組織の透明力

リーダー不在で数万匹が整然と動く--昆虫の驚異に学ぶ組織を動かすシンプルなルール - (page 3)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年11月21日 07時30分

昆虫の深遠なる知恵を、人間の組織に生かそう

 さてここで、人間の組織に視点を戻そう。もちろん、人間と昆虫では、その個体の機能はまったく異なっている。その最たるものは人間のもつ「巨大脳」だ。ニューロンの数で比較すると、人間の脳が約1000億個あるのに対して、昆虫はわずか約100万個しかない。

 その代わりに昆虫は、脳以外の頭部、胸部、腹部にある神経節も動員し、分散型の情報処理スタイルを築き上げた。昆虫が頭部を切断されても動き続けるのはそのためだ。

 昆虫の脳が「脳と神経節が連携する分散型の情報処理システム」なのに対して、人間の脳は「大容量の大脳を頂点とする、階層型の情報処理システム」なのだ。脳の特性は、その生物の戦略を写す鏡となる。その構造ゆえに、人間は中央統制や複雑さを志向し、昆虫は分散処理でシンプルさを志向する生き物と言えるだろう。

 不確実性の時代、僕たち人間は、もとより得意としてきた中央処理型の利点を生かしつつも、得意ではない分散型のメカニズムを学び、それを組織運用に取り入れることが大切だ。人間組織に昆虫の知恵を取り入れるとどうなるか。分散型組織を有機的に機能させるためのエッセンスを考えてみたい。

  •  ミッションとビジョンを浸透させ、組織の原動力を創る
    分散型組織で最も大切なことは、構成員である社員が使命と目標を共有することだ。ミッションとは「何をすべきか」を、ビジョンを「どこに向かっていくか」を共有するもので、これがない組織は、根っこのない幹になってしまう。ミッションとビジョンは、分散型組織において、最も根幹をなす原動力となる。

  •  複雑なマニュアルによる統制から、シンプルな行動原則へ
    先の読めない時代、社員の行動を事細かに規定したマニュアルによる統制では、彼らの臨機応変な行動を大きく制限してしまう。社員が自律的に動く組織になるために、シンプルな行動原則である「価値観」「役割」「ルール」を共有することだ。価値観は「どういう価値を創造すべきか」という共通認識で、現場社員の意思決定の基準となる。役割は「その社員がどういう役割を担っているか」を、ルールは「しなくてはいけないこと、してはいけないこと」を明確にするものだ。これらをいかにシンプルに昇華させられるか、僕たち人間はハチやアリのルールから学ぶ必要がある。

  •  多様性とコミュニケーションにより、イノベーションを創出する
    不確実な時代には、長期的な戦略よりも、環境変化に即応したイノベーションが重要だ。社員の多様性を重んじ、社員間、さらには社外との人的なコミュニケーションを促進すること。そのために社内の透明化を図り、社員が意思決定に必要な情報を共有すること。多様性とコミュニケーション、そこから発生する学びこそ、イノベーションを創出する推進力となるはすだ。

  •  統制型リーダーシップから、オープンリーダーシップへ
    リーダーを持てること。これが人間と昆虫のもっとも大きな違いだろう。人間組織においてリーダーシップの役割は極めて重要だ。ただし、分散型組織におけるリーダー像は、統制型組織と大きく異なる点に注意したい。権力が分散した組織においては、社員のコントロールができないからだ。社員の自主性を生かし、彼らの力が最大限に発揮されるようにバックアップするリーダーシップが重要となる。この点については「統制がきかない時代のリーダー像 ? 鍵を握るオープンリーダーシップ」に詳しく記載したので、参考にしてほしい。


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