ディー・エヌ・エー(DeNA)はゲーム事業を核として、スマートフォンアプリを活用した新規サービス、果ては遺伝子検査サービスなど新たな事業を次々と進めている。直近では、スタートアップ企業のiemoとペロリの2社を買収し、キュレーションプラットフォーム事業も手がけはじめた。
多岐にわたる各種サービスや事業をどのように消費者に訴求し、ビジネスを成り立たせているのか。具体的なマーケティング施策や、その原動力ともなるマーケティングソリューションをどのように活用しているかなどを、DeNAの執行役員でマーケティング本部本部長である彌野泰弘氏と、マーケティング本部 デジタルマーケティング部 第一グループ トラフィックコントロールチーム チームリーダー マネージャーである川田穂高氏に聞いた。
--ゲームを核として多岐にわたるビジネスを展開していますが、いま最も注力している分野は?
彌野氏:注力している分野は、収益の柱であるゲーム事業が1つあります。スクウェア・エニックスとDeNAが手掛ける新作タイトル「ファイナルファンタジー レコードキーパー」は、事前登録が過去最高の25万人の登録がありました。
また、スマートフォンやタブレットで有名作家の作品が無料で読める「マンガボックス」は500万ダウンロード達成し、まもなく次のステージに行きそうです。もう1つはMYCODE(マイコード)という遺伝子検査があります。いまは、この3つが特に注力しているサービスとなります。
これ以外には、「チラシル」というスマートフォンでスーパーマーケットやドラッグストアなどのチラシ情報が読めるサービスがあり、KPIとしては非常に高く、積極的にプロモーションしていこうとしているところです。さらに、新規事業ではインターネットでアイドル、タレントとコミュニケーションを楽しめる仮想ライブ空間「Showroom」もあります。9月中旬に大幅リニューアルして、アイドル情報以外のカテゴリも増やしていくかまえです。以上のように、最注力しているのは大きく5つの分野になります。
--5つともサービス内容が異なるので、マーケティングやプロモーションの施策は変わってくると思いますが。
彌野氏:サービスによってユーザーが違うので、どのサービスもまずはユーザーをきっちりと理解するというのが大事だと思っています。そのため、ここ1、2年でユーザーリサーチグループを設置し、ユーザーのサービス利用の反応や要望を吸い上げています。そのうえで、サービスごとに何を提供すればいいか、どのように訴求していくべきかを考えます。
たとえば、遺伝子検査とマンガボックスのユーザーはだいぶ異なるので、それぞれのユーザーを理解したうえで、マーケティング施策を考えるわけです。また、すべてのサービスにおいてマーケティングメディアとしては、「テレビコマーシャル」をはじめ、ソーシャルメディアを含む「デジタルマーケティング」、オンラインや雑誌などの「メディアを使ったPR」の3本柱を軸に捉えています。
ユーザーリサーチグループは約20名いて、定量調査と定性調査の2つの側面があります。アンケート形式の定量調査を数百名の全国規模で行い、分析しています。定性調査ではユーザーに来社いただき、専用の部屋で実際にサービスを利用してもらったり、質問に答えてもらったりして感想や要望などを理解することに努めています。
--マーケティングメディアの3本柱をどのように使い分けていますか。
彌野氏:いずれもサービス自体はインターネットなので、重要なのはデジタルマーケティングの領域です。そして、ブースター的な役割としてテレビコマーシャルがあります。PRは話題性や流行感がもっとも伝わるでしょう。根幹がデジタルマーケティングにあって、テレビとPRがそれをサポートするかたちにしています。
デジタルマーケティングといっても、いろいろな側面を含んでいますので、ペイドメディア、オウンドメディア、ソーシャルメディアの3つのチームに分けてます。そして、それぞれのチームで最大限何ができるか、何を最適化できるかを考えます。サービスによって、どのメディアをもっとも活用すればいいのか差が出てくるので、そうした最適化もチームで取り組んでいるのです。
--トリプルメディアが重要だとわかっていても、なかなか各メディアごとに組織分けをしている企業は多くないと思いますが。
DeNAはベンチャーマインドを非常に大事にしていることもあって、いい意味でしょっちゅう組織変更をしています。戦略的に重要なものがあって、さらに強化する場合に「専門チームをつくる」というやり方をしています。この一方で、組織が分かれたからとってコラボレーションできないわけではありません。組織の壁はつくらないというコミットがありますし、同じ席で昨日までとはちがう仕事をしているだけなので、会話もできますし、コミュニケーションロスや大きな問題にはなっていません。
--5つの注力分野それぞれで、具体的にはどのようなマーケティング施策を実施していますか。
彌野氏:ゲームに関しては、個別タイトルによって大きく変わりますが、ファイナルファンタジーではマスマーケティングを存分に投下しています。あとは、ゲーム好きの方たちの話題性を考えるとインタレストメディア、特にTwitterとの連携は重要だと考えています。今回の事前登録ではTwitterのアカウントでログインできて、さまざまな企画の中でもTwitter連携がかなりありました。
たとえば今回の事前登録では、スマートフォンを振るとルーレットが回ってキャラクターが揃うとそのアイテムがもらえるという企画を実行しましたが、ルーレットを回せる回数が決まっていて、さらに振りたい場合は一度ツイートすると再度回せるような仕掛けをしました。
--ファイナルファンタジーの場合はすでにビッグネームで知られていますが、新規のゲームではまったく知られていない場合が多いでしょう。こうした違いで施策を変えるのでしょうか。
彌野氏:特にタイトル力で変えることはありません。ゲームの楽しさを伝えられるかどうかが勝負なのです。変えることがあるとすると、パズルゲームのように多くの人がプレイするものについては、よりマスマーケティングになりますし、少しコアなシミュレーションゲームであれば、よりデジタルマーケティングでターゲティングしていった方が効果が高いだろうということはあると思います。
--ファイナルファンタジーの事前登録のように、マンガボックスも同様な仕組みを使ってますね。先読みする際にはツイートやFacebookに投稿するなど。
彌野氏:そうなんです。それがDeNAのマーケティング本部の1つの特徴です。全社横断的な組織なので、マンガボックスでやってうまくいった、失敗したということをノウハウとしてほかのサービスに活かしています。チラシルでもMYCODEでも同様ですね。
興味が中心にある、インタレストグラフが重要な場合は、やはりTwitterが相性がいいと思ってます。一方で人と人とのつながりが重要な場合は、Facebookのほうがあっているでしょう。たとえばMYCODEは、Facebookのほうがいいかもしれません。
--マンガボックスの訴求はどのようにしていますか。
彌野氏:テレビCMを2回ほど大量投下して、順調に成長しています。1回目は「プロの漫画家の作品が無料で読める」というサービスの特徴があるので、進撃の巨人や金田一少年を実際に登場させるテレビコマーシャルを流しました。すると、この2つの作品を好きな層、20~30歳代がダウンロードしてくれました。
マンガのカテゴリを考えると10代の高校生や大学生にもダウンロードしてもらいたかったので、2回目は完全に高校生、大学生をフォーカスするように切り替えました。一番親和性が高いのがTwitterなので、Twitterでバズるようなプロモーション設計にし、テレビコマーシャルも非常にばかばかしい内容にしました。具体的には、テレビで「これからテレビコマーシャルで『漫画ボックス読んでる』と言った瞬間に『漫画ボックス読んでる』とツイートしてください」という、コマーシャルを流したのです。そうすると、ツイート数がスパーンと一気に上昇しました。テレビとソーシャルメディアの役割は違うので、これをうまく組み合わせることによって、大きなシナジーが生まれるということを改めて実感しました。
--マンガボックスは順調に成長していると?
彌野氏:我々としては順調だと思っています。プロモーションが終わってもユーザー数が増えていて、次の600万ダウンロードが見えてきている状況にあります。作品数もプロの作家だけで累計70作品くらいになってます。マンガの数が増えればユーザーも増えると思っています。また、実は言語設定を変えるとダウンロードしたすべてのマンガが瞬間的に英語と中国語になる機能が実装されています。こうした世界展開も視野に入れると、日本の10倍くらいのユーザーポテンシャルがあるので、世界で5000万ダウンロードという規模も見えてくると思います。
--マンガ分野では似たような競合アプリが多く出ていますね。
彌野氏:コンセプトが微妙に違うと考えています。インディーズの作品がいっぱい読めるアプリや、「昔、読んでいた」ようなプロの作品が有料で読めるというアプリはあります。しかし、プロの作家のオリジナル作品が無料で読めるというのは他にありません。なので、訴求しているポイントや、コンセプトのエッジが違います。マンガアプリがたくさん登場することで「マンガ」という分野が活性化するのは非常にいいと思っていますが、マンガボックス独自のポジションというのは築けると考えてます。
--それでは遺伝子検査のMYCODEはどうでしょう。まずは「知ってもらう」「理解してもらう」ということが重要だと思いますが。
彌野氏:カテゴリが新しいので、遺伝子検査をやるとどういいのか、どういう意義があるのか、というところを伝えていくことが重要でしょう。そういった部分を、PRのかたちで事前にメディアを通して伝えていってます。徐々に「遺伝子検査」というもの自体を聞く機会は増えたと思いますし、それが簡単に自宅でできてリスクがわかるということは伝わってきているかなと思ってます。一方、まだ様子見な方も多いと思うので、徐々にユーザーが増えてくるに従って一般化していくと思います。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス