「→」の向きが、やっと変わるかも? 何かというと、O2Oの話です。Online to Offline(オンラインからオフライン)、ネット上の顧客をリアル店舗に連れてくる仕組みのことです。
日本の出版界では、これまでもO2Oを掲げて、いろいろな取り組みがなされてきましたが、その最新のニュースが飛び込んできました。
このニュース、電子出版目線で見て、最も注目なのは以下のポイントかなと思います。
O2Oの本質は、ネットユーザーをリアル店舗ユーザーに転換(コンバージョン)すること。そのためには無数の手段がありますが、ポイント付与は、最もダイレクトな施策の1つです。
ポイントというと、イメージがやわらかくなりますが、本質は、要するに「オカネ」。「お店に来ればオカネをあげますよ」と、直接的な利益をちらつかせるわけで、わかりやすいといえば、わかりやすい。
楽天ポイントという、用途の非常に広いポイントシステム(と、位置情報を使ったチェックインサービス)がバックについたことで、有隣堂は今後O2O施策の展開の幅が広がったと思います。
さて、出版や電子書籍に詳しい方なら、「ネットとリアルの連携という意味なら、これまでにもいろいろあったんじゃない?」と疑問に思うかもしれません。
確かに、出版界、中でも書店は、電子書籍が普及し始めた2010年くらいから、O2Oを掲げた対策を次々と打ってきました。
主なところをまとめてみたのが、次の表です。
この表には、参考のために、すでに終了したサービスなども一部そのまま入れています。たとえば、紀伊國屋書店は、2011年にソニーの電子書籍端末「Reader」を店頭で販売しましたが、現在は終了しています(追記:一部店舗ではまだ販売をしているようです。訂正いたします)。
その紀伊國屋は、大手書店の中で、最も積極的にリアル・ネット連携に取り組んでいるといえるでしょう。店頭での電子書籍販売や、紙出版物を買うと電子出版物がおまけについてくる「バンドル」は手薄ではあるものの、他については、自前のネット書店や電子書籍サービスなど、考えられる手はすべて打っている感があります。
他方、大日本印刷傘下の丸善CHIグループに属する丸善、ジュンク堂、文教堂は、グループ内のhontoにサービスを集約する方向性がうかがえます。が、店頭在庫のネット検索が丸善・ジュンク堂では可能なのに、文教堂ではできないなど、戦略がやや、ばらばらな面も見受けられます。
有隣堂は、日本出版インフラセンター(JPO)の実施した、リアル店舗の店頭で電子書籍を販売する実証事業「BooCa(ブッカ)」に参加していますが(東京・秋葉原のヨドバシ AKIBA店)、電子書籍販売もネット書店も自社では手掛けておらず、全体的にはそれほど先進的な印象ではありませんでした。
しかし、今回の楽天との提携で、かなりよい方向性が見えてきたと筆者は思います。
というのは、楽天+有隣堂が今回打ち出した提携は、O2Oの本来の意義に沿っているからです。
これまでの日本の書店におけるO2O施策は、「書店もネット(電子書籍、ネット書店)をやってます」というアピールが目的のように見えるものがメインでした。表でいうと、1~4のところですね。
ところが、これって、O2Oといっても方向性が逆なんです。本来のO2Oというのは、冒頭にも書いたように「オンライン→オフライン」。しかし、1~4の施策は、どれも「リアル書店にすでについている顧客を、ネットに送る」ものです。いわば、「オフライン→オンライン」。
個人的にそういう見方が正しいとは思えませんが、仮に「リアル」と「ネット」が一種の敵対関係にあると考えると、1~4は、リアル書店が「敵」であるネットに、一生懸命「塩」を送っているような構図だったのです。
もちろん、こうした施策の効果が常に一方向、というわけでもないとは思います。たとえば、電子書籍の端末を展示したり販売したりすることで、それまでリアル書店には足を運んでいなかったネットユーザーを、リアル書店のファンにする、という効果が、まったくないとは言えません。
また今後のリアル書店の方向性として、紙も電子もどちらも買える読書のコンシェルジュサービスを展開する、ということが考えられています。そうしたサービスへの1ステップとしては、よいのかもしれません。つまりむしろ社内向けですね。
しかし、少なくとも現時点で考えると、その逆、つまり、せっかくリアル書店に来ているお客に、「電子書籍というもっと便利なサービスがありますよ」とお客をよそへ逃している、という面が強いようにも思います。
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