スマートフォン向けの動画広告市場が本格的に立ち上がりつつある。サイバーエージェントがシード・プランニングと実施した共同調査によると、2014年の動画広告市場は311億円。前年比で約2倍に達すると予測されており、そのうちスマートフォン向けの広告が89億円を占めるという。また、今後もスマートフォン向けの動画広告の需要拡大が市場成長をけん引すると見られており、2017年には880億円規模まで拡大、その約半数がスマートフォン向けになる見通しだ。
こうした状況を受け、2014年に入りインターネット事業者各社が次々とモバイル動画広告市場へと参入している。11月だけでもグリー傘下のネット広告会社Glossomが、米AdColonyのモバイル動画広告配信プラットフォームの提供を発表。また、アイスタイルも化粧品・美容情報サイト「@cosme」向けのモバイル動画広告の提供を発表しており、今後はさらにこの領域での競争が激しくなることが予想される。
日本国内で5000万人以上のユーザーを抱えるLINEも、独自のアプローチで2月からモバイル動画広告事業を展開している。それが「LINE フリーコイン Video」(FCV)だ。ユーザーは企業のCMやプロモーション動画を視聴することで、スタンプなどを購入できる仮想通貨「LINEコイン」を獲得できる。特定のアプリをインストールするとLINEコインがもらえる「LINE フリーコイン」の動画版といえる。
FCVでは、企業が最大60秒間の動画を放映できる。動画を見終わらないとインセンティブは発生しないため、動画の視聴後にキャンペーンサイトや企業サイトへ誘導することも可能だ。なお、同サービスはいわゆる“リワード広告”の一種であり、Appleはこうしたインセンティブを付与するアプリを禁止していることから、現在はAndroid版のみが提供されている。アクセスするにはLINEの「その他」メニューから「フリーコイン」を選ぶ。
このサービスの最大の強みは、やはりLINEが持つ膨大なユーザーに向けたリーチ力だ。LINEのAndroidユーザーは7月時点で国内2600万人を超え、毎日利用するユーザー(DAU)は約6割に及ぶ。また、アプリのダウンロードでインセンティブが得られるLINEフリーコインの利用者は約6割が女性で、年齢も若年層が中心かと思いきや、10代が26%、20代が23%、30代が23%と幅広いそうだ。企業はここに対して動画で訴求できる。
同社 広告事業グループの岡村裕之氏によれば、FCVのアクティブユーザー数は非公開だが、10月は6月と比べて113%成長している。また、約60秒の動画にも関わらず視聴完了率は約8割と高いそうだ。「FCVでは視聴完了数で広告主と契約しているが、たとえば20万回の視聴だと1日ですぐに達してしまう。またLINEのアカウントは端末と紐づいているため、複数アカウントでの利用などはできず、ほぼユニークな数といえる」(岡村氏)。
ここで多くの読者は、「インセンティブ欲しさに見ているから視聴完了率が高くて当たり前」と思ったのではないだろうか。確かにそれも間違いではない。松竹の映画「ホットロード」のプロモーション動画をFCVで視聴した300人に対して調査を実施したところ、約7割がその動機として「コインが欲しかったから」と答えている。ただし、この一方で4割以上が「時間が空いたから」「作品に興味があった」とも答えている。
LINE上級執行役員の田端信太郎氏は「単純に暇だったから面白いものを探して見ている人も少なからずいる。どうしてもリワード広告というと、“コインハンター”的なイメージが強いが、実際はそうではない。そもそも1視聴で2コインしか獲得できないので、50回見てスタンプ1つと考えると効率が良くない」と語り、ゲームなどと同様に“暇つぶし”のサービスとしても利用されている点が、一般的なリワード広告との違いだと強調する。
また動画広告の中には自動再生されるタイプも多いが、FCVはユーザーが自ら映像を選んで再生ボタンを押している、つまり強制視聴ではない。さらに選んだ動画はスマートフォンの全画面(横表示)で60秒間再生されることから、テレビやPCと比べて動画の認知率が高いのだという。先ほどのホットロードの調査でいえば、テレビでは認知までに10回のCMを流さなければいけないが、FCVでは約7割が1度の視聴のみで認知したと答えている。またその後、公式サイトなどのリンクを約1~2割がクリックしていることも分かったという。「ウェブ広告のクリックレートは0.1%以下と言われている中、2桁を出せている」(岡村氏)。
FCVでは、一定の視聴回数に到達すると終了する「スタンダード」プランを200万円から、1週間の掲載期間で契約する「Brand Spot」プランを500万円で広告主向けに提供している。他社の提供する動画広告と比べるとやや高めの設定だが、視聴完了後のクリック率の高さを考えれば「むしろ割安」と田端氏は話す。当初は、ソフトバンクモバイルとローソンの動画を配信していたが、すでにゲームやアパレル、保険など100社以上に利用されているという。
特に女性向けの動画が人気で、たとえばフジテレビのドラマ「ファーストクラス」の第1話の放映日に、FCVで流した予告動画は高い再生数を記録し、すぐに次回分の出稿も決まったのだという。また、自社のLINEスタンプと組み合わせたプロモーション動画など、ウェブやLINEならではの動画広告を別途用意する広告主も徐々に増えつつあるそうだ。
同社では、友だちになったLINEユーザーに対してオリジナルのスタンプを配信できる広告商品「スポンサードスタンプ」を提供しているが、「2014年内は満稿(広告枠が埋まること)で広告主は買いたくても買えない状況」(田端氏)。そこで現在は、その代替案としてFCVを提供しているが、「結果的には、スポンサードスタンプで友だちを獲得した場合とそこまで変わらない効果が出ている」(同)と、広告主からも好評だという。
その一方で、サービス開始から半年以上が経つが、「リワードというモデルがイメージを悪くしている現状は否めない」とも話す。今後もFCVならではの強みを訴求しながら広告主の理解を得たい考えだ。iPhoneの対応についても広告主、ユーザーともに要望が多いことから、「コイン付与を前提としない形で、どのように展開するかを模索している」(田端氏)という。
また、海外ではすでに台湾とタイで提供しており、ゲームやコスメなどの広告主から引き合いがあるという。特に東南アジアでは、テレビやPCではなくスマートフォンから初めてインターネットや動画に触れる人も多いため、日本以上の成長が期待できる市場と捉えているようだ。
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