「ネイティブ広告」定義の真意--JIAAが語るこれからのメディアの在り方 - (page 3)

井指啓吾 (編集部)2015年04月08日 14時00分

長澤氏:ノンクレジットの広告記事で消費者が被害を受けるようなことがあってはならない。例えば、規制があって広告ではうたえないことをタイアップ記事で書いてしまうことがある。これが原因となって、メディアや広告に法規制が強く入ることは、表現の自由などの観点からも避けたい。

 現在、JIAAが自主ガイドラインでやっていることを行政サイドと意見交換している。すぐに規制が強化される動きがあるわけではないが、自律的な規制に委ねられるように、今回いち早くこの推奨規定を作った。

――ネイティブアドは新しい広告の手段として、どのように信頼を得ていけばいいのか。

  • ネイティブアド研究会座長の長崎亘宏氏。今回のガイドライン改定は「ネイティブアドに関わる企業がスタート地点に立つための整備」と説明する

長崎氏:「ネイティブとは何か」といった基本の部分がとても大事。ネイティブアドは当初、定義がバラバラで誤解を受けることもあった。まずは、業界内での売る側と買う側のネイティブアドの言語統一だとか、ネイティブアドの概念、哲学のようなものを統一する必要がある。

 今回の改訂したガイドラインは、ガツガツ取り締まるというよりも「ネイティブアドに関わる企業がスタート地点に立つために整備をした」というのが現実的な見方。各企業が主体的にスタートラインを作っていく、そこにみんなで並ぼうという状況だ。まだまだスタートラインに立っていただいていない企業もあるし、そのスタートラインへの立ち方がわからない企業もある。本当にまだまだ始まったばかりだ。

長澤氏ネット広告費1兆円超えを引っ張ってきたのは、ここ数年の運用型広告ブームだと思う。アドテクにより、クライアントのオウンドメディアに対する誘導率、そしてオウンドメディア上でのコンバージョンで価値を計るもの。これは、コンテンツを掲載した媒体の力を、オウンドメディアに誘導したクリック数などだけで測られてしまう。

 当然、運用型広告によるデータサイエンスを活用した効率化がマーケティングに必要だ。しかし一方で、インプレッション効果やブランディング効果をメディア広告上できちんと測り、それを価値化する作業に業界が取り組んでいく必要もある。

 ネイティブ広告は、定義にもあるように、記事やコンテンツになじませることで、メディアやプラットフォームのブランドを借りて広告効果を出すものだ。そこで重要なのは、そのプラットフォームの力であり、メディアのコンテンツ力、ブランド力になる。

 そのため、それを適正に評価するネット広告の概念が必要だ。たとえば視聴時間や視聴進度などの説得力のある指標を示す必要がある。米国では「バズ(ソーシャルアクション)」を指標にするなどの動きが出てきている。どれほど伝搬されたかをトレースして設定目標に据え、ネイティブ広告の価値付けをしている。

 日本では、ソーシャルメディア時代といえども、まだその特徴を価値化できていない。これからは、「クリック」ではない評価指標も必要になってくるのではないかと思う。そしてそのためには、そもそもネイティブアドが信頼されるものでなければならない。

 現状では、「テレビでリーチし、通販商品はネット」という漠然とした使い分けがされている。これからのネット広告の成長には、テレビスポンサー(ブランドスポンサー)企業が入ってくるような、言い方が正しいかはわからないが「テレビ的な要素」を取り込まなければならない。また、スマートフォンやPCを使う時間、人が増えているので、そこでのブランディングをどのように組み立てるのかを、ネイティブアドをきっかけに、業界として打ち出していきたいという狙いもある。

長崎氏:メディアや広告主が自信を持って「これがネイティブアドだ」といえるものがまだまだ少ない。そのため、今は社会的な責任など守りの部分をきっちり押さえながら、新たな広告体験の提供であるネイティブアドを推奨し、より多くの良い事例を増やしていく。

 そこで課題になるのが、先ほどの話にも出た、テレビCMに代わるようなものを作れるかどうか。ブランドビルディングができ、エンゲージできるもの。これが正々堂々とできていると言い切れるインターネット広告をデリバリーする企業は今まで少なかったと思う。

 まだ仮説レベルだが、JIAAによるネイティブ広告の意識調査で、そのコンテンツをネイティブアドだと認識している人は、そうでない人に比べて好感度や信頼度が高いことがわかった。と同時に、それが広告であることや広告主の明記を求めている。一般的にクリック率が高いというスコアも出ているが、こういったエビデンスこそ蓄積していきたい。

――長澤氏が先に話したように、ネイティブアド以前に、ネットメディアやネット広告への消費者の不信感は強いと感じる。JIAAは3月18日に「ネイティブ広告の定義と用語解説」で「編集記事」と「タイアップ」の定義を明文化したが、モラルのない企業はこれに従うのか。

編集記事の定義(解説)

“広告主や広告代理店等から金銭等の授受が直接的にも、間接的にもなく、媒体社が自らの意思で企画、編集、制作された記事のことを指す。直接的かつ間接的に金銭の授受があった場合の編集記事ではない例は下記の通り。

直接的な金銭の授受があった場合:媒体社の広告メニューにはないが、金銭の授受が行われたことで執筆された記事

間接的な金銭の授受があった場合:媒体社の広告に出稿した見返りとして執筆された記事(消費者からは一見、対価を伴わない純粋な編集記事にみえるが、実は広告に出稿した見返りとして執筆されている記事)”

タイアップの定義(解説)

“タイアップ広告:媒体社が広告を記事調に制作編集する広告コンテンツを指す。媒体自身の特性・コンテンツと連動する企画となることが多いことから、「媒体」と「広告主」の「タイアップ」という意味で「タイアップ広告」と呼ばれる。

スポンサードコンテンツ:コンテンツそのものは媒体社の編集側が制作し、そのコンテンツおよびそれらが掲載されているページなどへ広告主がスポンサードするもの。つまりテレビでいう「提供・タイム」に近い。「タイアップ広告」の場合は記事調に作られたコンテンツがすなわち広告であるが、「スポンサードコンテンツ」の場合は、コンテンツはあくまでも編集側の制作であり、広告主の商品などを説明する広告コンテンツではない。スポンサードコンテンツの場合はそこに書かれたコンテンツを読みに来る人に対してリーチできるという利点があり、それによって広告主はスポンサードのメリットを感じる。一方で「タイアップ広告」の場合は、それ自体が広告なので、通常の媒体枠の中で掲載となることが多い。”

長澤氏:我々の立場として、編集記事とタイアップ広告との区別を明確にする意図があり定めた。自浄作用が働かないと、やはり悪貨が良貨を駆逐する。ネットメディア業界というのはそのリスクがあるが、そこは見識がありブランドがあるメディアが、正すべきところを正していくものと思う。

長崎氏:ディテールの話でいうと、純粋な編集記事ではあるが、結果的に「クライアントA」の商品を推奨することになっていて、これをLP(ランディングページ)などとして使いたいニーズが組み合わさった場合にどうするかなど、細かいところまで議論し尽くしている。

 プレスツアー(取材旅行。企業側が自社製品などを紹介するために、記者の旅費などを負担するもの。企業側は記事の内容には関与しない)については、編集記事であっても特定企業の関与がわかることが常識であることを促しつつ、メディアとしてのモラルを問うようなトーンで規定している。

長澤氏:それが広告であるか記事であるかは、我々の規定上は、媒体社の判断に委ねている。

 スマホ時代に移り変わり、ソーシャルやキュレーションなどが登場した。その中でコンテンツメディアは非常に注目されていると思う。

 そこでの広告の在り方は、コンテンツメディアのブランドを反映した価値体験があって評価されるものであるべきだろう。その評価の中にクレジット(広告表記)が入ったとしても、記事なら効く、広告なら効く、というのは「コンテンツの本質」ではないというスタンスに立っている。

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