアルタイムに解析することが可能だ。これまで数値化、解析が困難だと言われてきたリアル店舗における非購入者を含む店舗来訪者の属性や動向を解析して、店舗運営の課題解決や改善に結び付けられるという。
三越伊勢丹では顧客の要望と期待に応えるため、店舗の課題に対して最適なソリューションやテクノロジの有効活用を以前から検討してきた。今回、ABEJAのインストアマーケティングテクノロジーの導入に先駆け、三越伊勢丹独自の全国菓子セレクトショップ「菓遊庵」の顧客が買いやすい場を作るために、両社で協同プロジェクトチームを発足させ、店舗レイアウトの変更による売上影響度合いを計測する仮説検証実験をした。その結果、実際に店舗レイアウトを変更したことで、エリアごとに売上を向上させることに成功したという。
ABEJAは、2012年に創業。NTTドコモ・ベンチャーズ、米国セールスフォース・ドットコム、さくらインターネットなどから出資を受け、東京大学などとの共同研究を積極的に進めながら人間の脳の動きに近い判断や分析を行う機械学習分野のひとつ「ディープラーニング」の理論を活用した画像認証技術やデータ解析技術を研究・開発している。そしてこの中核技術を元に、これまではアナログな手法が主流で市場ポテンシャルが見込める領域として、インストアマーケティングに注目して事業を展開しているという。
ABEJAの創業者で代表取締役CEOの岡田陽介氏に、この技術の強みや三越伊勢丹との取り組みの詳細、そして起業した背景などについて聞いた。
--まず、インストアマーケティングソリューションが生まれた背景について教えてください。
岡田氏:これまでのリアル店舗は、レジを通過する顧客についてはPOSデータなどから購買履歴を取得して傾向を分析することができましたが、商品陳列や在庫の最適化、店員のシフトなどを改善するための、入店時の来店者の動きや店舗内における回遊行動といった店舗内のデータはまったく取れませんでした。
このような課題に対して、ディープラーニングの理論を応用して開発した顔認証技術や性別・年齢解析技術を活用した来店者数や来店者のデモグラフィック分析と、カメラの映像を解析して店舗への来店者の流量や店舗内における人の動きを数値化することができるヒートマップ分析を提供し、ABEJAの技術によって得られたデータと、店舗が持つCRM、ERP、POS、会員データベースといったデータとをDMPによって統合的に解析して、店舗運営の改善とその効果を検証できるソリューションを生み出しました。
私たちの強みは、ただ店舗内の状況を見える化するだけでなく、そこからどのようにオペレーションを改善すればいいのかを把握できる技術であるという点です。小売店やサービス店舗にとっては、店舗の課題が見えたとしても、それが店舗のオペレーションに反映できなければあまり意味がないのです。これまでに、コンビニエンスストアや携帯電話ショップ、ドラッグストア、アパレルショップ、家電量販店などで導入されています。
--具体的に三越伊勢丹との取り組みではどのようなことを行ったのでしょうか。
岡田氏:今回私たちが提供したのは、画像解析による店舗内解析技術を活用したリアルな「A/Bテスト」です。ウェブサイトのA/Bテストは、たとえば商品や広告の露出を出現率50対50などに分けてコンバージョンを検証しますが、今回の「菓遊庵」プロジェクトの取り組みではそれをリアル店舗で実施したのです。
具体的には、店舗内の異なる2か所において、商品を陳列した場合にその商品の売れ行きや人の動きがどのように変わるのかを検証しました。それによって、商品力の高さによって売れるのか、また商品を陳列する場所によって売れるのかというこれまで解明できなかった疑問が明確になるのです。結果的に、商品力が高い商品は場所を変えても売れるということや、売れ行きのいい商品を購入する場合には顧客の滞在時間が短く、いわゆる“目的買い”が多いことがわかりました。よく言われる「売れ筋商品は陳列場所を動かしたら売れなくなる」というのは誤解だったのです。
これによって、売れ筋商品の陳列場所を工夫することで、店内で人気の薄いエリアへの導線を作ったり、滞在時間を延ばしたりするにはどういう対策が打てるかを考えられるようになりました。店舗で接客するスタッフの経験値も重要ですが、それに客観的なデータを組み合わせることでよりよい店舗づくりができるようになったわけです。
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