DeNAが注力する5サービスの成長を加速させるマーケティング術 - (page 2)

別井貴志 (編集部)2014年10月15日 16時00分

--MYCODEも先ほどのテレビ、デジタルメディアを通じて訴求していくのでしょうか。

彌野氏:可能性はあります。ただ、初期の段階では「トライしよう!」とすぐ動く人というのは都市部の一角や健康意識の非常に高い人など限定的ではあると思うので、しばらくはよりターゲッティングされたマーケティングをしていくのが重要だと思ってます。

 ソーシャルメディアでは、おそらくMYCODEの場合はFacebookの方が「あなたもやったの?」とか、「どうだった?」とかの情報共有が生まれるし、実際やってみて「結果はこうだった」、「面白かった」などのコメントも投稿されているようで、相性がよさそうです。

--チラシルはどのように訴求しますか。この分野も競合アプリは多いですが。

彌野氏:これは課金系サービスではないので、リターンレートとか、どのくらい使い続けてもらえるかということが重要です。いまは関東圏だけで展開しています。人海戦術で取り組んでいるサービスなので、どうしてもカバー範囲は順次広げていくというかたちになっています。関東に関してはテレビコマーシャルを含めてプロモーションを打っていきます。デジタルマーケティングの部分に関しては、コンセプトとしてエッジが効いているので、まずは知ってもらうことが大事ですので、トラディショナルなバナー広告からすべて展開していきたいです。

 また、おっしゃる通りチラシのサービスはたくさんあります。しかし、ほとんどがPDFをピンチして拡大して見ていくものが多いのです。ユーザビリティとしてひとつずつ拡大するというわずらわしさがあるでしょうし、最大のポイントは比較がしにくいということです。スマホの小さな画面でPDFを切り替えていくのは難しいと思いますが、チラシルの場合は、たとえば「トマト」と入力すると、Aというスーパー、Bというスーパー、Cというスーパーで値段がいくらなのかを一目でわかるという特徴があります。同じ「チラシ」というカテゴリですが、サービスとしてはほかと相当違うでしょう。

 こうしたスマホで見やすいこと、価格比較が簡単なこと、また一番安いスーパーはここだと思ったときにタップするとメモができることなどの特徴を訴求していきます。複数のスーパーを登録しておけば、それぞれ買いたいものごとに、どのスーパーで買えばいいかがすぐにわかります。効率的に買い物ができるので、お金にも時間にもやさしいわけです。

--最後にShowroomはどのように展開していきますか。

彌野氏:大幅なリニューアルによってカテゴリを増やすことで、さまざまなユーザー層の幅が広がるということが1つあります。もう1つは、今まではデータバンク的な扱いでやっていたので、今後大きなリニューアルに伴いKPIが上がってくれば、認知を上げるために大型プロモーションを考えてもいいかなと思っています。また、DeNAはスポーツの事業もやっているので、スポーツ連携ということで、試合を中継するなどの展開も中長期的には視野に入れていきたいと思ってます。

--ひととおりマーケティング施策をお聞きしました。こうしたマーケティングを実行するためには、マーケティングツールやソリューションが欠かせないと思いますが、どのようなソリューションを活用していますか。

DeNAのマーケティング本部 デジタルマーケティング部 第一グループ トラフィックコントロールチーム チームリーダー マネージャーである川田穂高氏 DeNAのマーケティング本部 デジタルマーケティング部 第一グループ トラフィックコントロールチーム チームリーダー マネージャーである川田穂高氏

川田氏:アドビ システムズのソリューション「Adobe Marketing Cloud」を活用しています。具体的には、Adobe Analytics、Adobe Target、コンサルティングサービスです。導入の検討は2012年5月ぐらいからです。その頃の主力はゲーム事業だったので、ゲームでの活用とモバゲーの決済に関連してまずはテストを実施し、正式に12月に導入しました。

 当初は、今でいうところのグロースハック的なイメージで、サービスやユーザビリティの改善といったところにTargetを活用しました。ゲーム内ではターゲティングというのが主流になっていますが、ユーザーをセグメンテーションして適切にコミュニケーションすることを重視しています。ライトなユーザーには「今からの参加しても大丈夫」といったコミュニケーションだったり、またコアなユーザーに対してはもっとよく遊んでもらう施策を企画したりといったことに活用しています。また、バナーを出し分けたり、テキストの文言を変えたりといった細かい改善も積み上げてます。現在は、アドビ システムズの方にも常駐していただいているので、技術的に難しいことなどもすぐにコミュニケーションできています。

--Adobe TargetだとABテストなどで主に活用していると思いますが、どのような効果が得られましたか。

川田氏:基本的にものづくりの会社なので、いったん「作る」ということがサービス側の主眼にあります。改善していくというよりも、一回作ったもののその先をどんどん作っていくような感じです。私は当時ゲームにおりましたので、マーケットイン的な視点でABテストをしていって、費用対効果、ROIでみて十分効果が出せました。どのような結果が出たというところでは、ゲームプラットフォーム全体では、例えばABテスト数が4~5倍になりましたが、テスト1本当たりの工数が43%くらい削減されました。工数の削減と施策の増加という効果が得られたわけです。

 具体例を挙げると、ファイナルファンタジーの事前登録ボタンの文言が長かったのを短くするなどをしました。モバゲーIDやTwitterのアカウントなどで事前登録でき、それぞれリリースされたときに通知が来る仕組みですが、そのボタンの文言を1つ変えるだけでずいぶん違いました。あとは、事前登録するボタンがファーストビューに入ってなかったので、押したときにページャーで事前登録ボタンまで移動するのではなく、ポップアップにするとか、「今すぐ」という文言を入れたりするとか、ちょっとしたユーザーの違和感を取り除くことで事前登録の増加につながったのです。

 PCではなく、モバイルの画面は小さいのでデザイン感を大きく変えるということはなかなかできません。しかし、テストで効果をあげているのは、デザイン感を伝えるより、実はメッセージ感を伝えていく方が効果があるということは、いろいろなページで起きている事象です。今回のファイナルファンタジーに関しても、能動的に「ここに事前登録ボタンがあります」というより、「事前登録ができます!」というメッセージ感を想起させる方が、コンバージョンにつながったことがわかりました。

--マーケティング施策の中で、ソーシャルメディアの活用を今後どのように考えてますか。

川田氏:各ソーシャルメディアのAPIで繋ぎこんで、ワンダッシュボードでKPIが見れるようになっています。例えばよくツイートやリツイートされた文言の共通項というものを、テキストマイニングで洗い出して、次のツイートに生かしていくといった試みを始めてます。

彌野氏:ソーシャルメディアの活用に関しては、まだまだ求めているレベルまでいっていないと思っています。ペイドとオウンドと、ソーシャルと分けた1つの理由は、ソーシャルのチームはそこに特化して強化してほしいという意図が強いのです。ここ数カ月、TwitterやFacebookとかなり密にいろいろな施策をやらせていただいており、だいぶノウハウもわかってきました。現在は、これを実際のプロモーション施策にして経験として貯めるフェーズにあります。そこで、今ファイナルファンタジーがうまくいったので、これをマンガボックスに生かそう、チラシルに生かそう、というように進んでいる段階です。そのため、結果はこれからになります。

 ユーザーのターゲティングはこれから先もっともっとできると考えていますので、アドビのツールを使いながらリアルタイムのターゲティングをして、それに対してクリエイティブも最適化していくという、ほぼセミオートマティックなマーケティングが展開できればいいなと思っています。そこを向こう1年くらいで整備していきたいです。

 このほか、動画のマーケティングも非常に重視しており、社内で動画を作れるスタッフを追加しています。「このユーザーにはこの動画を配信する」など、検証できるようにしていきたいのです。

 たとえばMYCODEは、そもそも遺伝子検査とはどんなものか、その方法は?、リスクは?、といったことを伝えるのに動画が非常に向いていると思ってます。動画が合うサービスは動画を使いますし、一方でチラシルは動画ではなくバナーが通用するというように、うまく差別化して取り組んでいきたいと思います。ゲームはやはりプレイ動画などが非常にいいと思います。

 あと、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンとベイスターズ、DeNAでやってる「命を救うホームラン」というプログラムがありますが、これを今回動画にしたら非常に評判がよく、文字だけではなかなか伝わらないものが、動画で見ると一気に伝わるということがあります。1動画再生あたり1円を寄付するという仕組みですが、共感いただいてシェアが増えています。

--先ほどのセミオートマチックにマーケティング展開をしていく方針をもう少し具体的に教えていただけますか。

川田氏まずはDMP(オーディエンスマネージャー)を使ってデータを統合し、各サービスに適切なセグメントを作成してそのセグメントごとに最適な施策を打っていきます。ファイナルファンタジーの例でいうと、ファイナルファンタジーを好きな人には純粋に「最新作」ということを訴求すればいいと思いますが、ロールプレイングゲームはあまりやらないけどファイナルファンタジーは知ってるという人へのコミュニケーションなど、何パターンかのセグメントを特定し、ウェブだとアドビのTargetを使ったり、アプリだと社内で開発した入稿ツールを使ったりして、数本用意した広告を各セグメントに当てるなど、入稿して簡単な設定で何本もまわしていけるような体制づくりを目指しています。

 これを第1段階とします。そして、現在社内には強力な分析組織があって、アルゴリズムを何パターンも開発していますので、これを活用していくのが第2段階です。このアルゴリズムを使って、各ユーザーの特性に合わせて最適なレコメンデーションやメッセージをある意味すべてオートマチックにできるようにしていきたいです。全社的な意思を反映させて、各種サービス内で取り組んでいける形を目指しています。

--そうした取り組みの一方で、広告などの“クリエイティブ”を決定するのはなかなか難しいと思います。どのようなプロセスでクリエイティブデザインなどを決めているのでしょう。

川田氏:今までは基本的に感覚に頼ってやっていました。その感覚が正しいかどうかを検証するために、感覚ベースでもいいので、まずは何本か効果がありそうなものを用意して、初期のタイミングでテストして一番いいものを決めているということです。今後は複数のサービスで、共通のセグメントで、どういうクリエイティブや色味などがユーザーに刺さるのかを考えていきます。ボタンなどが特にそうですが、テストした上で最適なベストプラクティスを作って、各サービスに横展開するということが重要でしょう。今までの感覚的なものだけではなく、定量的な判断を取り入れて、マーケティング内だけで決定、完結できるようにしていきたいのです。

彌野氏:一番最初に顧客を理解すると、どういうトーンがいいのかわかり、仮説でいくつか制作します。関わるスタッフの意見を元にこれをやると、意見が割れたときに時間がかかりますし、面倒になります。そのため、すぐにテストにかければ数字が物語り、一番いいのを選べるわけです。ただし、ここで重要なのは、たとえば最初に仮説で作ったものの中での最上でしかないので、最高かどうかはわかりません。そのため、さらに改善していくというプロセスがそのうえに走るわけです。このプロセスを何度も回していくことが重要でしょう。

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