前回、米国でのUberのドライバーによる抗議について触れたが、11月に入り米国各地とロンドンのドライバーが連携し「グローバル抗議デー」が行われた。予約が入らないよう携帯を切ってストを断行したドライバーもいる。実は、こうした抗議活動の裏にいるのは、全米運輸労働組合(全米運輸労組)のチームスターズだ。同労組は、カリフォルニア・アプリ利用運転手協会も創設している。
同様の労働争議は、シリコンバレーでも起こっている。グーグルやアップルなどシリコンバレーの大手企業では、サンフランシスコ在住の社員が“生産的に”通勤できるようWi-Fi完備のシャトルバスを走らせている。こうしたバスの運営には外部の業者を雇っているのだが、バスの運転手らが全米運輸労組への加入を検討しているのだ。
運転手らは朝6時ごろに社員を迎えに行き、会社に送り届けた後、社員らが帰宅する5時ごろまで仕事はない。彼らの時給は16~20ドルで「単純労働にしてはいいではないか」と思う人はいるかもしれない。しかし、彼らが働くのは、小さな家が100万ドルどころか何百万ドルもし、2寝室のアパートの家賃が4000~5000ドルもするようなシリコンバレーである。彼らには到底、手が届くはずがなく、勤務場所からずっと離れた地域に住まざるを得ない。そのため、朝に社員を送った後に帰宅して、夕方また出勤するというのは無理なのである。そこで、夕方まで待つことになるわけだが、待ち時間の間、賃金は支払われない。
さらに、社員らを家に送り終え、仕事が終わるのは夜10時前、朝6時前から16時間拘束され、家族と過ごす時間もなく、バスの運転手らの労働環境に対する不満は募っている。
全米運輸労組は、このシャトルバスを利用しているFacebookとバス会社に、運転手らが組合を組織するつもりであることを書簡で伝えたという。書簡には、「召使が貴族を馬車で送迎していた時代のようだ。昔との違いは、今ではお宅の社員が貴族で、バスの運転手が召使な点だ」と書かれており、Facebook側に組合化を支援するように促した。
Facebookでは、バス会社とは一定の料金で契約しており、運転手の給料や勤務シフトを決めるのはバス会社であるという姿勢である。なお、Facebook以外にも、Ciscoのバス運転手らも組合化する動きがある。
なお、11月19日の投票で、フェイスブックのバス運転手らは全米運輸労組に加盟することが決まった。今後、加盟の動きが他社のバス運転手にも広がる可能性が高い。
こうした動きは、シリコンバレーの貧富の格差が恐ろしく拡大してしまったのが原因だ。シリコンバレー(サンタクララ郡)のバスの運転手や警備員の時給は一時間14~16ドル(中央値)であるのに対し、システムソフト開発者は63ドル以上である。先述のように、住宅価格や家賃が飛びぬけて高いシリコンバレーでは年収10万ドルでも生活は楽ではない。時給14~16ドルでは、到底、生活できない。
さらに高給取りのシリコンバレー企業社員が、従来、低~中所得者層が住むサンフランシスコ市内のエリアの家賃や住宅価格を押し上げていることから、グーグルやヤフーのバスが襲撃されるなど、シリコンバレー企業のバスに対し抗議活動が続いている。
シリコンバレーにかかわらず、昔は社内で行われていた作業が社外にアウトソースされ、正社員らがパートタイム社員や契約社員、独立業務請負人、マイクロワーカーに、どんどん置き換えられている。それが雇用の不安低化や低賃金化につながっている。ストックオプションどころか、疾病休暇さえもらえない契約社員や下請け社員は、シリコンバレーのブームの恩恵を受けるどころか、ブームによって家賃の高騰に苦しめられているのが現状だ。
しかし10月、こうしたトレンドに逆行する動きが、シリコンバレーで起こった。Googleが、これまで警備会社を通じて雇っていた警備員200人を社員として採用すると発表したのだ。
シリコンバレーでは警備員らも組合化する動きがあり、それを阻止し、さらにシリコンバレー企業に対して高まっている批判に対応したものと見られている。今後、シリコンバレーに低賃金労働者の社員化が広まるのか、労組化が広まるのか、企業経営者の決断にかかっているといえるだろう。
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