――ネイティブアドは自主規制で済むか。
「おそらくコンプガチャ規制と同じように次の段階に進む。今のままでは、業界団体であるJIAAの権限だけでは、カバーしきれないだろう」
個人情報保護法の改正論議やネイティブアドなどネット上の消費者問題に詳しい山本一郎氏はこう語った。
JIAAが3月に発表したネイティブアドの定義と推奨規定を巡ってウェブメディア業界が揺れている。特に論点となっているのは、いわゆる“ステマ”である「ノンクレジット(広告表記のない)の広告記事」だ。クライアントから広告掲載料などを払われているにもかかわらず、通常の編集記事と同じデザインやフォーマットで掲載されるネイティブアドから広告表記を取り去ると、広告なのか編集記事なのか、消費者には見分けがつかなくなる。しかし、一部のウェブメディアでは主な収益源となっているとみられ、JIAAが促す「自主規制」に反発する声が少なくない。
ノンクレジットの広告記事を排除するためには、広告主がメディアに対してノンクレジットの広告記事を求めないことが重要であり、広告主の理解が欠かせない。JIAAでは、日本アドバタイザーズ協会の会員である広告主企業向けに、ネイティブ広告の定義やガイドライン、事例などを説明する場を2015年中に設ける予定であるなど、全てのウェブメディアが推奨規定に沿った対応をせざるを得なくなるよう環境を整備している。
山本氏は今後をどのように見通しているのか。
――JIAAが公開した自主規制のガイドライン(指針)をどう思うか。
妥当かつ穏便な内容だと思います。特に罰則規定があるわけではなく、あくまでもガイドラインとして、これを守っていれば大丈夫だというもの。「JIAAの指針にもあるとおり、こういうディールはできない」と、クライアントや代理店からの無茶な依頼を断れるようにすることに意義があります。「これはよくない取引なんだ」と外部的に言えることが大きい。
なぜこのタイミングでわざわざそんなことを言わなければいけないのか、と反発する会社もあるようです。いままでずっとやってきたからダメだとか、そう結論を急ぐことを言うつもりはなくて、指針が出たこのタイミングでいったんネイティブアドの広告クレジット外しをやめ、じゃあ本当に広告って書いたらPVやCTRが下がるのかをよく確かめたらどうかと思うわけです。下がるのであれば、下がらない方法を記事広告の中で模索することに力を注いで、自社サイトを構築した方がいいのではないでしょうか。
ステマと言われているものが消費者の利益を損ねているという認識は誰もが持っています。ステマをするのはマズいことだが、マズいと知りつつ実際に行っていて、クレームが出るまでそれを認めないことのほうが問題。「業界がこういう状況になったので、うちとしてはやりにくくなった。ついては、ノンクレジットではなくて、広告クレジットを付けてやることにした」と言えばいいだけの話だ。せっかくネイティブアドのクレジット外しは問題だ、という機運が生まれたタイミングで、それを是正しないままやり続けていたら「ガイドライン違反だ」と追及される運命にあるのだから、よく考えてもらいたい。
――業界内で自主規制は働くか。
自主規制が働かない場合、問題は解決しないことになり、今度は業界団体と当局との連絡会が開かれることになったり、内閣府消費者委員会で問題を注視するべき事項として取り上げられたりするでしょう。ネイティブアド方面で欺瞞(ぎまん)的取引があるので、消費者問題が具体的に発生しているぞとなれば、所轄である経済産業省は番外に置かれてしまいます。事業者が問題解決に向けてどのような取り組みをしているのかを当局側が“スコア”として持ち、事業者側はそのスコアを減らすように対策することを、連絡会を通じて宣言しなければなりません。これは出会い系サイトやアダルトサイト、FC2のような違法ダウンロードサイトなどと同じ土俵にネイティブアド界隈が立たされることを意味します。
現在は、そこに行くか行かないかの瀬戸際ではないかと思います。
幹事会社を決めて、誰がどのようなネイティブアドをやっていて、そのうちステマと思われるのはどれくらいで、営業活動はこうで……という実態を明らかにして、消費者行政の枠内で適切に報告しろという話になります。その上で問題があるようであれば、問題となる箇所ごとにスコアを出して、そのスコアが減るように各業者に対して当局が改善の要請を行う、ということが起きるかもしれません。
連絡会が開かれれば、厳しく追及される会社が出てくる可能性はあります。当局は一罰百戒を狙ってくると思うので、業界全体で改善が見られないと思われる場合は、いま最も目立つ動きをしている企業に矛先が向くのではないかと感じます。
――連絡会が開かれた後も是正されない場合は。
具体的な被害があった場合には警察が動くことになるでしょうが、最も上が「立法」であって、被害が収まらなければそれこそ既存の法律ではなく新法で対応しようということになり、出会い系サイト規制法のような法律ができて業界全体が規制されることになります。今のうちに業界の中で起こしてしまっている問題について理解して、メディアとは何か、メディアが果たすべき責務とは何か、消費者を守るとは何かを理解してもらわなければなりません。
――ネイティブアドに問題意識を持っている消費者、または業界内の人間にできることとは。
「あなたの会社の広告(とみられる記事)が、広告というレギュレーションが付いていない状態で掲載されているが、これはどういうことなのか」と、メディアの編集部ではなくて広告主に直接問い合わせるのが良いのではないかと思います。商品やサービスの認知を拡大したり、イメージを良くしようと思ってネットに広告を掲載したはずが、欺瞞的取引の典型であるネイティブアドの広告クレジット外しの具になって、割高な広告費用を支払わされていることを広告主が分かるようになるわけですから。
業界内としては、やはり相互監視が必要であり、マズい取引を耳にした場合はなるだけ確認を取り、牽制したり、材料をJIAAや消費者庁、警察庁・警視庁に投げ込むのが一番です。こういった組織は通報者に対して無反応に見えて、実はしっかりと事例を蓄積して、業者ごとに隠れパラメータというかスコアを持っています。
業界内の人としては、何が儲かるかも大事ですが、消費者や読者のために何を守るべきかという倫理観も必要です。もうかる仕事をしたくて取り組む気持ちは分かりますが、あとになって規制が入り、目先の利益の取れる仕事がごっそり無くなった場合、正しい仕事で利益を出す方法を培っていないとリストラになりクビになるのはその人です。
グレーゾーンが一番儲かるのは当たり前です。そういう誇れない仕事で儲けたいという話なら、薬物取引の売人と同レベルなんじゃないですか。
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