Doherty氏によれば、TrueNorthの主な有用性は人間や動物とほとんど同じように自律的に物事を理解できるという点にあり、それゆえコンピューティングを根本的に変える可能性があるという(同氏の会社はIBMと取引関係にあるわけではない)。
Doherty氏はフォン・ノイマン型の性質を持たないこの新しいアーキテクチャを称賛しているが、その主な理由は、従来のシステムで複雑な処理に必要とされた膨大な計算負荷が不要になることだ。たとえば、現在のマイクロプロセッサを搭載したロボットが柱に向かって移動する場合、衝突を避けるには、画像を処理して、膨大なコンピューティングリソースと電力を利用することになる。一方、シナプティックチップを使ったロボットであれば、人間と同じように柱を感知して衝突を回避できるだろう。
「われわれ人間も、感覚がなければこの世界を動き回ることはできないはずだ。こうしたデバイスは、(いつの日か)人間が動き回る(のと同じ)ように、映像、におい、視界、音声を利用して、周りの世界を認知する(ようになる)」(Doherty氏)
IBMは、TrueNorthのエコシステム(カスタムのプログラミング言語を含む)をまず大学向けに提供し、その後法人顧客に提供したい意向だとModha氏は言う。Doherty氏は、DARPAがこのプロジェクトに投資していることをふまえて、今後予測される危険を評価するための新しいタイプのシステムに、政府がこの技術を導入するとも予測している。
Doherty氏は、将来的にこの技術がロボットに組み込まれれば、自律走行車の稼働、Amazonの倉庫での作業、家庭におけるセキュリティの確保が支援されると考えている。
研究開発に年間60億ドルを費やしているIBMにとって、これは過去数年のうちに始まった大規模コンピューティングプロジェクトの1つにすぎない。2011年に、同社のスーパーコンピュータ「Watson」が米国のクイズ番組「Jeopardy」の世界チャンピオンを打ち負かしたのは、コンピューティングの性能を知らしめる印象的なできごとだった。「Jeopardy」では、あいまいで多義的な情報を大量に分析しなければならないからだ。
Watsonは、強力なフォン・ノイマン型コンピュータの最高の例だが、「私が知っているどんな家庭よりも多くの電力」を消費するとDoherty氏は述べる。
それほどの処理能力を備えているWatsonでさえ、シカゴの空港に関する問題への回答には苦しんだ。「カテゴリは米国の都市で、(問題は)『その都市で最大の空港は第2次世界大戦の英雄にちなんで名付けられ、2番目の空港は第2次世界大戦の戦いにちなんで名付けられた』だった。人間の参加者2人は、オヘア(空港)とミッドウェー(空港)を思いついて『What is Chicago?(シカゴとは)』と書いたが、Watsonが返したのは『What is Toronto???(トロントとは)』という誤答だった」。IBMは当時のブログにこう記している。
シナプティックチップであれば、この問題が空港に関係していることや、どの都市が取り上げられているかを、ほとんど問題なく認識できただろう、とDoherty氏は言う。
SyNAPSEプログラムでもう1つ重要な点は、IBMがこの新しいアーキテクチャの一般公開を決定したことだ。「真の奇跡は、これが次の世代における(Microsoftの共同創設者Bill)Gates氏や(Appleの共同創設者Steve)Wozniak氏に対して公開されることだ」(Doherty氏)
IBMがこの新しいチップを市場に提供するかどうか疑問視する声もあるが、Doherty氏はTrueNorthがその期待を裏切らないと信じている。「これは第2世代だ。いちかばちかの賭けではない」(Doherty氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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