この連載では、アウンコンサルティングの現地駐在員による、日本・台湾・香港・タイ・シンガポールでのマーケティングに役立つ現地のホットトピックを週替わりでお届けします。
今回は香港から、長年の波乱を経て2014年11月にデビューしたオンラインテレビ局HKTVに関連する香港テレビ業界の歴史と論争を振り返ってご紹介します。
香港といえば金融と貿易の都市というイメージが強いですが、実は香港のテレビ業界にも歴史と実績があります。香港の人口はたった700万人なのにも関わらず、人口が3億人以上の米国と、ほぼ同等の予算をかけたテレビ番組が定期的に制作されています。これは驚くべきことではないでしょうか。
香港のテレビ局は、1967年設立のTVB(無線電視)と1957年設立のATV(亞洲電視)があり、約50年に渡り独自の広東語番組を制作、放送してきました。
しかし近年では、特に独占的に番組を展開しているTVBに対する視聴者の不満が高まり、大きな論争を引き起こしていました。番組のマンネリ化や品質に対する不満のみならず、業界が独占状態であることや、TVBが自主的な検閲を行って報道内容を抑制しているといった声が強まったためです。特に昨今の民主化デモの報道内容を巡り、批判は高まる一方でした。
そんな市民の想いを代弁し、希望の光として11月にグランドオープンを果たしたのが、オンライン専門のテレビ局HKTV(香港電視)です。HKTVは初めからオンライン専門のテレビ局となる予定ではありませんでした。ではなぜ、そのような形になったのでしょうか。
上述の市民の不満を背景に、テレビ局を増やそうと政府が動き始めたのが2009年のことです。当初、政府は認可数に上限はないと発表しており、その際の書類審査に通ったのがケーブルテレビ系の「奇妙電視」、PCCW(now tv)系の「香港電視娯楽」、独立系の「香港電視(HKTV)」の3社でした。
HKTVの王維基氏は多額の投資をし、ドラマを制作してYouTubeで放送し、そのクオリティで大きな支持と知名度を獲得。HKTVが正式にテレビ局として認可されるのを市民が心待ちにする中、2013年10月、政府からついに新しいテレビ局が発表され……結果は「HKTV以外の申請を許可する」。
この結果は、即座にソーシャルメディア上で罵詈雑言の嵐を巻き起こしました。香港電視への支持を表明するFacebookページは設置から数日で「約48万いいね!」を集め、政府が理由を明確にしなかったことに対する不信感も伴って、立法府前に推定8万人の抗議者が詰めかける騒ぎとなりました。
HKTVの王維基氏は、その後裁判や買収を伴うさまざまな努力を経て、オンライン専門でのローンチを決めます。ローンチに際して数週間前から大々的に広告が展開され、赤ちゃんが泣いている大きな顔写真とともに「幾時有新嘢睇?」(いつになれば新しいものが見られるの?)というメッセージが各所で見られました。
HKTVがローンチされた日は2014年11月19日、奇しくも最大の壁となってきたTVBの設立47周年記念の日。ローンチパーティに招待された各界の参加者を前に王氏は「香港市民もHKTVも、未来の世代のために絶対諦めない」と、昨今のデモを彷彿とさせる宣言を発しました。
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