第1回では、アーティストのソーシャルメディア活用について、また2回目にはファンコミュニティの形成について考察を行った。自らメディアを活用してファンとコミュニケーションし、ファンの濃度ごとに階層化されたファンコミュニティを形成してマネタイズするアーティストの姿からは、レーベルやプロダクションに所属するという形に拠らない活動の在り方が見えてくる。それは、必要に応じてアーティスト活動の一部をアウトソースしながら進んでいくアーティスト活動であり、いわば“プロジェクト化”するアーティスト活動と言えるかもしれない。
レゲエ・ボーカリストのMaxi Priestは、あるインタビューでレゲエシーンの若いアーティストに向けて以下のようなことを語っている。
America and the hip-hop scene has been massively successful because they have lawyers, accountants, and business people as their peers — they haven't had to go to another race of people for information," said the 52-year-old Priest, who added: "They work with their own brethren who have gone to university to do marketing or law and all the bits and pieces that build a good business, so they can sit down and casually put together a plan as to what they are going to do with their music. When you put all those pieces together you have a solid business and reggae needs much more of that.
アメリカと、ヒップホップシーンは、自分達の仲間に弁護士、会計士やビジネスマンがいることで、大きな成功をおさめている。彼らは、専門的な知識や情報を得るために他の人種に助けを求める必要が無い。また、マーケティングや法律を学ぶために大学に行った仲間と仕事をし、そうしたことが良いビジネスに繋がっている。彼らは自らの音楽ビジネスについて気軽に話あうことが出来る。そうした協力を得て、アーティストはそのビジネスを強固なものにできる。レゲエシーンにもこうしたことが必要だ。
HIP HOPシーンでは、アーティストを中心とした仲間のコミュニティに、さまざまな分野の知識や情報を持った人が集まっており、そうした仲間のコミュニティがアーティストのビジネスを強固なものにしているという。アーティスト活動は、作品の制作のみならず、予算の管理、マーケティング、法務的な対応などさまざまな活動要素からなっているのは言うまでもない。これまで、そういった機能はレコードレーベルやプロダクションといった組織が果たしていたが、組織に属さないアーティストであっても、コミュニティ内で仲間の協力が気軽に得られれば、そうしたサポートによってビジネスを強固なものにしてくことは確かに可能だろう。
インターネットとそこでのさまざまなサービスの浸透によって、企業は専門性の高い業務を不特定の誰かにアウトソースする「クラウドソーシング」を進めている。全てのプロセスを自社内で完結させるよりも、社内外問わず不特定多数の人間と共同で進めることで、効率のアップとともにアウトプットされるもののクオリティ向上をも望める。
HIP HOPシーンでは、アーティストを中心とした仲間のコミュニティの中で、専門性の高い業務について分担して活動を共同で進める、いわば「コミュニティ・ソーシング」ともいえるプロセスが存在し、活動の効率化とともに作品のクオリティ向上につながっていたのだろう。こうした「コミュニティ・ソーシング」という形は、これからのアーティスト活動にとって参考となるものだ。レーベルやプロダクションに所属することで、アーティスト活動に必要な機能の全てをそうした組織に委託するのではなく、自身は独立した立場で活動を行いつつ、必要に応じて専門性を持ったエージェントや、仲間やファンを含めた不特定の個人へ、業務を委託しながら活動を進めていくという姿は決して非現実的なものではない。
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